史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

194話 込み上げてくる怒りと悲しみ

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 私の大切なものに、手を出したルラン……その事実に、怒りが込み上げてくる。
 けど、ここで怒ってもなんにもならない。私は、何度か深呼吸をする。

「……ふぅ、落ち着け私。
 あの、"魔死事件"の被害に遭ったなら、なんでノマちゃんは生きて……あ、もちろん生きててくれて嬉しいんだよ!」

「ふふ、わかってますわ」

 うぅ、言葉って難しいな。ノマちゃんはわかってくれてるけど。

「それなんだがな……わからないんだ」

「……え?」

 これまでの"魔死事件"の被害者は、全員が死んでいた。だから、これが"魔死事件"だとわかったとき、てっきりノマちゃんも、と……そう思ってしまった。
 結果として、ノマちゃんは生きていてくれた。それは嬉しい。

 ……でも、ノマちゃんが生き延びた理由が、わからないのだという。

「それ、どういう……」

「お前が気を失ってから、すでに何時間も経っている……憲兵にも連絡し、調べてもらった。
 体の中がぐちゃぐちゃで、魔力が暴走している……異常な状態だった。それは確かなのに、エーテンはふと目を覚ました」

 ノマちゃんの体を調べ、それは"魔死事件"の被害者と一致。魔力が暴走して、体の中がぐちゃぐちゃになって……
 そんな状態で、いきなりノマちゃんは目覚めたのだという。

 先生もその現場に居合わせていて、ひどく驚いたそうだ。

「その後、本人に聞き取りもして、再度調べた。そうしたら……
 異常がなかったんだよ、さっきまでぐちゃぐちゃだった体の中が」

「……え?」

 ノマちゃんを発見して、すぐに調べた時は、体の中はぐちゃぐちゃだった。でも、なぜか目覚めたノマちゃんを調べたら、今度は異常がなかった?
 そんなこと、あり得るのだろうか?

 ……ここで笑っているノマちゃんが、それを証明している。

「わからないことだらけだ、エーテン本人は記憶がないらしいし。
 より詳しく調べるはずだったんだが……エーテンは、フィールドが目覚めるまでここから動かない、と聞かなくてな」

「あはは……」

「そ、そっか、なんか悪いことを……
 え、記憶が、ない!?」

「え、えぇ。今朝、フィールドさんと別れて以降の記憶が、おぼろげで」

 なぜか健常な体に戻っていたノマちゃん、そのノマちゃんは今朝以降の記憶がない……
 どうしてあんなことになったのか、誰かに会ったのか……それは、本人にもわからないってことだ。

 ただ、あの血の量……あんまり覚えてないけど、ちょっと渇いているものもあった。犯行は、部屋であったのに間違いはないだろう。私が帰るより結構前に起こったことも。

「その件も含めて、エーテンには詳しい検査が必要だ」

「そんな心配なさらなくても大丈夫ですわよ。
 ほら、こーんなに元気なのですから。ふんす」

「いや、そういうわけにはいか……」

「ダメだよ!」

 自分は元気だと、力こぶを作っているノマちゃん。確かに、見た分には元気だ……少なくとも、今は。
 でも、それは今で……今後、どうなるかわからない。

「ふ、フィールドさん?」

「ダメ……ちゃんと、検査してもらって。また、もしまた、あんなことになったら……私……」

 自分でも、声が震えているのがわかる。私、こんなに怖がりだったっけ。
 でも、仕方ないじゃないか……ノマちゃんのあの姿が、頭にこびりついて、離れない。大切な人が、また死んじゃうのは、もう嫌だよ……

 ……あれ……"また"って、なんだろう……

「……ぁ」

「ごめんなさい。そうですわよね……これ以上心配をかけないために、ちゃんと検査、受けますわ」

 ふわっと、柔らかい感触があった。ノマちゃんの胸に、抱きしめられていた。
 自分でも、なんだか恥ずかしいことを言ったんじゃないかって自覚があったけど……そんなもの、どうでもよくなった。

 あたたかい……確かに、生きてる……

「ふふ、まさかこんなに心配してくれるとは」

「だってぇ……」

 本当に、死んだかと思っていたんだ。あんな、血がいっぱい出て……
 ノマちゃんは、原因はわからないけど無事だった。"魔死事件"の被害者で、唯一の生存者……ってことだ。

 どうして無事だったのか。どうして記憶がないのか……そのあたりのことを、詳しく調べられることだろう。

「じゃ、フィールドも起きたことだし……エーテン、そろそろ」

「はい」

「なんか、ごめんね私が、待たせちゃったみたいで」

「いえ、フィールドさんが目覚めるまで動かないと言ったのは、わたくしのわがままですから」

 私が目が覚め、無事を確認したことでノマちゃんは、先生に連れられて部屋を出ていく。
 私がノマちゃんの心配をしていたように、ノマちゃんも私の心配をしてくれていたのだろう。本当なら、自分が一番、自分の体のことを知りたいはずなのに。

 部屋を出た先生と入れ替わりに、保険医の先生が入ってきた。

「さて、フィールドちゃん。今日の寝泊まりについてなんだけど……
 あなたの部屋はその……今、他の先生や憲兵の方が調べてるから」

「あ……」

 保険医の先生は、今私が部屋に戻れないことを伝えてきた。
 それはそうだろう。私の部屋の状態が、私の見た記憶の通りなら……今頃は、室内を調べている頃だ。

 そうじゃなくても、あんな凄惨な部屋で眠れるほど、今の私は強くない。

「数日くらいなら、この部屋を使ってもらっても構わないけれど……」

「な、なら! 私の部屋に、来てください!」

 はいっ、と手を上げて意見を話すのは、ルリーちゃんだ。
 以前、ルリーちゃんの部屋でお泊まりをしている。なにより、ルリーちゃんにナタリアちゃん……二人に、聞いてもらいたいこともあった。

「私の部屋でも、いいわよ。同室の子も、理由を話せば納得してくれると思うし」

「ありがとうクレアちゃん。
 でも、今回はルリーちゃんの好意に甘えるとするよ」

 窓の外は、すっかり暗くなっている。
 私はさっきまで気を失っていたから、あんまり眠くはない……でも、体力を回復させるために寝ないとだめだ、と先生に念押しされた。

 部屋のベッドを使わせてもらったお礼を言って、私は……ルリーちゃんと、ナタリアちゃんの待つ部屋へと、向かった。
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