史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

212話 対立する意見

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 私が、"魔死事件"の容疑者、だって……?
 そう言うのは、王様の側にいたジャスミルと呼ばれたおじいちゃん。私を犯人と疑っている。

 初対面で失礼だな……とは思うけど、初対面だからこその疑いなのかもしれない。私と交流がないから、色眼鏡なしで私という人間を見ることができる。
 ノマちゃんや、ゴルさんや先生でさえ、私に対してなんらかの先入観を持っている。

 おじいちゃんには、それがない。せいぜい、ゴルさんの学友で凄腕魔導士、くらい。人間性については知らない……

「そんな人から見たら、私は怪しいことこの上ない、と」

「そういうことですな」

 私が少し睨みつけてみても、動揺することすらしない。
 このおじいちゃん……冷静だし、なにより強いな。戦ってみたいなという気持ちはあるけど、今はそれどころじゃない。我慢だ。

 今考えるべきことは、私の疑いがどうやったら晴れるか、ってことだ。

「……ダークエルフのこと、黙ってたのは謝ります。でも、犯人がエルフ族だって言えなかったのは……
 エルフを師匠に持つ私にとって、エルフ族の心象が悪くなるのは避けたいから……」

 とにかく、私が事件の犯人について黙っていたのが問題ならば。まずはその件を解決する。
 ダークエルフの友達がいて、彼女が正体を隠して学園に通っているから……とは、さすがに言えない。

 ならば……本音と嘘を交える。師匠は、エルフ……ダークエルフが犯人と知れれば、エルフ族の心象が悪くなる。
 急遽この場で考えたにしては、我ながらいい答えじゃないだろうか。このことが理由で黙っていたわけじゃないけど、同時に本当に思っていることでもある。

 師匠が、本当に私の師匠なのか。グレイシア・フィールドの名を騙っているだけじゃないのか。おじいちゃんは、さっきこう言っていた。だから、そもそもの話信じてもらえるかわからない。
 でも……師匠が師匠であることだけは、誰にも否定させない!

「……なるほど、エルフ族の心象、ですか。
 確かに、近年のエルフ族に対する人々の目は、グレイシア・フィールドの働きにより以前に比べて緩和傾向にあります。
 あなたが彼の弟子と言うのなら、その気持ちもうなずける」

 おじいちゃんは私の言葉を受けて、顎に手を当てて考えている。
 エルフ族が世界中から嫌われていること自体、私はこの前まで知らなかったけど……師匠、エルフ族のために頑張ってるんだなぁ。

 いや、師匠のことだし、エルフ族のためというよりは自分のしたいことをして、それが結果的にエルフ族への意識改変に繋がっているのかな。

 なんにしても、これは思いの外話を聞いてくれている……!?

「ですが、すべてはあなたの口からもたらされた情報。あなたが容疑者であることを覆すものにはなりえませんな」

「……っ」

 ……やっぱり、だめか。いくらそれっぽいことを言っても、物的証拠はなにもないんだ。
 私が私の無実を証明するには……もはや、私が動けない状況、たとえば今、同様の事件が起こることくらい……

 ……って、なに考えてるんだ私は! そんな、事件が起こるってことは犠牲になる人が出るってことだ。死ぬかもしれない人が出るってことだ。
 ノマちゃんは生きてるけど、ノマちゃんだってまだ、体に完全な異常がないとはわからないんだから。

「……どうすれば、私の無実を証明できる?」

「おい、フィールド!」

「そうですねぇ……本来ならば、あなたを拘束させていただき、その間に同様の事件が起こるか否か。起こればあなたは無実、起こらなければ……
 しかし、このような手段私も取りたくはない」

 ……考えることは同じってことか。確実な方法は、私が考えたのとおじいちゃんが言ったの、見事に意見が合った。
 でも、それでは判断まで時間がかかるし、なにより次出るかもしれない犠牲者を放置するということ。

 ……それに、もし私を動けなくして、もしそのまま事件が起こらなかったら。私が、犯人にされてしまうってことだ。

「やれやれー、ジャスちゃんってば相変わらず堅物っていうか、他人に対して厳しいっていうか」

 会話が一旦途切れ、そのタイミングで明るい声が響く。黙って話を聞いていたマーチさんだ。
 彼女は、おじいちゃんをめちゃくちゃフランクに呼んでいる。それを受けて、おじいちゃんは別に嫌そうにはしていない。

 多分、いつものやり取りなんだろうなとは思う。見た感じおじいちゃんと孫くらいの見た目の差があるけど、二人の間にあるのは年の差など関係ない。

「失礼ながら、あなたや陛下は人を疑うことがあまり得意ではありません。ゆえに、人の暗部を見逃しがちだ。
 私は、あなた方が僅かばかり足らぬところの目となり手足となる。危険因子は、陛下の障害となる前に排除するのが私の役目」

「うんうん、ジャスちゃんの言うことはわかるよー。これまで、何度ジャスちゃんに助けてもらったかわからないし。
 けど、この子は事件には無関係だと、マーは思うな」

「……なぜ?」

「女の勘、ってやつかな」

 私を容疑者だと疑うおじいちゃんに、私は無関係だと信じてくれるマーチさん。その根拠はちょっと頼りないものだったけど、信じてくれる人がいるのはありがたい。
 ただ、このまま話が平行線なのは変わらないわけで……

 私はなにを言えばいいのか、どうしたら信じてもらえるのか、考えるけどわからなくて……

「し、失礼します!」

 その時だ……部屋の扉が、ダンッ、と大きな音を立てて開かれた。同時に、部屋の中に入ってきた人が、大声を上げる。

「何事ですか、ここは王の間ですよ。そんなに……」

「良い。何事か」

「は、も、申し訳ありません! 急ぎ、お伝えしなければならないことが!」

 部屋に入ってきた兵士さんは、王様の頭を垂れ、膝をつく。その表情や言葉には、あからさまな焦りが見て取れた。
 そして、彼は言う……

「こ、国内で……ダークエルフが、発見されたとの情報が!」

 ……耳を疑うような、発言を。
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