292 / 1,141
第四章 魔動乱編
287話 複雑な視線
しおりを挟む「…………はぁあ……」
私は、深いため息を漏らした。なんというか、どっと疲れたというか……
あの場の重々しい空気から解放された、という気持ちも少なからずはあるんだけど、それよりも私の中に引っかかっている問題がある。
そう、ノマちゃんのことだ。
「まあまあ、エフィーちゃん元気出そ」
王城から外に出て、学園への帰り道を歩いている私の肩を叩いて励ましてくれるコロニアちゃん。
意気消沈な私を、心配してくれているわけだ。
王様の呼び出しで王城に行っていた私たちは、とある部屋に集められた。そこには王様含め知っている人や知らない人がいて、大切な話を聞かせられたわけだけど……
「ノマちゃんになんて話せば……!」
ノマちゃんに関する重要な話。あの場にいた中で、ノマちゃんの一番の友達である私が、その話を本人に伝えるかどうかの決定権を委ねられた。
あそこで一番の友達なのは否定しないけど、一番の友達がこんな重荷になるとは……
話の内容は、本人にも伝えたほうがいいこと、ではあるんだけど……話の内容が、本人にも伝えにくいことなんだよなぁ。
「だって、あなたはいつかわからないけど魔獣になります、って言えってことなんだよ!?」
「それもまだ憶測だから……限りなく真実だとは思うけど」
フォローしてくれてるつもりが全然フォローになっていない!
こんなこと、いきなり言えって言われてもなぁ……いや、別に言えってわけじゃない。言わなくてもいいんだ。
でも、こんな大事なこと、本人なら知っておきたいかもしれないし……なにかの間違いで、私以外の経路でその内容を知ってしまったら。
それは、イヤだなって思う。
「うーん……」
「言いにくいなら、私から言おうか?」
「ありがと。でも、これは私がやらなきゃいけないことだから」
コロニアちゃんの気遣いは嬉しいけど、やんわりと断る。これは、ノマちゃんのお友達である私がやらないといけないことだから。
ノマちゃんのお友達だから!
そうやって覚悟を決めた頃、後ろから苦笑いを含んだ声が聞こえた。
「まあまあエランさん。彼女の性格なら、そこまで思い詰めるとも思えないから、そんなに悩む必要もないと思うよ」
「うーん……そうだねぇ……」
後ろを歩いているコーロランに振り返り、私は答える。
ノマちゃんと同じクラスで、なんとノマちゃんの片思いの相手。そういえば、その後の進展具合についてどうなっているのか、そもそも二人がどれほどの関係になったのか聞いてないや。
そんな彼が言うように、ノマちゃんってあんまり思い悩むイメージがないんだよなぁ。
クラスでも、ムードメーカーなのは想像できるけど……
というか、見たことがない……な。今回の件は、さすがに思うところはあるだろうけど。
それは見通しが甘いのかもしれないけど、あんまり気負いすぎるなっていう、コーロランなりのフォローかもしれない。
「……クラスでは、ノマちゃんどんな感じなの?」
「とても明るいよ。見ていて、こっちも元気をもらえる。
僕も個人的に話をしてみたいと思ってるんだけど、どうにも避けられているような気がして」
嫌われているのかな、と苦笑いを浮かべるコーロランだけど……多分それ違う。避けるの意味合いが違うやつ。
やっぱノマちゃんはまだコーロランのことを……ってことか。まあ、人の恋路にどうこう言うつもりはない。
それに、今回聞きたいのはそういうことじゃあなくて。
「ノマちゃん、クラスでいじめられたりとかしてない? 事件で唯一の生き残りだからって、変なこと言われたりしてない?」
事件を経て、ノマちゃんのクラス内での立場がどうなっているのか、だ。
普通に考えれば、死人が出てばかりの事件で生き残ったのは嬉しいことだけど……もしかしたら、唯一の生き残りってので周りからなにか言われているんじゃないか。
そんなことを考えてしまう。クラスの様子とか、わからないし聞いても答えてくれないだろうしなぁ。
なので、ノマちゃんと同じクラスのコーロランに、状況を聞くことに。
「僕の見ている限りでは、そんなことはないけどな。むしろ、周りの人はいっそう彼女の体を気遣っているよ」
「ほっ」
どうやら、コーロランが見ている限りとはいえ、私が危惧していることは起こっていないようだ。まあ、なにかするにしても目に見えてはしないだろうけど。
それでも、なにか不穏な空気があればコーロランなら気づくはずだ。それがないってことは、ひとまず安心かな。
……と思ったけど、なんだか、複雑そうな表情を浮かべている。
「どしたの? なにか気になることでも?」
「ん、あぁ……彼女が、直接ノマさんになにかした、というわけではないんだ。だけど……」
「彼女?」
どうやら、一個人で気になる人がいるみたいだ。
「……ノマさんを見る、パーリャさんの目が……どこか、複雑そうで」
「……パーリャ、さん?」
コーロランは、とある人物の名前を言う。だけど、それは聞き覚えのない名前だ。
そんな私の様子が通じたのだろう、コーロランは「彼女は」とその人について教えてくれる。
「……パーリャ・テリオットさん。
魔導学園で、最初に"魔死事件"の犠牲者になったレオ・ブライデント先輩の、恋人だった女性だよ。キミも、会っているんじゃないかな」
「……あの子か」
正直、名前だけ聞いてもピンとはこなかった。でも、思い出した。
魔導学園では、二度の"魔死事件"が起こった。二度目がノマちゃん……一度目が、レオ・ブライデントという二年生。
犠牲となったその彼の第一発見者となったのが、レオの恋人だった一年生の女の子。名前は、聞いてなかったから初めて知った。
あのときの悲痛な泣き顔と泣き声は、今でも忘れられない。
そんな彼女が、ノマちゃんを複雑そうな表情で見ている、か。
「パーリャちゃん、ノマちゃんと同じクラスだったのか。複雑な表情の理由って」
「……事件で先輩、自分の恋人は亡くなった。それだけじゃない、同じ事件で、これまでの被害者はすべて亡くなっている。
恋人は亡くなった。なのに、どうしてノマさんは生き残っているのか……そういうことだろうね」
「……やっぱりそっか」
「もちろん、それはノマさんにとってはなんの関係もない話だ。だからこそ、パーリャさんはノマさんに対して、複雑な感情を抱いている」
……事件に遭い、恋人は死んだ……なのに、ノマちゃんは生きている。
ノマちゃんに非はないけど、どうしても納得できないこともある。だから、か……
ノマちゃんに実害がないといいけど……パーリャちゃんのことも考えると、つらいだろうなってのは、感じる。
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる