253 / 1,141
第四章 魔動乱編
248話 きゃぴきゃぴしたエルフ
しおりを挟む全校生徒が集められ、学園再開についての説明があった。
とはいっても詳細な部分については省き、学園で起こった事件の犯人が捕まり安全が確保されたから……というものだ。それに、被害に遭った二人目の生徒……つまりノマちゃんは命を繋いだということも。
さすがに、その一件に私も関わっている……なんて話はされない。
先生がどこまでを話したかはわからないけど、先生の立場なら知っていることはぜんぶ話しただろう。魔獣や、それを操っていた人物、そしてそれを捕まえたのが私ってことも。
その上で、みんなの前では黙ってくれている。いやぁ、助かるよ。
私が関わっていたなんて知れたら、みんなからなにを言われるかわかってものじゃないからね。ただでさえ私、自分で言うのもなんだけど有名人なんだし!
……そんなことを思っていたら。
「フィールド、今日の放課後、理事長室に来い」
と、集会が終わったあとに先生に言われてしまった。
「……」
「そんな顔をするな。本人の口から聞きたいんだとさ」
「なんか以前にもそういうことがあった気がするんですけど」
「そういう星の下に生まれたお前が悪い」
理事長室への呼び出しかぁ……これ何度目だろうなぁ。多分普通は、学生生活の中で理事長室に立ち入ること自体あまりないんじゃないかと思う。
あんまり気乗りしないけど、逃げるわけにもいかないよねぇ。
はーい、と返事をして、先生に背を向ける。ただ、その直前……私を見る先生の目が、なにか複雑な感情を含んでいるように見えたのは、気のせいだろうか。
教室に行くと、そこには懐かしい顔が並んでいた。たった数日の間のことなのに、すでに懐かしいと感じるなんてね。
「エランさん、おはようございます」
「カリーナちゃん、おはよう」
自分の席へ進んでいく最中、友達から声をかけられる。私も、挨拶を返す。
やっぱいいなぁ、こういうの。学園に……いやこの国に来るまでは、おはようなんて師匠としかしたことがなかったもんなぁ。
もちろん、それを寂しいと感じていたわけではないけど……現状を知ってしまうと、あの頃のやり取りは少し物足りなさを感じる。
いつか師匠と再会できたときに、こんなにもいっぱいの友達と挨拶できるようになったよ、って自慢してみたいな!
「お前らー、席につけ」
ガラガラ、と扉が開き、先生が教室に入ってくる。その光景に、喋っていたみんなはそれぞれ席についていく。
教室に入ってくる先生……その後ろから、もう一人大人が入ってくる。
誰だろう? フードを被って、顔を隠している……まるでルリーちゃんみたいだ。
「先生、その人は?」
「あー、今から説明するが……なんと言ったものか」
普段から、言いたいことはわりとずばずば言う先生が、珍しく言いよどんでいる。どうしたんだろう、なにか言いにくいことでもあるのかな?
あと、さっきから私をチラチラ見ている気がするのは……気のせいじゃ、ないよね。
その時間は数秒だったけど、みんなが困惑するには充分な時間で。
「くっ……くふふふ」
誰のものかわからない声が、それも笑い声がどこからか聞こえた。
だけど、こんな状況で笑える人は限られている……それに、その人は肩を震わせていた。
フードを被った人物は、なんでか笑っていた。
「なぁに黙っちゃってんすか、ヒルヤセンセ。さっさと紹介してくださいよ」
「おい、勝手に喋るなと……」
「はいはーい、皆さんちゅうもーく!」
妙に明るい、男の声。先生の制止も聞かずに、その人物はフードを捲る。
その中から現れたのは……思わずため息が漏れてしまうくらいに整った、きれいな顔。白い肌に細い目、まるで芸術品かなにかだ。
……だけど、それよりも、もっと注目すべきところが、あった。
人目を引いてしまう金色の髪、人族ではないと確信できる長い耳、その瞳は緑色に輝いている。
何者だ、と考えるまでもない……そこにいた男の人は、エルフだ。
「……はっ、え、エルフ!?」
「いや、ちょっと……」
「なんで、エルフがここに……!?」
突然の出来事に、遅れてみんな困惑している。私だって困惑している。
だってエルフ族は、世間的に嫌われている種族だ。正確には、ダークエルフが嫌われているせいで、同じ種族とされるエルフもその弊害を受けている、といったものだけど。
師匠のおかげでエルフに対する認識は大きく変わっているらしい……とはいえ。
この国には、正体を隠しているルリーちゃんを除いて、エルフ族がいない。一人もだ。なのに……
ここに、エルフがいる。しかも、今のは先生が連れて来たみたいなことになっている……
「お前たち、落ち着け。こいつは……」
「はいはい、まあまあ落ち着いてよ。ね?」
騒ぎ出すみんなを先生は止めようとするけど、その声すらもかき消すように、パンパンッと乾いた音が響く。
あのエルフの男が、大きく手を叩いてわざと大きな音を出したんだ。ただ、それだけでみんなの混乱は収まらない……
かと思いきや、叫びのような声は一斉に止まり、立ち上がっていた生徒は自分の席へと座る。
これは、自発的にみんな黙り、座った……わけじゃない。この魔力の感じ……エルフの男は、魔法でみんなの体を操り、強制的に口を塞いで座らせたんだ!
「! お前な……」
「まあまあ、これくらいしないと、みんな話を聞いてくれないじゃん?」
「だからといって……」
「はいはい、めんごめんご。あ、これもう古い? やだなぁ、エルフと人間の時間の感覚は違うから、なにが流行りで古いのかわっかんねえや」
みんなの体を魔法で操っておきながら、ヘラヘラした態度……なんなんだ、この人。
とりあえず、この教室のほとんどの子が魔法で拘束された、と見ていい。いくら動揺していたとはいえ、これだけの人数を……
無事なのは、私と……筋肉男くらいか。師匠と暮らしてきた私は、みんなほどの動揺はないけど……
あいつはあいつで、なんでこんな時にも手鏡で自分の顔見てるんだよ。少しはあせろよ。
「まま、これで話は聞いてくれるようにはなったかな」
話を聞くっていうか、話を聞くしかない状況にさせられた。
そもそもなんなんだこの人は。いかにも人畜無害って顔をしているけど、油断ならないな。師匠みたいに、親しみを感じられそうにもないし、先生がいるとはいえちょっと警戒して……
「じゃじゃ、静かになったところで自己紹介をね。オレオレの名前はウーラスト・ジル・フィールド。
皆さんご存じグレイシア・フィールドの、一番弟子でぇす! きゃぴっ」
…………はぁ……!!?
12
あなたにおすすめの小説
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
異世界でカイゼン
soue kitakaze
ファンタジー
作者:北風 荘右衛(きたかぜ そうえ)
この物語は、よくある「異世界転生」ものです。
ただ
・転生時にチート能力はもらえません
・魔物退治用アイテムももらえません
・そもそも魔物退治はしません
・農業もしません
・でも魔法が当たり前にある世界で、魔物も魔王もいます
そこで主人公はなにをするのか。
改善手法を使った問題解決です。
主人公は現世にて「問題解決のエキスパート」であり、QC手法、IE手法、品質工学、ワークデザイン法、発想法など、問題解決技術に習熟しており、また優れた発想力を持つ人間です。ただそれを正統に評価されていないという鬱屈が溜まっていました。
そんな彼が飛ばされた異世界で、己の才覚ひとつで異世界を渡って行く。そういうお話をギャグを中心に描きます。簡単に言えば。
「人の死なない邪道ファンタジーな、異世界でカイゼンをするギャグ物語」
ということになります。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる