141 / 1,198
第四章 魔動乱編
137話 ルリーのお兄さん
しおりを挟む対峙している、ダークエルフ……それは、ルリーちゃんのお兄さんだ。
まさか、こんなところでルリーちゃんのお兄さんに会えるなんて……そもそも、兄弟がいたって聞いたこともなかったな。
ただ、顔はルリーちゃんとそっくりだけど、その中身は違う。少なくとも……
「……今の言い方だと、ルリーちゃんがこの学園に入ったのが間違い、って聞こえるんだけど?」
正体を隠したままとはいえ、人間と歩み寄ろうとしてくれるルリーちゃん。対して、お兄さんは人間と歩み寄る必要なんてない、と考えている。
考えが、真逆だ。
「実際にそう言っている」
「!」
そして、お兄さんもそれを肯定している。
ルリーちゃんのことを想ってくれてはいるようだけど、その行動を認めているわけでもないのか?
……と、いうか。
「だったらなんで、ルリーちゃんが魔導学園に入学するのを、黙って見送ったのさ」
人間と歩み寄る必要がないと考えるなら、なんでわざわざルリーちゃんを、魔導学園に送り出したのか。
その疑問が浮かぶ。それをぶつけると、お兄さんは軽く嘆息して……
「仕方ないだろう。あいつは、オレのことを死んでいる、と思っているからな」
「……へ?」
返ってきたのは、思ってもいない言葉だった。
死んでいると思っている……だって? それって、いったい。
私がその理由を聞こうとするよりも先に、お兄さんが口を開くのが早かった。
「お前は……エラン・フィールドだと言ったな」
「え? あ、はい」
先ほど自己紹介をした。たった一度だけで、名前を覚えてくれたのか。
なんだろう、やっぱり話し合いができる相手なのだろうか……
「そうか、お前だったか……
"オレの魔獣"を倒したのは」
「……は……?」
なんとか平和的な話し合いに持ち込んで、人間はいいものだと思ってもらえないものだろうか……そう、思っていた。
その気持ちは、まっさらになった。だって、あまりにも意味の分からない言葉を、投げかけてくるもんだから。
なんで今、魔獣の話が出てくる? というか、オレの魔獣って言った? どういう意味だ?
私が倒した魔獣なんて、一体しかいない……
「おい、なんだその呆けた顔は。まさかまだ、気づいてないのか?」
「い、や……だ、って。私が、倒した、魔獣なんて……学園に現れた、魔獣騒ぎの、あいつしか……」
「なんだ、わかってるんじゃないか」
……それが、答えだった。
「……っ」
「そうさ、あの魔獣を送り込んだのは、オレだ」
まるで、挨拶でもするかのような、あっさりとした告白……聞き間違いではないのかと、思いたくなる言葉。
……学園の森に現れた、あの魔獣。それをしたのが、ルリーちゃんのお兄さん……?
いや、いやいやいや。
「そんな、うそ、だよ……だって、あなた、ルリーちゃんの、お兄さん……」
「オレとお前は初対面だ。そんな相手のことを、自称友達の身内ってだけで、信用するのか?」
「っ」
確かに……私は、この人のことをなにも知らない、けど。
ルリーちゃんのお兄さんだからって、全面的に信用する……のは、間違っているかも、しれないけど。
それでも……なにかの間違いだと。冗談だと、言ってほしい。
……けど、お兄さんは自分の言葉を、訂正することはない。
ただ……もし本当に、あの魔獣を送り込んできたのが、お兄さんだったのなら……
「ルリーちゃんを……妹を、殺そうとしたの!?」
あの魔獣は、執拗なまでにエルフを狙っていた。そして、あの場にいたエルフはルリーちゃんのみ。
現に、私が間に合わなかったら、ルリーちゃんはあの魔獣の餌食になっていたかもしれない。
そんな危険な魔獣を、送り込んできたって言うなら……
「答えて!」
「もちろん、オレはルリーを殺すつもりはない。そんなわけないだろう、今やたった一人の家族なんだぜ?
あれは、単なる事故さ」
「事故……」
あれが、事故……本当に? それが本当だとして、そんなに落ち着いているのはなぜ?
本当に、ルリーちゃんを殺すつもりはなかったの?
……ともあれ、だ。
「あの魔獣を手引きしたのがあなたなら、話をしてはいさよなら、ってわけにもいかない。
一緒に、来てもらいます」
魔獣騒ぎに関しては、今も調査中だ。そして目の前にいるのは、重要参考人……ここで逃がすわけには、いかない。
大丈夫、この人は強いけど、ここじゃあ逃げ場はない。それに、派手に騒げば近くにいる先生やゴルさんたちが駆けつけてくる。
私の言葉を受けて、お兄さんは素直に観念したかのように、笑って……
「く、くく……」
わらっ……て?
「なにが、おかしいの」
「くく、いやぁ、少しおかしくてな。
事の重大さが見えてないようで」
事の重大さ、だって?
なにを言っているんだ、捕まりたくないからって適当なことを言っているのか?
いや、そもそも捕まりたくないなら、自分がやったって暴露しなければいい。それが本当でも嘘でも、魔獣騒ぎに関わっているという時点で取り調べは免れない。
そう、ルリーちゃんのお兄さんとはいえ、重要参考人なのだから……
……ルリーちゃんの、お兄さん?
「あ」
「ようやく、気づいたか」
事の重大さ……ルリーちゃんのお兄さん……そうか、そういうことか。
このままお兄さんを連れていけば、取り調べは免れない。そうなれば当然、ルリーちゃんとの関係性も明らかになる。
……ルリーちゃんのお兄さんは、ダークエルフだ。そして、その妹であるルリーちゃんは……いったい、どうなる?
「お兄さんの身元を明らかにしたら……ルリーちゃんがダークエルフってことも、バレる?」
「そういうことだ」
なんてことだ……そうなったら、最悪だ。
ルリーちゃんは、自分がダークエルフだってことを隠している。それは、この世界でのダークエルフへの扱いがひどいからだ。
そんな中で、ルリーちゃんがダークエルフだと明かす行為は……避けたい。すでに正体を知っているナタリアちゃんはともかく、他の子がどんな反応を示すか。
クレアちゃんたちは、大丈夫……と、思いたい、けど……
だったら、この人にルリーちゃんとの関係を隠してもらって……ダメだ、そんな約束を守ってもらえるとは、思えない。
それに、私でさえルリーちゃんにそっくりだと感じたんだ。いくらルリーちゃんは常にフードで髪を隠しているとはいっても、お兄さんの顔を見ればルリーちゃんを連想してしまう人がいるかもしれない。
あのフードは魔導具で、認識をずらす効果を持っているらしいけど……そもそも疑いを持たれて、フードを脱げと言われたら。疑われただけで、アウトなのだ。
「さあ、どうする? オレはどちらでも構わないが……ルリーの、お友達さん?」
「くっ……」
この人、まさか……ルリーちゃんの正体を明かされたくないって私の気持ちを盾にしてる!? あんな騒ぎを起こしたのも、私相手ならば捕まらないとたかをくくって……
……いや、そもそも対峙したのが私以外なら、意味のない行動だ。
じゃあ……なんなんだ、この人はなにを考えている!?
そもそもなんで、あんな騒ぎを起こしたんだ!
13
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる