史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

255話 言霊という力

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「じゃあじゃあそろそろ、反撃させてもらおうかな」

 浮かんだ疑問を解消する間もなく、エルフは杖を構える。次は、自分の番だと。
 魔力が昂ぶり、それが彼の周囲に変化をもたらしていく。

 形成されるのは、氷の槍。空中に作られるそれは、一本や二本ではなく……十を超える数だ。

「あてつけかよ……」

 それは、さっき私が放ったのと同じもので、それよりも数が多い。私に対して自分が上だとでも言いたいのかな?
 彼が杖を振ると、氷の槍も一斉に放たれる。

 私も、あのエルフや師匠みたいに相手の魔法を打ち消すなんてことができればいいんだけど、それはできない。

「だったら……こう!」

 放たれたのは氷、なら……炎で、防ぐ!
 杖を横薙ぎに振るい、展開するのは炎の壁。ボゥッと燃え上がるそれは、向かってくる氷の槍を飲みこみ、ジュワッと蒸発させた。

 だけど……

「"キャンセル"」

 炎の壁は……まるで、最初からそこになかったかのように、消えてしまった。

「ま、また!?」

「キミらはさ……"言霊"って知ってるかい?」

「こと……だま?」

 今炎の壁を消したのも、間違いなくあのエルフだ。
 彼は、やっぱり涼しい顔で……あんまり聞いたことのない単語を、話した。それが、どうしたというんだろう。

 首を傾げる私に、エルフは笑みを深めた。

「そそ。言葉にも魔力が宿るんだよ。普通、魔導を使うには魔導を制御するための杖と、術者の魔力が必要だ。
 けど、言葉に魔力が宿すことができれば、今までとは違ったアプローチで魔導を使うことができるようになる。今オレオレがやったようにね。それを、言霊って言うんだ」

 それは、まるで私への……いや、この勝負を見学しているみんなへ、説明しているような口調だった。
 魔法殺しの壁ってやつといい、言霊といい……私たちの知らないものを、意図的に見せてくれているような……

 もしかして……

「私たちに、この勝負を通じていろいろ教えてくれようとしてる?」

「いんやぁ、ただキミらの知らない知識や技術を、ひけらかしたいだけぇー」

「……」

 ちょっと感心しかけたけど、前言撤回! とんだ自信家だこいつ!
 魔力を練り上げていく私を制するように、エルフは手のひらを見せた。

「まあまあ、説明はちゃんと聞きなよ。物知りってのは、無知な人間に自分の知識を教えてあげたい生き物なんだからさぁ」

「……いちいちカチンとくる言い方だなぁ」

 確かにエルフ族は、長寿だから人よりも多くの知識を持っていても不思議じゃない。けど……
 いちいち、人をイラつかせないと気が済まないのだろうか。

「さて、この言霊。一般的な方法として知られるのが、今オレオレがやったやり方。相手の魔力を強制的に消す、ってやつだ。
 "キャンセル"……これを口にしただけで、対象の魔導は消える。こいつぁさっきの壁とは訳が違う、強い魔法だろうが魔術だろうが、お構い無しだ」

「……っ」

「つまり……」

 魔導が使えない以上、私に勝ち目はない……そう、言っているのだ。
 言霊か……師匠はその存在くらいは教えてくれたような気がするけど、詳細までは……

 ……あぁいや、なんだっけ。言葉に宿った概念的な力を、精霊が物理的な力に変えてくれる、だから言霊だとかなんとかって……

「ささ、どうする? 降参でもする?
 オレオレ的には、このままキミが負けを認めてくれたら、厄介事も終わってめでたしめでたしなんだけど」

「私を倒したきゃ、力でやってみなよ」

 なんと言われても、自分から負けを認めるようなことだけはしない。それが、私が自分に課したルールみたいなものだ。
 だから私は、手札が少なくなったとしても、最後まで諦めない!

「そう……」

「というか、勝った気でいるけど……これなら、どう!?」

 その涼しい顔を、崩してやる! さっきは魔術とはいえ、一方向からの冷気による攻撃だった。
 なら今度は、四方八方からの攻撃! たくさんの氷の槍を展開するのは同じだけど、それを上下左右から放つ!

 魔力も込めた、魔法殺しの壁でも消せないはず……

「言ったろ、言霊だって。見えてようが見えてまいが、関係ないんだよ。
 "キャンセル"」

 正面はともかく、後ろから狙いをつけていた氷の槍も……すべて、消え去ってしまった。
 言葉に力がある以上、見えてても見えてなくても関係ない……そういうことだ。

 その言葉がある限り、魔法も魔術も通じないとわかった。だったら……

「その口縫い付けて塞いでやらぁああ!」

「発想が怖いよ!」

 私は杖を構え、絶え間なく魔法を放ち続けていく。
 縫い付けるは冗談にしても、あいつが言葉を出せない状況に追い込めばいい。こうも連続に放たれたら、一言とはしゃべるのも疲れるはずだ。

「けど、こうも言ったよ。力押しじゃオレオレには通用しないよ」

「!」

 連続で放った魔法は、同じく連続で放ったエルフの魔法と相殺させられていく。
 一応、それなりに魔力を込めているのに、あんな簡単に相殺させられるなんて…!

 ただ、驚きはそれだけに終わらない。

「目の前の相手に囚われすぎるのも、よくないよくない」

「!」

 後ろから、声がした。はっとして振り向くと、そこにはエルフの姿。
 だけど、エルフは今、正面から魔法を撃ってきている。同時に二人、存在しているわけが……

「分身魔法か……!」

「その通り。周囲に気を張っていれば、こうして簡単に後ろは取られなかった」

 トン、と、私の背中に固いものが押し当てられる。
 これは、杖の、先端か……!

「キミには魔導の才がある。グレイ師匠の弟子っていうのも、真っ赤な嘘ではないらしい。けどけど、圧倒的に足りないものがある。
 ……経験だ」

 私に足りないもの……いつか誰かに、同じことを言われた。
 その言葉がグサリと、私の胸に突き刺さった。
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