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第四章 魔動乱編
190話 きっと大丈夫
しおりを挟む「ふわぁ」
「エランちゃん、大丈夫? 疲れてる?」
「んー、そんなことはない……って自信満々には言えないかなぁ」
平和な数日が過ぎた頃のお昼休み、私は大きなあくびをしていた。これは、寝不足から来るものだろう。
私の隣に座っているクレアちゃんは、心配そうに声をかけてくれる。
疲れてる……と、やっぱり他の人にもそう見られてるかぁ。
日々の授業……はみんなと同じことだけど、それに加えて生徒会のお仕事や、ダルマスとの訓練。もちろん自分の訓練もあるし、友達付き合いも不意にはできない。
ここ最近、わりと忙しかったりする。
「忙しいんですか? 私、心配です」
「はは、ありがとうルリーちゃん。
確かに最近、生徒会は忙しいけど」
「生徒会の業務も、エランくんがそうも気を張る必要はないのではないかい?」
「ゴルさんたちも、休んでいいとは言ってくれるんだけどねー」
生徒会の仕事は、学園に関するもの。それが忙しくなるってことは、そう遠くないうちに学園で大きな行事があるってことだ。学園祭ってやつをやるらしい。
どうやら、生徒たちがクラスごとに出店を出したりして、学園内でお祭りのようなことをやるみたいだ。
それを聞いてから、私はわくわくが止まらなかった。学園でのお祭り……それは、なんと心躍る言葉だろうか。
「なら少しは、休むべきではないかな? 倒れたら元も子もないだろう」
「大丈夫! 私、結構丈夫だから!」
「……そういった疲労は、体力の有無には関わらないと思うが」
でもまあ、ナタリアちゃんの言う通りかも……学園祭までまだ時間はあるんだし、今から楽しみにしすぎていても、身が持たない。
それに、学園祭は魔導大会の後だ。あんまりそっちにばかり集中しても、いられないよね。
私は、ご飯を一気にかきこむ。
「おぉ」
「ごくっ……はぁ。
なんか、みんなに心配させ過ぎちゃうのも悪いし、ほどほどに休むことにするよ」
「それがいいです!」
「そういえば、この間さぁ……」
とりあえず難しいことを考えるのはやめて、みんなで談笑することにする。こうして落ち着いて話す空間は、やっぱり好きだ。
それから、お昼休憩の時間の終わりも迫り、さて教室に戻ろう……と思っていたところに……
「あ、あの」
ふと、誰かの声が降ってきた。
誰だと思い、顔を上げると……そこには、悪いけど知らない子が三人、立っていた。
なんだろう。なんか不安そうな表情を浮かべているし、いい話ではなさそうなんだけど。
「えっと、なにか?」
なにかを話そうとしているけど、なかなか切り出さない女の子たちに、ナタリアちゃんから切り出す。
それを受けて、女の子の一人が、前に出る。
うん? なんだかこの子、見覚えが……
「ノマちゃんの、お友達?」
「! はい」
そうだ、以前ノマちゃんのクラスを覗きに行った時に、ノマちゃんが仲良さそうに話していた子だ。ウサギの耳を生やした、獣人の女の子。
後ろの二人も、同じく仲良さそうにしていた女の子たちだ。
ただ、知っているのは多分、私が一方的にだろう。今日まで、話したこともない。
もちろん、話しかけてくれるのは誰でもウェルカムなんだけど、表情がちょっと暗いのが気になる。
「えっと……フィールドさん、ですよね。エーテンさんと同室の」
「うん、そうだよ」
エーテンさん……ノマ・エーテンの同室だと問われて、私はうなずく。話は、どうやらノマちゃんに関することらしい。
ただ、それにしてはノマちゃんの姿が見えない。ノマちゃんのことだ、自分の話をするとなったら自ら来そうだけど。
それとも、ただいないだけか。
「あの……エーテンさんは、今日はお休みなんですか?」
「……へ?」
なにを聞かれるのか。そう考えていた私は、その内容に間の抜けた声を漏らしてしまう。
この子は、なにを言っているんだろう? ノマちゃんは、今日は休みかって?
「いや、今日もちゃんと、登校したはずだけど?」
今日は休みなのかどうか……その答えは、ノーだ。ノマちゃんは、今日も私と一緒に、部屋を出た。
ちゃんと、一緒に登校……は、そういえばしていないけど……
「その聞き方……ノマくんは、教室に来ていないのかい?」
「……はい」
ナタリアちゃんが続けて聞いてくれて、女の子が答える。この答えに、私は愕然としていた。
ノマちゃんが……教室に、行っていない? いや、そんなはずは……
でも、この子たちがわざわざ嘘をつく理由も、ない。
「エランちゃん、ノマちゃんは……」
「……いっつも、ノマちゃんと一緒に部屋を出て、学園まで登校する。教室の前で、別れるんだけど……
今日は、ノマちゃん用事があるからって、部屋を出た後に急いでどっか行っちゃって」
そうだ、今日もいつも通り、ノマちゃんと部屋を出た。でも、その後はいつもとは違った。
いつもなら、二人で学園内まで登校する。でも今日は、ノマちゃんが用事があるからと、先に行ってしまった。
その用事が、なんだったのかはわからない。でも、笑いながら、走っていったのは覚えている。
「エランさんと別れたあと、ノマさんは教室に行ってない……ってことですか?」
ルリーちゃんの言葉は、私たち全員が思ったことだろう。
ノマちゃんは、用事でどこかに行き……そのまま、教室には行かなかった。
これが、なにを意味するのか……
「エーテンさんは、いつも元気で……昨日も、そうでした。
これまで休んだことなんてなかったので、心配で……」
「……」
ただ、友達が具合が悪いから休んだだけかもしれない……普通なら、そう考える。
でもノマちゃんは風邪とは無縁そうだし、もし本当に風邪だったとして……それを、この子たちは心配して、私に話しかけてくれた。
でも、結果は……登校したはずのノマちゃんが、音沙汰なくどこかへ消えた、という事実のみであった。
「ノマちゃん、どこに……」
「だ、大丈夫なんでしょうか? その、その用事の先で、変なことに巻き込まれたり……」
「落ち着いて。仮にそうでも、ノマくんならトラブルなんて難なく切り抜けるさ」
「でも、現に学園に来ていないわけだし……」
消えたノマちゃんの行方が、わからない。いったい、どこに行ったんだ?
クレアちゃんの言うように、ノマちゃんがなんらかのトラブルに巻き込まれた可能性はある。でもナタリアの言うように、ノマちゃんなら大抵のトラブルは切り抜けられる。
でもルリーちゃんが心配するように、ノマちゃんは来ていない……
……結局、ここでいくら話しても、答えが出るはずもなくて。
各々が心配事を胸に抱えたまま、教室に戻ることになった。
考え過ぎだ……悪いことばかり、考えてしまう。
どうせ、部屋に帰ればわかることだ。今日も生徒会の仕事があるから、帰ったらノマちゃんも帰っているだろう。
今日なにがあったか、その時聞けばいい。もしかしたら。ただのサボりかもしれないし、ね。
「……大丈夫だよね」
……この時は、まだ楽観的に考えていた。もしも、私がもっと早く部屋に帰っていれば、あんなことにはならなかったのかもしれない。
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