302 / 1,141
第四章 魔動乱編
297話 もはや神だよね
しおりを挟む「ところでラン、質問がある」
「なにかな、サリアちゃん」
食事を終え、少し休んでいたところに、サリアちゃんが話しかけてきた。
この子、案外自分から話しかけてくれるんだな。クレアちゃんと似たようなタイプだし、二人きりでも話題に尽きることはなさそう。
サリアちゃんは、つい先ほど頼んだデザートを口にし、私を見る。生クリームが口元についている。かわいい。
「ランは、あのグレイシア・フィールドの弟子なんだよね」
「へ、師匠? うん」
なにかなと思って聞いていると、話の内容は師匠に関するものだった。
師匠ってば、魔導士としても冒険者としても有名なんだ……弟子としては鼻が高いけど、だからこそ弟子として無様な姿は見せられないという気持ちもある。
「師匠がどうかした?」
「実は……」
やけに、真剣な表情だ。いったい、なんの……
「……私、グレイシア・フィールドの大っっっファンなの」
「……おう」
途端に、目がキラキラし始めた。表情こそ変わらないけど、その瞳は興味津々であることを隠せていない。
ふーむ……師匠は有名人で、憧れとする人は多かったけど。
ここまで、熱烈な視線を向ける子は、初めてだったかも?
「それは……ありがとう?」
「グレイシア・フィールドが残した数々の逸話はもちろん! 彼が執筆した、この『凄腕魔導士になるための100の方法』の本ももう何度も読み返した!」
興奮した様子でサリアちゃんが鞄からなにかを取り出す。あまり大きくはない鞄だ。
その中に、なにやら大きなものが入っているなと感じてはいたけど……
取り出したのは、やけに分厚い本だった。
表紙には、今サリアちゃんが言った『凄腕魔導士になるための100の方法』とタイトルが書かれている。
「……」
それを見て、私が思ったのはまず、これだった。
師匠、ネーミングセンスないなぁ……と。
名付けられたのがエランって名前でよかった。もしかしたら、変な名前をつけられていたかもしれないんだ。
「ていうか……師匠って、本出してたの?」
「そうだよ、知らなかった?」
知らなかった……サリアちゃんは、信じられないものを見る目で私を見ていた。
そんな目で見ないで……!
師匠本人から聞いたことはもちろんないし、本屋に行けば見つけられたのかもしれないけど……あんまり、本屋には行かないからなぁ。調べ物をするには図書室で充分だし。
あ、図書室にはないのかな。
「これは、グレイシア・フィールドが執筆した第一冊目の記念すべき初版で、ほら見て、ここに、グレイシア・フィールド直筆の生サインを書いてもらって……えへ、えへへへ……!」
「待って! 一冊目!? 初版!? 生サイン!?」
思わぬ事実に、思わず机を叩いて立ち上がってしまった。あの人本当になにやってるの!?
勢いよく立ち上がったけど、運よく机の上のものは倒れなかった。よかった。
私は座り直して、その本を改めて見る。
よく見れば、結構古い本だ……それに、カバーがかけられて、傷つかないようにしてある。
……それにしても、いつ出したんだよこんな本。サリアちゃんが初版をゲットしたってことは、結構最近なんだろうか。
「あ、うらやましい? えへへ、あっげないよー」
「あぁ、うん。別に……」
そしてもっと驚いたのが、サリアちゃんの豹変ぶり。本に頬ずりしているその姿は、とてもさっきまでのマイペース人間と同一人物だとは思えない。
この子、本当に師匠のことが好きなんだな……
それは、なんだかちょっと嬉しい。
「ランが……グレイシア・フィールド神の弟子だと聞いた時は、是非ともお話したいと思って……でも、なかなかそんな機会もなくて……
だから、レアがランの話をいつもしているとき、うらやましくて仕方なかった」
「へへへ、なんか照れるなー。うん、私もサリアちゃんとお話ができて嬉し……
……今なんて? グレイシア・フィールドなんだって……?」
「グレイシア・フィールド神だよー。私にとってはもう、憧れとか尊敬とか……そんな次元じゃあないんだよね」
……あー……この子師匠の話になるとちょっとやべーんだな。
師匠がすごいってのは、私も同じ意見だけど……そっかぁ、神様かぁ……師匠、ついに神様になっちゃったかぁ。
でもいいのかいサリアちゃん。神様はそんな残念な名前の本は書かないと思うんだけど。
それを口にしたら怖いので、胸の中にしまっとく。なんか目が怖いし。
「私、こんな見た目だから、故郷では腫れ物扱いで……一生一人なのかなって思ってたんだけど、この本に出会って、考え方というか世界が変わったんだよ」
と、サリアちゃんは頭から生えている一本の赤い角に触れる。あんな角が生えている種族なんて、見たことがない。
しかもサリアちゃんの話を聞くに、サリアちゃんの故郷ではみんながみんな、サリアちゃんのような見た目をしているわけではないようだ。それがどういう意味なのか、私にはよくわからないし、さすがに仲良くなったばかりの子から聞く話でもない。
ただ、お話自体はいい話なんだけど……『凄腕魔導士になるための100の方法』のなにに感銘を受けて世界が変わったのか、よくわからない。
「これからも、仲良くしてほしい。それから、グレイシア・フィールド神のお話を、いろいろ教えてほしい」
「えぇと、うん……私に話せることなら」
なにはともあれ……師匠のおかげで一人の女の子が救われて、私と仲良くなってくれる女の子ができた……ってことで、いいのかな。
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる