史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
338 / 1,141
第五章 魔導大会編

330話 最後の予選

しおりを挟む


 自身の試合を終えたエランは、観戦席にいるクレアやルリー、フィルの下へ……と、本来ならば戻りたかったのだが。
 勝ち残ったため、次の試合に備えなければならない。もちろん、観戦席に行ってはいけないという決まりはないが。

 それでも、次に備え、こうして控え室で休んでおくのが、最善に思えた。

「次はノマちゃんも出るんだよね」

 エランの体も傷だらけのではあったが、すでに回復魔術により傷は癒えている。
 精神力はすり減っているが、それも休めば問題はない。

 本当ならば、外で直接見たい。が、回復魔術で傷は癒えても、疲労までなくなるわけではない。
 なのでこうして、座ってじっとしておく。

 ちなみに先ほどから、それなりに人はいるのたが、なぜだかエランに話しかけてくる人……いや近づく人さえいない。
 知り合いは別室で治療していたりするし、微妙に居心地が悪かったりする。

『いよいよEブロック、選手が入場してきます!』

「お」

 モニターの向こうから、司会の声が聞こえる。
 先ほどまでは、直接試合を見ていたから、モニター越しに見るのは初めてだ。

 一つの大きなモニターに、いくつかの映像が流れている。それは一人ひとり選手を映し出し、その中には見知った顔もいくつかあった。

「ノマちゃんだ。映像越しでもかぁわいいなぁ。
 ……あ、シルフィ先輩もいるんだ」

 胸を張って入場するノマの姿。次に映し出されたのは、先輩であるシルフィドーラ・ドラミアスだ。
 生徒会メンバー唯一の二年生。ゴルドーラを尊敬し、エランを目の敵にしている。

 彼も、Eブロックだったか。
 なんらかの獣人らしいが、エランにはまだその正体を明かしてもらってない。この試合で見られるだろうか。

「うわー、みんな強そう……あ、ガルデさんもいる!」

 中には、見知った冒険者の姿も。
 Aランク冒険者、ガルデ。彼も大会に参加していたようだ。

 本当に、いろんな人が参加している。見ているだけでも、楽しい。
 あの中で勝ち上がれるのはただ一人。それが、エランにとっては惜しかったりもする。

『さあ! 各ブロック予選も、残すのはこのEブロックのみとなりました!
 Aブロック百名、勝者冒険者フェルニン選手! Bブロック百一名、勝者なし! Cブロック百一名、勝者武闘家ブルドーラ・アレクシャン選手! Dブロック百名、勝者狂犬エラン・フィールド!
 そしてこのEブロック百一名! 勝ち残った選手が、決勝に進むことになります!』

 司会の男が、これまでに勝ち残った選手の名前を挙げるが……それを聞いて、エランはあんぐりと口を開けていた。

 ……おい! なんだ私の紹介文!? 狂犬って!? なんかこう、もっとあるでしょうよ!
 くそ、直接会ったら殴ってやる……!

 強く、思った。

『おや、なんだか体に寒気が……気のせいでしょうか。
 それとも昨日、大会の司会を務めることの緊張とワクワクで、あまり寝られなかったせいでしょうか! 皆さん、どう思いますか!』

「知ったことか! さっさと始めろ!」

「毎度うるせえんだよ!」

 ……観客からの講義を受け、司会の男は押し黙る。しかし、すぐに切り替える。

『もう皆さん、待ちきれないようだ!
 それでは、熱い戦いを我々に見せてくれることを期待して! 試合、開始ぃ!』

 ついに、魔導大会予選……最後のブロックが開始した。

 ――――――

 試合開始の合図が鳴り響く。
 それを受け、選手たちは次々と行動に移そうとする……が。

「……っ?」

 ドサッ……ドサドサッ……と。
 次々に、選手たちが倒れていくではないか。

 何者かから攻撃を受けたわけでもない。なのに、先ほどまで血気盛んだった選手たちが、膝から崩れ落ちる。
 その光景を、ノマは警戒し見ていた。

「こ、これは……」

『おぉっと、どうしたことか! 試合開始直後、次々と選手が倒れていくぞぉ!』

「何事ですの?」

 ……試合開始直後の魔術、使い魔召喚、派手な大暴れ……これまでのブロックでは、試合開始直後の行動をより早く起こした者が、主導権を握っていた。
 もちろん、主導権を握ったところで最終的な勝者になるかは、また別の話だが。

 なんにせよ、これまでは誰の目にも、わかりやすい形で勝負を仕掛けた者がいた。
 しかし、今回のそれは……

「魔術……いえ、それとも魔導具……?」

 なにが原因なのか、よくわからない。
 ただ、何者かが仕掛けたことであるのは、確かだ。

 そして……

「半分……ま、こんなものかな。
 思ったよりは残ってるね」

「……あなた、ですのね」

 その、なにかを引き起こした人物は、そこにいた。
 ノマはその人物を睨みつける。フードを被り、顔まで隠した小柄な人物だ。

 その人物は言った、半分……と。
 そう。半分もの人物が、試合開始直後にして、倒れたのだ。それをやったのが、このフードの人物。

 ノマは、構える。いや、ノマだけではない。フードの人物がなにかをして、現状を作り出したと、少なからず気づいている者たち。
 彼らは、矛先を一斉に、フードの人物へと定めた。

「へへ、悪いな。どんな手を使ったか知らねえが、この数相手じゃ無謀だろ」

「一気に仕留めてやる」

「ん? うん、そうだね……一気に終わらせようか」

 フードの人物を囲う男たちは、凶悪に笑う……対してフードの人物は、唯一露わになっている口元が、笑っていた。
 なに笑ってやがる……男たちのうちの一人が、そう怒鳴っていた、はずだった。

 その直後、とフードの人物の姿が少しぶれて……次の瞬間には、囲っていた幾人の男たちは、倒れていた。

「! な、なんだ!?」

「なにしやがった!」

 それを見ていた他の選手は、起こった出来事が理解できない。
 あんなにもいた選手が、一斉に倒れたのだ。それも、二回も。

 半分……そう、また半分だ。また半分が、倒れた。
 開始三十秒もしないうちに……Eブロックの選手は、四分の一にまで減っていた。
 それも、一人の人物の影響で。

「……なんて、速さ」

 そんな中、現状を理解しているのは……ノマだけだった。
 彼女には、見えていた。フードの人物がぶれた瞬間、目にも止まらぬ速さで、周囲の選手を斬り伏せていたことを。

 先ほどの試合で、エランが見せた超スピード。あれとは、似て非なるものを感じた。

「……キミ、ただの人間じゃないね」

「……っ」

 警戒するノマに、フードの人物が狙いを定めたのか……視線が、向いた。
 フードにより隠れている、その人物の顔。

 しかし、その奥にある……緑色に輝く瞳と、ノマは視線を交わした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。 荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。 一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。 これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。

幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜

犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。 これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのですが何か思ってたのと違います

Debby
ファンタジー
【全話投稿済み】  私、山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。  好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリストなのだけど、やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。転移先の条件として『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。  そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。  更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。  これにはちゃんとした理由があって、必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ないし、もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。 ──そして本当に転移してしまった私は、頼もしい仲間と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。  いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。  なんで私が転移することになったのか。謎はいっぱいあるし、理想通りだったり、思っていたのと違ったりもするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。 ---------- 覗いて下さり、ありがとうございます! 2025.4.26 女性向けHOTランキングに入りました!ありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و✧ 7時、13時、19時更新。 全48話、予約投稿しています。 ★このお話は旧『憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと』を大幅に加筆修正したものです(かなり内容も変わってます)。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

処理中です...