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第五章 魔導大会編

330話 最後の予選

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 自身の試合を終えたエランは、観戦席にいるクレアやルリー、フィルの下へ……と、本来ならば戻りたかったのだが。
 勝ち残ったため、次の試合に備えなければならない。もちろん、観戦席に行ってはいけないという決まりはないが。

 それでも、次に備え、こうして控え室で休んでおくのが、最善に思えた。

「次はノマちゃんも出るんだよね」

 エランの体も傷だらけのではあったが、すでに回復魔術により傷は癒えている。
 精神力はすり減っているが、それも休めば問題はない。

 本当ならば、外で直接見たい。が、回復魔術で傷は癒えても、疲労までなくなるわけではない。
 なのでこうして、座ってじっとしておく。

 ちなみに先ほどから、それなりに人はいるのたが、なぜだかエランに話しかけてくる人……いや近づく人さえいない。
 知り合いは別室で治療していたりするし、微妙に居心地が悪かったりする。

『いよいよEブロック、選手が入場してきます!』

「お」

 モニターの向こうから、司会の声が聞こえる。
 先ほどまでは、直接試合を見ていたから、モニター越しに見るのは初めてだ。

 一つの大きなモニターに、いくつかの映像が流れている。それは一人ひとり選手を映し出し、その中には見知った顔もいくつかあった。

「ノマちゃんだ。映像越しでもかぁわいいなぁ。
 ……あ、シルフィ先輩もいるんだ」

 胸を張って入場するノマの姿。次に映し出されたのは、先輩であるシルフィドーラ・ドラミアスだ。
 生徒会メンバー唯一の二年生。ゴルドーラを尊敬し、エランを目の敵にしている。

 彼も、Eブロックだったか。
 なんらかの獣人らしいが、エランにはまだその正体を明かしてもらってない。この試合で見られるだろうか。

「うわー、みんな強そう……あ、ガルデさんもいる!」

 中には、見知った冒険者の姿も。
 Aランク冒険者、ガルデ。彼も大会に参加していたようだ。

 本当に、いろんな人が参加している。見ているだけでも、楽しい。
 あの中で勝ち上がれるのはただ一人。それが、エランにとっては惜しかったりもする。

『さあ! 各ブロック予選も、残すのはこのEブロックのみとなりました!
 Aブロック百名、勝者冒険者フェルニン選手! Bブロック百一名、勝者なし! Cブロック百一名、勝者武闘家ブルドーラ・アレクシャン選手! Dブロック百名、勝者狂犬エラン・フィールド!
 そしてこのEブロック百一名! 勝ち残った選手が、決勝に進むことになります!』

 司会の男が、これまでに勝ち残った選手の名前を挙げるが……それを聞いて、エランはあんぐりと口を開けていた。

 ……おい! なんだ私の紹介文!? 狂犬って!? なんかこう、もっとあるでしょうよ!
 くそ、直接会ったら殴ってやる……!

 強く、思った。

『おや、なんだか体に寒気が……気のせいでしょうか。
 それとも昨日、大会の司会を務めることの緊張とワクワクで、あまり寝られなかったせいでしょうか! 皆さん、どう思いますか!』

「知ったことか! さっさと始めろ!」

「毎度うるせえんだよ!」

 ……観客からの講義を受け、司会の男は押し黙る。しかし、すぐに切り替える。

『もう皆さん、待ちきれないようだ!
 それでは、熱い戦いを我々に見せてくれることを期待して! 試合、開始ぃ!』

 ついに、魔導大会予選……最後のブロックが開始した。

 ――――――

 試合開始の合図が鳴り響く。
 それを受け、選手たちは次々と行動に移そうとする……が。

「……っ?」

 ドサッ……ドサドサッ……と。
 次々に、選手たちが倒れていくではないか。

 何者かから攻撃を受けたわけでもない。なのに、先ほどまで血気盛んだった選手たちが、膝から崩れ落ちる。
 その光景を、ノマは警戒し見ていた。

「こ、これは……」

『おぉっと、どうしたことか! 試合開始直後、次々と選手が倒れていくぞぉ!』

「何事ですの?」

 ……試合開始直後の魔術、使い魔召喚、派手な大暴れ……これまでのブロックでは、試合開始直後の行動をより早く起こした者が、主導権を握っていた。
 もちろん、主導権を握ったところで最終的な勝者になるかは、また別の話だが。

 なんにせよ、これまでは誰の目にも、わかりやすい形で勝負を仕掛けた者がいた。
 しかし、今回のそれは……

「魔術……いえ、それとも魔導具……?」

 なにが原因なのか、よくわからない。
 ただ、何者かが仕掛けたことであるのは、確かだ。

 そして……

「半分……ま、こんなものかな。
 思ったよりは残ってるね」

「……あなた、ですのね」

 その、なにかを引き起こした人物は、そこにいた。
 ノマはその人物を睨みつける。フードを被り、顔まで隠した小柄な人物だ。

 その人物は言った、半分……と。
 そう。半分もの人物が、試合開始直後にして、倒れたのだ。それをやったのが、このフードの人物。

 ノマは、構える。いや、ノマだけではない。フードの人物がなにかをして、現状を作り出したと、少なからず気づいている者たち。
 彼らは、矛先を一斉に、フードの人物へと定めた。

「へへ、悪いな。どんな手を使ったか知らねえが、この数相手じゃ無謀だろ」

「一気に仕留めてやる」

「ん? うん、そうだね……一気に終わらせようか」

 フードの人物を囲う男たちは、凶悪に笑う……対してフードの人物は、唯一露わになっている口元が、笑っていた。
 なに笑ってやがる……男たちのうちの一人が、そう怒鳴っていた、はずだった。

 その直後、とフードの人物の姿が少しぶれて……次の瞬間には、囲っていた幾人の男たちは、倒れていた。

「! な、なんだ!?」

「なにしやがった!」

 それを見ていた他の選手は、起こった出来事が理解できない。
 あんなにもいた選手が、一斉に倒れたのだ。それも、二回も。

 半分……そう、また半分だ。また半分が、倒れた。
 開始三十秒もしないうちに……Eブロックの選手は、四分の一にまで減っていた。
 それも、一人の人物の影響で。

「……なんて、速さ」

 そんな中、現状を理解しているのは……ノマだけだった。
 彼女には、見えていた。フードの人物がぶれた瞬間、目にも止まらぬ速さで、周囲の選手を斬り伏せていたことを。

 先ほどの試合で、エランが見せた超スピード。あれとは、似て非なるものを感じた。

「……キミ、ただの人間じゃないね」

「……っ」

 警戒するノマに、フードの人物が狙いを定めたのか……視線が、向いた。
 フードにより隠れている、その人物の顔。

 しかし、その奥にある……緑色に輝く瞳と、ノマは視線を交わした。
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