史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
198 / 1,138
第四章 魔動乱編

194話 込み上げてくる怒りと悲しみ

しおりを挟む


 私の大切なものに、手を出したルラン……その事実に、怒りが込み上げてくる。
 けど、ここで怒ってもなんにもならない。私は、何度か深呼吸をする。

「……ふぅ、落ち着け私。
 あの、"魔死事件"の被害に遭ったなら、なんでノマちゃんは生きて……あ、もちろん生きててくれて嬉しいんだよ!」

「ふふ、わかってますわ」

 うぅ、言葉って難しいな。ノマちゃんはわかってくれてるけど。

「それなんだがな……わからないんだ」

「……え?」

 これまでの"魔死事件"の被害者は、全員が死んでいた。だから、これが"魔死事件"だとわかったとき、てっきりノマちゃんも、と……そう思ってしまった。
 結果として、ノマちゃんは生きていてくれた。それは嬉しい。

 ……でも、ノマちゃんが生き延びた理由が、わからないのだという。

「それ、どういう……」

「お前が気を失ってから、すでに何時間も経っている……憲兵にも連絡し、調べてもらった。
 体の中がぐちゃぐちゃで、魔力が暴走している……異常な状態だった。それは確かなのに、エーテンはふと目を覚ました」

 ノマちゃんの体を調べ、それは"魔死事件"の被害者と一致。魔力が暴走して、体の中がぐちゃぐちゃになって……
 そんな状態で、いきなりノマちゃんは目覚めたのだという。

 先生もその現場に居合わせていて、ひどく驚いたそうだ。

「その後、本人に聞き取りもして、再度調べた。そうしたら……
 異常がなかったんだよ、さっきまでぐちゃぐちゃだった体の中が」

「……え?」

 ノマちゃんを発見して、すぐに調べた時は、体の中はぐちゃぐちゃだった。でも、なぜか目覚めたノマちゃんを調べたら、今度は異常がなかった?
 そんなこと、あり得るのだろうか?

 ……ここで笑っているノマちゃんが、それを証明している。

「わからないことだらけだ、エーテン本人は記憶がないらしいし。
 より詳しく調べるはずだったんだが……エーテンは、フィールドが目覚めるまでここから動かない、と聞かなくてな」

「あはは……」

「そ、そっか、なんか悪いことを……
 え、記憶が、ない!?」

「え、えぇ。今朝、フィールドさんと別れて以降の記憶が、おぼろげで」

 なぜか健常な体に戻っていたノマちゃん、そのノマちゃんは今朝以降の記憶がない……
 どうしてあんなことになったのか、誰かに会ったのか……それは、本人にもわからないってことだ。

 ただ、あの血の量……あんまり覚えてないけど、ちょっと渇いているものもあった。犯行は、部屋であったのに間違いはないだろう。私が帰るより結構前に起こったことも。

「その件も含めて、エーテンには詳しい検査が必要だ」

「そんな心配なさらなくても大丈夫ですわよ。
 ほら、こーんなに元気なのですから。ふんす」

「いや、そういうわけにはいか……」

「ダメだよ!」

 自分は元気だと、力こぶを作っているノマちゃん。確かに、見た分には元気だ……少なくとも、今は。
 でも、それは今で……今後、どうなるかわからない。

「ふ、フィールドさん?」

「ダメ……ちゃんと、検査してもらって。また、もしまた、あんなことになったら……私……」

 自分でも、声が震えているのがわかる。私、こんなに怖がりだったっけ。
 でも、仕方ないじゃないか……ノマちゃんのあの姿が、頭にこびりついて、離れない。大切な人が、また死んじゃうのは、もう嫌だよ……

 ……あれ……"また"って、なんだろう……

「……ぁ」

「ごめんなさい。そうですわよね……これ以上心配をかけないために、ちゃんと検査、受けますわ」

 ふわっと、柔らかい感触があった。ノマちゃんの胸に、抱きしめられていた。
 自分でも、なんだか恥ずかしいことを言ったんじゃないかって自覚があったけど……そんなもの、どうでもよくなった。

