史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

191話 行方知れずのノマ

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「おい」

「…………」

「おい、エランどうした」

「はっ」

 話しかけられ、私ははっと我に返る。多分、何度も話しかけてくれていたんだ。
 ここは、生徒会室……今は放課後で、今日は生徒会の仕事があるからダルマスとの訓練はなし。私は、生徒会メンバーとして、ここにいる。

 その私に話しかけてくれたのは、ゴルさんだ。ゴルさんは、私のことを見つめている。熱い視線で。

「や、やだなぁ会長ったら。私のこと、そんな真剣な眼差しで見て……」

「茶化すな。お前の様子がおかしいのには、気づいている」

 うっ……ゴルさんは鋭いとは知っていたけど。私がここに来てまだ数十分と経っていないのに。
 私の様子がおかしいと、指摘してきた。

 これはとても、ごまかせる雰囲気じゃない……

「そうだよー、なーんか心ここにあらずって感じでさ」

「ゴルっちじゃなくても、気づいたわ」

「タメリア先輩、メメメリ先輩」

 ゴルさん以外にも、生徒会メンバーに指摘される。
 私、そんなわかりやすいのかなぁ?

 心ここにあらず、か。言い得て妙ってやつだな。
 生徒会室にいて、生徒会の仕事をしながらも、私は今、別のことを考えていた。

「なにか、悩み事ですか?」

 私の肩に手を置いて、優しく聞いてくれるのはリリアーナ先輩。やっぱり優しいなぁ。
 ゴルさんの婚約者で、それが形ばかりの婚約でないのはリリアーナ先輩の態度を見ていればわかる。

 少なくとも、リリアーナ先輩からゴルさんへの気持ちは本物だ。そんな彼女は、ゴルさんのことを除けば真面目で頼りになる。

「実は、友達が学園を休んでいるみたいで」

「あら」

「私と同じ部屋の子なんですけど、一緒に部屋を出るところまでは確認したんです」

 こういうのは、溜め込んでいてもよくない。私は、ノマちゃんが学園を休んでいることを、話した。
 ただ休んでいるだけなら、風邪とかの可能性もあるけど……他ならぬ、同室の私が、部屋を出るまでは一緒にいたのだ。

 それを聞いて……

「そうですか……心配ですね」

 リリアーナ先輩は、私の気持ちを汲んでくれたかのように、うなずく。
 登校したはずの友人が、登校していない……心配であり、不気味でもある。

「気持ちはわからんでもないが、それで仕事に支障をきたすなど……生徒会メンバーとしての自覚が足りてないんじゃないか?」

「……ごもっとも」

 私に厳しめの言葉をくれたのは、シルフィドーラ……シルフィ先輩だ。
 こんな厳しいのは、生徒会メンバーとして誇りを持っているから。そしてもう一つ理由がある。

 シルフィ先輩は元々、私をあまり良くは思っていなかったが……以前、私が床を突き破って顔だけシルフィ先輩のクラスにこんにちはして以来、私への当たりが強くなった。
 いやむしろ逆に話しかけられなくなったというべきか……口を開けば鋭い言葉が飛んでくるのだ。話しかけられないのも話しかけられるのもいい意味ではない。

 あとなんか、鋭い目を向けられる。

「こらシルフィ、そんな言い方はないだろう」

「……すみません」

 先輩に注意されると、謝るんだよなぁ……納得はしていないみたいだけど。
 まあ、クラスにこんにちはの件があったんだから、恥ずかしいと思うのはわかるし、それで当たりが強くなるのもわかる。

「友人が気になるか」

 と、そこへ今まで黙って話を聞いていたゴルさんが話しかけてきた。

「は、はい。もしかしたら、もう部屋に戻ってるのかもしれないかなとか、いろいろ考えて……」

「なら、今日はもう帰れ」

「え」

 突然の、戦力外通告……そりゃそうだよな、仕事中にボーっとしていた私なんて。
 自分の無力さにがっくりしていると、隣からくすっと笑い声が聞こえた。

「ゴルドーラ様は、いつも言葉が足りないんですから」

「え?」

「友達が心配なら早く帰って確認してやれーってことだよな、ゴルっち」

「やかましい」

 室内が、笑い声に包まれる。リリアーナ先輩に、タメリア先輩やメメメリ先輩は、ゴルさんとの付き合いも長いのだろう。だから、言葉の裏にある本音に気づいた。
 あっけにとられているのは、私とシルフィ先輩だけだ。

 でも……今の言葉が嘘じゃないのは、ゴルさんの態度を見ていれば、わかる。
 無愛想でも、心配してくれたってことかな。

「まだ、帰ってるかわからないけど……でも……」

「えぇ、行きたいんでしょう」

「そんなボーっとした態度でいられても、こっちが迷惑だ」

「お前はまたそんな言い方をする」

 みんなには申し訳ないけど、すでに私は帰宅の準備を進めていた。みんなも、それを止める様子はない。
 どうしてこんなにも気になるのか、私にもわからないけど……今は一秒でも早く、帰って確認したい。

「みなさん、ごめんなさい! この埋め合わせは必ず!」

「おぉ」

 生徒会室を飛び出した私は、急いで寮へ……自分の部屋へと、走る。廊下を走るなんていけないことだけど、今だけは見逃してほしい。
 途中、知り合いにもあったけど、話もそこそこに走った。何事かと、見てくる人も少なくない。

 走れば、わりとすぐだ。女子寮を目指して、自分の部屋を見る。放課後だから、帰宅中の生徒も結構いる。
 階段を飛ばし飛ばしで駆け上がって、自分の部屋の階にたどり着き……自分の部屋の前に、立つ。

 なんでだろう、心臓の音がうるさい。まだ、ノマちゃんが帰ってきていると決まったわけでも、ないのに。
 そっと、ドアノブに手を伸ばす。鍵は……開いている。
 出るときには閉めた。つまり、部屋の中に誰かいて……それは、ノマちゃん以外にはありえない。
 そのはずだ。

「ノマちゃん!」

 私は、ドアを勢いよく開けて、中に呼びかける。部屋の鍵が開いていたんだ、中ではノマちゃんが迎えてくれると思っていたけど……返事は、ない。
 それどころか、暗い? 今はちょうど夕日も落ちてきている時間帯だけど、こんなに部屋の中が暗くなるものだろうか?
 それに、なんか変なにおいもする。

 確認すると、多分カーテンが締まっている。そのせいで、外の光が遮断されているんだ。
 それに、多分窓も。だからにおいまで、部屋の中に閉じ込められていた。

 真っ暗、とはいかなくても、暗い部屋。それが、私が扉を開けたことで、外の光が部屋の中に届く。
 ……部屋の中が明るくなり、見て、しまった。





「……え?」

 白い壁で覆われた部屋の中は、赤黒く染まっていて……それが血だとわかるのに、そう時間はかからなかった。へんなにおいの正体も、これだ。
 ゆっくりと、視線を動かす……部屋の壁は、天井は、血に濡れている。ならば、それは誰の血だ?

 考えるまでもなく……答えは、そこにあった。だって、そこには、壁に持たれて、身体中から血を流している……

「ノマ……ちゃん……?」

 行方知れずだった、ノマちゃんの姿が……あったのだから。
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