258 / 1,141
第四章 魔動乱編
253話 デリカシーなしエルフ
しおりを挟む身体強化に使っていた魔力が、引き剥がされた! これも魔力である以上、さっき撃った魔法と変わらないってことか。
やば、身体強化が解けたら、素の状態だ。丸腰で相手の懐に飛び込むなんて……
「魔力で身体を強化しようが、それが魔力である以上オレオレには通用しないよ。そして魔力で強化されていない拳じゃオレオレにとって蚊が刺したようなもんだ。
残念だっ……」
「おらぁあああ!!」
「ぶへぁらぁ!?」
反撃されたら、私には抵抗する手段がない。ならば、破れかぶれでやってやる!
そう思って、思い切り振り抜いた拳は……エルフの頬に、めり込んだ。
そのまま、力の限りに腕を振り抜き、エルフは吹っ飛んでいった。
「あぅあっ……いっだだだ! なんだよこの馬鹿力……」
「誰が馬鹿力じゃあ!」
「!?」
吹っ飛んでいくエルフを追いかけるように私は走り、エルフが倒れ動きが止まったところで、私は飛びかかる。
相手の実力を見たい気持ちと、その横っ面に何発か入れたい気持ちで、私の心は揺れていた。
結局後者が押し勝ち、飛びかかった私はエルフに蹴りをおみまいする。
「せいや!」
「女の子が、はしたないよ!」
「わっ」
またも顔面を狙ったけど、今度は足首を掴まれ、蹴りを当てる前に止められてしまった。
……って、今の私足おっぴろげてる状態じゃん!
「は、離せ変態! 女の子の脚ジロジロ見るなんて!」
「仕掛けてきたのはキミだろう。それに、オレオレらエルフにとって、キミくらいの年の人間なんて赤子も同然だ。
それともキミは、赤子のオムツを見て性的興奮を感じるタイプ?」
「デリカシー!!」
私は杖を構え、デリカシーなしエルフに向けて至近距離から魔法を撃ち込む。火の玉をイメージして、それを放つ。
するとエルフは、私の足から手を離して……その場から飛び退き、"避けた"。
「避けた? 魔法は魔力に変換されるんじゃないの?」
今のは、ダメ元で撃った魔法だけど……それを、エルフは避けた。さっきまでなら、避けるどころか動く素振りもなかったっていうのに。
そんな私の疑問に答えるかのように、エルフは笑う。
「いやぁ、今のはびっくりした。すげー威力じゃん」
「?」
すげー威力? 今の魔法が? いつも通りの魔法だぞ?
魔法は自分の魔力の込め具合で威力が変わるけど、今のはとっさに撃ったから、称賛されるほど高い威力じゃないはずだけど。
ただ、一つわかったことがある……"すげー威力の魔法"を避けるってことは、魔力に変換されるアレも、魔力の上限があるってことだ。
あまりに高い魔力の塊は、変換できない! じゃあ、魔術も普通に通用するのかな。
「ずいぶんとずいぶんと珍しいもの持ってんじゃないの。
いや別に、そいつを持ち込んだからって卑怯だとか言うつもりはないよ」
ただ、エルフの言葉はあんまり理解できない。すげー威力の魔法だとか、珍しいもの持ち込んだとか。
私は別に、今回の勝負になにも持ち込んでなんて……
「……あ」
あったわ、持ち込んだもの。正確には、外すのを忘れてて持ち込んでしまう形になってしまったもの。
この、右手の中指にはめてある、指輪……魔導具だ。
国宝の魔導具"賢者の石"。指輪についている宝石が魔導具で、身に付けている人の魔力を底上げしてくれているらしい。
指輪についているそれ、とりあえず指にはめとけば効果が発揮されるみたいだけど……今私、"賢者の石"の力を使っていたの?
私はそのつもりではない。というか、今の今まで忘れてすらいたんだし。つまり、無意識に魔力が底上げされていたというわけで。
それとは別に、氷の槍は普通の魔力だった。ってことはだ……
「私が意識してないのに、勝手に強化される魔法もあれば、そうじゃない魔法もあるってこと? なにそれやりづら」
魔導具を使いこなすことができれば、むしろやりやすくはなるんだろうけど。ピアさんの魔力剣みたいな感じで。
ただ、それとは勝手が違うし、どうすればいいのかわかんないんだけど。
思えば、魔導具使ったのなんてあの時が初めてだったもんな。魔導具の使い方についてピアさんにも聞いておけばよかった。
「いいさいいさ、別になにを持ち込もうが、使おうが構わない。
キミの全力で挑んできてくれ」
「涼しい顔しちゃって……」
この魔導具は、うっかり事故みたいな形で持ってきちゃったけど……王様に貰ったものだし、もう私のものだし、エルフもああ言ってるし。
存分に使わせてもらおう!
多分、こういうのって念じれば、魔力が強くなるはず……!
「ぬぬぬぬ……えいや!」
イメージするのは火の玉、それをもっと強くなれもっと強くなれ……と念じていく。なんだか、自分の中の力が大きくなっていくような気がする。
それを魔法として展開し……杖を振り、放つ!
巨大な火の玉は、まっすぐにエルフへと向かっていく。
確かに、いつもよりも使用した魔力以上の威力が出ているような気がする!
「オーケーオーケー、素晴らしいね。なら、こっちもそろそろ行かせてもらおうかな」
迫りくる火の玉に焦る様子はまったくなく、エルフは杖を構えた。そして、軽く振る。まるで、演奏を指揮する指揮者のように、軽く。
すると、火の玉は、杖が振られた方向へと起動を変えた。その先は空だ。
上空へと放たれた火の玉は、そのまま天へ……
「はいどーん」
……向かうことなく、爆発した。
今の、こいつがやったのか……!
杖を持ち直し、うっすらと笑うエルフは……どこか不気味に、舌なめずりをしていた。
11
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる