史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

326話 これぞ大乱闘!

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「かっ……!」

 その瞬間、エランの体を襲ったのは、凄まじい痛みだ。背中を、斬られた。
 痛みがある。幻影ではない。……当然だ、今の今まで、イザリと打ち合っていたのだから。

 魔導を使った久しぶりの実戦、イザリとの再戦、魔導剣士との戦い……それはエランを夢中にさせ、一瞬周囲への注意を怠った。
 その一瞬が、致命的な隙となった。

「なっ……」

 その光景を正面から見ていたイザリは、たまらず声を漏らす。
 これはバトルロイヤル、一対一の決闘ではない。だから戦いの最中、誰が乱入してきても文句は言えない。

 しかし……

「やれ!」

 誰かの声が響いた後、地上に残っていた選手たちが、一斉に魔法を放つ。
 その先は、空中で斬られ、身動きが取れなくなっているエラン。

「っ……」

 エランはそれに気づきながらも、魔法が彼女に着弾する方が早い。
 何人からも撃たれた、何発もの魔法が、エランを狙い撃ちする。

 エランの背中を斬った男は、すぐさまその場から離脱し、地面に着地していた。

「こ、こりゃあ……」

 タメリアは驚いたように、周囲を見回す。地上に残っているのはざっと十人……自分を除いたそのすべてが、エランを狙って魔法を放っているのだ。
 先ほどのブロックでも、選手同士組んで戦っていた。だからこれも、エランに対する対処と考えれば不思議はないが……

 なにか、おかしい。
 エラン一人を狙うにしたって、この光景は……

「……ん?」

 そして気づく。すべてではない……一人、魔法も撃たずにニタニタと笑っている男がいる。

『なんと、残っているほとんどの選手がフィールド選手を攻撃している!
 ルール上問題はありませんが、すごい光景です!』

 いい年した大人が数人がかりで、無防備な少女に魔法をぶつけている……つまりはこういうことだ。
 エランの力を脅威に思えば、ということだろうか。

 会場はざわめき、エランを心配する声も上がる。
 そんな中で、タメリアは杖の先端を、ニタニタ笑っていた男に向ける。

「その魔導具のせいだな、連中の様子がおかしいのは」

「……ぐぇひひひひ」

 男は口を大きく開け、笑みを浮かべた。
 血色の悪い、痩せ細った男だ。男が手にしているのは、手のひらサイズの黒い石。

 一見どこにでもありそうな石だが、それは魔導具だ。

「よく気づいたな」

「これでも、魔導具に触れる機会は多いんでね。
 そいつで、連中を操ってエランちゃんを攻撃してる……そんなところか?」

「ぐぇへへへ、半分当たりで……半分、ハズレだ」

 ドサッ、と、空中で魔法総攻撃を受けていたエランが地面に落ちる。
 元の元気な姿は、どこにもない。

『どうやら魔導具の影響で、選手たちがフィールド選手に集中攻撃をしていた模様!
 フィールド選手、さすがにあれだけの魔法を受ければ、もはやダウンか!』

 あらゆる魔法を受けたためか、意識を失っているのか。結界内で大事にならないとはいえ、相当なダメージだったはず。

 もう立ち上がることは、できまい。

「こいつは、人の……そう、認識を、ちょこっと変えるだけ。
 そこのガキを、最優先に駆除すべき敵と定めただけ」

「……駆除ねぇ」

 あまりスマートな言葉ではない。それに、自分は手を下さずに、というのもいただけない。
 その魔導具を壊せば、連中は元に戻るのか……

 いや、戻るもなにも、倒すべきエランを倒した後なら、もうなにも意味は……

「……きひっ」

「!」

 ゾワッ……と、タメリアは、男は、ダルマスは。その場にいた誰が、驚愕する。
 この状況で、そんなはずがない……しかし、彼女は確かに、笑っていた。

 タメリアは、振り返る。そこには、先ほどまで倒れていたはずのエランが……立ち上がっている姿だった。

『おぉっ、なんとフィールド選手! あれだけの魔法をくらって、立ち上がった! 寸前に魔力防壁でもかけていたのか!』

「エランちゃん……わりと、元気そう……」

「きひっ、ひひひ……!」

 驚く司会の言葉は会場に響き……目の前で立ち上がるエランを見て、タメリアはほっと一息。
 ゴルドーラとの決闘のときも思ったが、やはり彼女は規格外……

 ……なのだが。なんだか、様子がおかしい。エランはうつむいたまま、肩を震わせて……笑っているのだ。
 今まで、見たこともない笑い方で。


 ――――魔法総攻撃を受けているとき、エランが感じていたのは……怒りでも、悲しみでもない。
 結界内とはいえ体は痛いし、油断した自分が悪いとはいえあれだけの人がこんなに攻撃してくるなんて、なんておとなげない。
 そんな気持ちはあったが……そんなもの、些細なものだ。

 けれど、思ったのだ……あらゆる魔法攻撃を受け、みんなして自分を倒そうとしている……そんな状況で……

 『あぁ、愉しいな』、と。


「きひひひひっ、たーのしーな!」

「!」

 瞬間、エランがその場から消え……次の瞬間、魔導具を使っていた男は、吹き飛んでいた。
 目の前に現れたエランに、驚く間もなく……顔面を、殴り飛ばされたのだ。

 その姿を、タメリアは追えなかった。事が起こったと気づいたのは、ガンッ、と鈍い音がしたあとだ。
 振り向けば、男は吹っ飛び、エランがそこにいた。

 消えたように錯覚するほど、エランの走る速度が、上昇している。
 魔力で身体強化をしているのか? それにしたって……

「いや……」

「これこれ、これだよこれ! みんなで入り乱れて、大乱闘! 大会って言うからにはこれくらいでなくちゃ!
 あー、たのしーなー! きひっひひひひ!」

 手を広げ、大口を開けて笑うエラン。その姿は、タメリアは……いや、誰も見たことがないものだ。
 彼女は確かに、脳天気なところがあるし、ゴルドーラに決闘を挑むほど血の気が多い。それでいて、魔導というものそのものを楽しんでいる。

 そう、それだけ見ればいつものエラン……なのだが……

「……?」

 笑い、振り向くエラン。笑い方こそ変だが、その姿は見慣れたエラン・フィールドだ。
 しかし……目にわかるように、変化が起こる。

 彼女の、珍しい黒髪……その黒い髪が、白く、変色していったのだ。
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