史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第四章 魔動乱編

287話 複雑な視線

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「…………はぁあ……」

 私は、深いため息を漏らした。なんというか、どっと疲れたというか……
 あの場の重々しい空気から解放された、という気持ちも少なからずはあるんだけど、それよりも私の中に引っかかっている問題がある。

 そう、ノマちゃんのことだ。

「まあまあ、エフィーちゃん元気出そ」

 王城から外に出て、学園への帰り道を歩いている私の肩を叩いて励ましてくれるコロニアちゃん。
 意気消沈な私を、心配してくれているわけだ。

 王様の呼び出しで王城に行っていた私たちは、とある部屋に集められた。そこには王様含め知っている人や知らない人がいて、大切な話を聞かせられたわけだけど……

「ノマちゃんになんて話せば……!」

 ノマちゃんに関する重要な話。あの場にいた中で、ノマちゃんの一番の友達である私が、その話を本人に伝えるかどうかの決定権を委ねられた。
 あそこで一番の友達なのは否定しないけど、一番の友達がこんな重荷になるとは……

 話の内容は、本人にも伝えたほうがいいこと、ではあるんだけど……話の内容が、本人にも伝えにくいことなんだよなぁ。

「だって、あなたはいつかわからないけど魔獣になります、って言えってことなんだよ!?」

「それもまだ憶測だから……限りなく真実だとは思うけど」

 フォローしてくれてるつもりが全然フォローになっていない!

 こんなこと、いきなり言えって言われてもなぁ……いや、別に言えってわけじゃない。言わなくてもいいんだ。
 でも、こんな大事なこと、本人なら知っておきたいかもしれないし……なにかの間違いで、私以外の経路でその内容を知ってしまったら。

 それは、イヤだなって思う。

「うーん……」

「言いにくいなら、私から言おうか?」

「ありがと。でも、これは私がやらなきゃいけないことだから」

 コロニアちゃんの気遣いは嬉しいけど、やんわりと断る。これは、ノマちゃんのお友達である私がやらないといけないことだから。
 ノマちゃんのお友達だから!

 そうやって覚悟を決めた頃、後ろから苦笑いを含んだ声が聞こえた。

「まあまあエランさん。彼女の性格なら、そこまで思い詰めるとも思えないから、そんなに悩む必要もないと思うよ」

「うーん……そうだねぇ……」

 後ろを歩いているコーロランに振り返り、私は答える。
 ノマちゃんと同じクラスで、なんとノマちゃんの片思いの相手。そういえば、その後の進展具合についてどうなっているのか、そもそも二人がどれほどの関係になったのか聞いてないや。

 そんな彼が言うように、ノマちゃんってあんまり思い悩むイメージがないんだよなぁ。
 クラスでも、ムードメーカーなのは想像できるけど……

 というか、見たことがない……な。今回の件は、さすがに思うところはあるだろうけど。
 それは見通しが甘いのかもしれないけど、あんまり気負いすぎるなっていう、コーロランなりのフォローかもしれない。

「……クラスでは、ノマちゃんどんな感じなの?」

「とても明るいよ。見ていて、こっちも元気をもらえる。
 僕も個人的に話をしてみたいと思ってるんだけど、どうにも避けられているような気がして」

 嫌われているのかな、と苦笑いを浮かべるコーロランだけど……多分それ違う。避けるの意味合いが違うやつ。
 やっぱノマちゃんはまだコーロランのことを……ってことか。まあ、人の恋路にどうこう言うつもりはない。

 それに、今回聞きたいのはそういうことじゃあなくて。

「ノマちゃん、クラスでいじめられたりとかしてない? 事件で唯一の生き残りだからって、変なこと言われたりしてない?」

 事件を経て、ノマちゃんのクラス内での立場がどうなっているのか、だ。
 普通に考えれば、死人が出てばかりの事件で生き残ったのは嬉しいことだけど……もしかしたら、唯一の生き残りってので周りからなにか言われているんじゃないか。

 そんなことを考えてしまう。クラスの様子とか、わからないし聞いても答えてくれないだろうしなぁ。
 なので、ノマちゃんと同じクラスのコーロランに、状況を聞くことに。

「僕の見ている限りでは、そんなことはないけどな。むしろ、周りの人はいっそう彼女の体を気遣っているよ」

「ほっ」

 どうやら、コーロランが見ている限りとはいえ、私が危惧していることは起こっていないようだ。まあ、なにかするにしても目に見えてはしないだろうけど。
 それでも、なにか不穏な空気があればコーロランなら気づくはずだ。それがないってことは、ひとまず安心かな。

 ……と思ったけど、なんだか、複雑そうな表情を浮かべている。

「どしたの? なにか気になることでも?」

「ん、あぁ……彼女が、直接ノマさんになにかした、というわけではないんだ。だけど……」

「彼女?」

 どうやら、一個人で気になる人がいるみたいだ。

「……ノマさんを見る、パーリャさんの目が……どこか、複雑そうで」

「……パーリャ、さん?」

 コーロランは、とある人物の名前を言う。だけど、それは聞き覚えのない名前だ。
 そんな私の様子が通じたのだろう、コーロランは「彼女は」とその人について教えてくれる。

「……パーリャ・テリオットさん。
 魔導学園で、最初に"魔死事件"の犠牲者になったレオ・ブライデント先輩の、恋人だった女性だよ。キミも、会っているんじゃないかな」

「……あの子か」

 正直、名前だけ聞いてもピンとはこなかった。でも、思い出した。
 魔導学園では、二度の"魔死事件"が起こった。二度目がノマちゃん……一度目が、レオ・ブライデントという二年生。

 犠牲となったその彼の第一発見者となったのが、レオの恋人だった一年生の女の子。名前は、聞いてなかったから初めて知った。
 あのときの悲痛な泣き顔と泣き声は、今でも忘れられない。

 そんな彼女が、ノマちゃんを複雑そうな表情で見ている、か。

「パーリャちゃん、ノマちゃんと同じクラスだったのか。複雑な表情の理由って」

「……事件で先輩、自分の恋人は亡くなった。それだけじゃない、同じ事件で、これまでの被害者はすべて亡くなっている。
 恋人は亡くなった。なのに、どうしてノマさんは生き残っているのか……そういうことだろうね」

「……やっぱりそっか」

「もちろん、それはノマさんにとってはなんの関係もない話だ。だからこそ、パーリャさんはノマさんに対して、複雑な感情を抱いている」

 ……事件に遭い、恋人は死んだ……なのに、ノマちゃんは生きている。
 ノマちゃんに非はないけど、どうしても納得できないこともある。だから、か……

 ノマちゃんに実害がないといいけど……パーリャちゃんのことも考えると、つらいだろうなってのは、感じる。
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