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第四章 魔動乱編
266話 お時間です
しおりを挟むレジーとの対面。そこにノマちゃんも同席して、話を聞く。ただ、当時の状況はいきなりのことで、ノマちゃんもよくは覚えていないようだ。
私が帰ってきたのだと思って扉を開けたら、いきなり部屋の中に押し入られ……口になにかを、突っ込まれた。
そのなにかが、魔石だ。ノマちゃんは当然抵抗したけど、凄まじい力で部屋の奥まで押し入られ、壁に押し付けられ、やがては魔石の中に溜まっていた魔力が体内を巡る。
その結果、体に異常をきたし、目や口や鼻や……穴という穴から、血を流していった。
今までの事件の被害者なら、それで亡くなっていたが……
「まさか、アタシが魔石を突っ込んでから、数時間後に"魔人"に覚醒するとはな。いやぁ失敗失敗」
レジーすら、ノマちゃんが死んでしまったと思って、部屋から逃げた。だけど、それがレジーの誤算。
今本人が言ったように、"魔人"とやらにさせるのがレジーの狙い。そして、ノマちゃんはその"魔人"とやらになった。
そこに数時間の誤差がなければ、ノマちゃんはレジーにいいように利用されていたのかもしれない。そう考えれば、あの現場が残ってしまったのは、幸運だったとも言えるのか?
「その"魔人"ってのが、結局なんなのかわからないんだけど」
人と魔の血が混ざった存在……ってのくらいだ、ぼんやりとわかっているのは。
ただ、レジーがわざわざ"魔人"ってやつを作ろうとした理由が、わからない。ただ殺したいなら、他にやり方はいくらでもある。
けれど、それは以前も聞いたけど答えることはなかった。もしも私の魔力がもっと高ければ、意思に反してでもしゃべらせることはできたんだろうか。
師匠くらいの魔力があればなぁ。
「わざわざ、魔石を食べさせる、なんて思いつきもしないようなことをやってるあたり、狙いはあるんだろうねー」
今まで話を聞いていたコロニアちゃんが、話す。コロニアちゃんは、事情はある程度は知っているみたいだ。
この事件、一般的には被害者は全身から血を流して亡くなっている……と報道されている。魔石を食べさせてとか、体内の魔力が暴走してとか、そのあたりのことは伏せられている。
魔石なんて、今ではあちこちにあるものだ。それを、口にしなければいいとはいえ危険なものだと、人々が敬遠し始めたらどうなるだろうか。
混乱を避けるためにも、一般的には秘密だ。
ただ、コロニアちゃんは王族だし、そのあたりの事情も聞いているみたいだ。
「大抵の出来事には、ほとんどの場合理由があるもの。今回の一件も、そうでしょう」
コロニアちゃんの言葉に同意するのは、おじいちゃん。コロニアちゃんとおじいちゃんの言うように、あれだけ特殊な方法を使って、"魔人"を作ろうとしたんだ。
そこには、よほどの理由があるはず。
今のところ、ノマちゃんに目に見えた異変はないけど……
「……ま、時期にわかるんじゃねえの」
「!」
なにがおかしいのか、笑いながら……レジーは、そう言った。
時期にわかると……それは、いったいどういう意味だろうか。
「ジャスミル様」
「む、もうそんな時間ですか。三人とも、残念ながらここまでです」
と、肩を落としながらおじいちゃんは言った。どうやら、こうやって会って話すのは、時間が決められているらしい。
わざわざそんなことしなくてもと思ったけど、こんな薄暗い場所にいつまでもいたくない……という気持ちもある。
そう考えると、見張りの兵士さんはすごいなぁ。こんな場所で、レジーと二人きりなのに、ちゃんと自分の仕事をしている。
「なんかごめんね、役に立たなくて」
「いえ、お呼びしたのはこちらですから。
それに、魔法の効力に抗ってでも話そうとしない、という情報を得ることはできました」
地下から出て、一旦王の間に戻る。一応、王様に報告をしてから、私たちは学園に戻ることに。
なんか、王城から学園に戻るこの道も、すっかり見慣れてしまったなぁ。
ノマちゃん、私、コロニアちゃんの順で、並んで歩く。歩くん、だけど……
二人とも、綺麗なブロンドの髪でまるでお姫様だ。片方は本当にお姫様なんだけど。おまけに、二人とも立派なものをお持ちで……
そんな二人に挟まれるもんだから、なんだか居心地が悪い。わぁ、見られてる見られてる。
「ノーテンちゃんは、エフィーちゃんと同室なんだよね。いいなー」
「……ひょっとしてそれ、わたくしのことですの?」
「うん」
二人ともスタイルがいいし、私の頭の上で会話が続けられている。あぁ綺麗な声だ。
ノマちゃんは、初めて話すコロニアちゃんのマイペースさに困惑してるようだ。そりゃそうだろうな。
ちなみに、ノマちゃんがなぜノーテンなのかというと、それはノマ・エーテンを縮めたものだからだ。
私だって、エラン・フィールドだからエフィー……すごく独特的なあだ名だよねこれ。
まあ、あだ名なんて人それぞれだからいいんだけどさ。
「ええと……コロニア様」
「そんな堅苦しくなくていいよー。ちゃんとか、なんならあだ名で呼んでよー」
「ええと……」
すごい、あのノマちゃんが振り回されている……さすがはコロニアちゃん。
コロニアちゃんとは、ゴルさんとの決闘の準備でお世話になって以来、ちょくちょく話すようになった。なので、このマイペースさにも慣れたけど。
最初は、こんな子が第一王女なのか、と驚いたものだけど……決闘の訓練の中で、ゴーレム召喚の魔術を無詠唱でやってのけるという離れ業を見せた。
魔術には詠唱が必要。無詠唱ができるようになるには、精霊さんとよほど仲良くなったり、魔力のことを知らなければいけない。
魔導に関して、私よりも一歩も二歩も、先を行っている。
「あ、が、学園が見えましたわ! 懐かしいですわ!」
コロニアちゃんのマイペースに振り回されていたノマちゃんは、話題を変えるように、道行く先を指差す。
その先に……ノマちゃんにとっては久しぶりに帰ることになる、魔導学園の姿があった。
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