 あたたかい……確かに、生きてる……

「ふふ、まさかこんなに心配してくれるとは」

「だってぇ……」

 本当に、死んだかと思っていたんだ。あんな、血がいっぱい出て……
 ノマちゃんは、原因はわからないけど無事だった。"魔死事件"の被害者で、唯一の生存者……ってことだ。

 どうして無事だったのか。どうして記憶がないのか……そのあたりのことを、詳しく調べられることだろう。

「じゃ、フィールドも起きたことだし……エーテン、そろそろ」

「はい」

「なんか、ごめんね私が、待たせちゃったみたいで」

「いえ、フィールドさんが目覚めるまで動かないと言ったのは、わたくしのわがままですから」

 私が目が覚め、無事を確認したことでノマちゃんは、先生に連れられて部屋を出ていく。
 私がノマちゃんの心配をしていたように、ノマちゃんも私の心配をしてくれていたのだろう。本当なら、自分が一番、自分の体のことを知りたいはずなのに。

 部屋を出た先生と入れ替わりに、保険医の先生が入ってきた。

「さて、フィールドちゃん。今日の寝泊まりについてなんだけど……
 あなたの部屋はその……今、他の先生や憲兵の方が調べてるから」

「あ……」

 保険医の先生は、今私が部屋に戻れないことを伝えてきた。
 それはそうだろう。私の部屋の状態が、私の見た記憶の通りなら……今頃は、室内を調べている頃だ。

 そうじゃなくても、あんな凄惨な部屋で眠れるほど、今の私は強くない。

「数日くらいなら、この部屋を使ってもらっても構わないけれど……」

「な、なら! 私の部屋に、来てください!」

 はいっ、と手を上げて意見を話すのは、ルリーちゃんだ。
 以前、ルリーちゃんの部屋でお泊まりをしている。なにより、ルリーちゃんにナタリアちゃん……二人に、聞いてもらいたいこともあった。

「私の部屋でも、いいわよ。同室の子も、理由を話せば納得してくれると思うし」

「ありがとうクレアちゃん。
 でも、今回はルリーちゃんの好意に甘えるとするよ」

 窓の外は、すっかり暗くなっている。
 私はさっきまで気を失っていたから、あんまり眠くはない……でも、体力を回復させるために寝ないとだめだ、と先生に念押しされた。

 部屋のベッドを使わせてもらったお礼を言って、私は……ルリーちゃんと、ナタリアちゃんの待つ部屋へと、向かった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約破棄? 国外追放?…ええ、全部知ってました。地球の記憶で。でも、元婚約者(あなた)との恋の結末だけは、私の知らない物語でした。

aozora
恋愛
クライフォルト公爵家の令嬢エリアーナは、なぜか「地球」と呼ばれる星の記憶を持っていた。そこでは「婚約破棄モノ」の物語が流行しており、自らの婚約者である第一王子アリステアに大勢の前で婚約破棄を告げられた時も、エリアーナは「ああ、これか」と奇妙な冷静さで受け止めていた。しかし、彼女に下された罰は予想を遥かに超え、この世界での記憶、そして心の支えであった「地球」の恋人の思い出までも根こそぎ奪う「忘却の罰」だった……

なんか修羅場が始まってるんだけどwww

一樹
ファンタジー
とある学校の卒業パーティでの1幕。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

無能妃候補は辞退したい

水綴(ミツヅリ)
ファンタジー
貴族の嗜み・教養がとにかく身に付かず、社交会にも出してもらえない無能侯爵令嬢メイヴィス・ラングラーは、死んだ姉の代わりに15歳で王太子妃候補として王宮へ迎え入れられる。 しかし王太子サイラスには周囲から正妃最有力候補と囁かれる公爵令嬢クリスタがおり、王太子妃候補とは名ばかりの茶番レース。 帰る場所のないメイヴィスは、サイラスとクリスタが正式に婚約を発表する3年後までひっそりと王宮で過ごすことに。 誰もが不出来な自分を見下す中、誰とも関わりたくないメイヴィスはサイラスとも他の王太子妃候補たちとも距離を取るが……。 果たしてメイヴィスは王宮を出られるのか? 誰にも愛されないひとりぼっちの無気力令嬢が愛を得るまでの話。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

主人公は高みの見物していたい

ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。 ※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます ※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...