350 / 1,198
第五章 魔導大会編
342話 乱入者たち
しおりを挟む……事態の急変に、誰もが追いつけない。理解できない。なにが起こったのか、なにが起ころうとしているのか。
誰も……
ただ、わかることは一つだけ。
なにか、とてつもないことが起ころうと、している。
「い、今なにか、割れた音が……」
「まさか、結界が割れたんじゃ……」
「いや、うそでしょ!?」
「ていうか、あいつ誰だよ!」
異変に、会場中がざわつく。
先ほどの、耳に響くなにかが割れたような音。そして、外部からは侵入不可能なはずの、結界の内側に現れた何者か。
その姿に、人々は困惑を露わにする。
『み、皆さん、落ち着いてください! 冷静に、状況を……』
司会の声も、ほとんどの者には届かない。冷静にしろと言われて、おとなしくできるものか。
未知の事態に、人々は弱い……それが、今だ。
そんな中で、謎の人物を囲うようにして、選手五人は立っていた。
「……誰?」
訝しく問いかけるエラン。それは、誰もが抱いている疑問だ。
その人物は、細身の体をしている。顔は包帯でぐるぐる巻きにされているため、性別すらもわからない。
だが、なんとなく、男だろうというのは、感じ取れた。
「んん……エルフ、エルフか……っひひひ、ここにも生き残りがいたとはな」
「……っ」
その人物の視線は、ラッへに向いていた。エルフとしての特徴を露わにした彼女は、鋭い視線に気圧されてしまう。
漆黒の瞳が、まるですべてを飲み込んでしまいそうで。
「まったく……邪魔をしてくれるものだね」
「!」
しかし、次の瞬間、ラッへを襲っていた圧力が、和らぐ。
圧力を放っていた包帯男が、うつ伏せに地面に押し倒されたからだ。その背後に居るのは、アルマドロン・ファニギース。
彼は、包帯男の不意をついて背後を取り、地面に押し倒していた。
「魔導大会、その決勝……各ブロックを勝ち抜いた、強者たち。
しかもその中には、あのグレイシア・フィールドの弟子や、エルフまでいる。この上なく盛り上がっているところだった。
それを、キミは水を差したわけだ」
「っひひ、さすが前回大会優勝者……けど」
大会を盛り上げる、その使命を無意味なものにされ、アルマドロン・ファニギースの感情は高ぶっていた。
完全に押し倒され、包帯男は動けない……だが。
不敵な笑みで、上空を見上げた。
「来い! ウプシロン!!」
「ギャォオオオオ!!」
天高く、舞っていたそれは、高らかな咆哮を上げる。
包帯男の呼びかけに応えるように、ウプシロンと呼ばれたそれは……白き体の鳥は、急降下してくる。
ただの鳥ではない。人を三人は乗せられるかというほどの巨体。それに、くちばしから覗く牙は凶悪だ。
さらには生えている脚も巨大で、それは鳥というよりはもはや怪鳥に近かった。
「キャアアアア!」
「な、なんだあれ!」
「化け物だぁああ!」
「いや……あれ、魔獣……?」
逃げ惑う人々、しかし誰も彼もが動いているので、まともに逃げることができない。
空の怪鳥を見て、エランはこう分析する……魔獣だ、と。
これまで見てきた、白い魔獣。それらに、似た気配がするのだ。それに、人に操られている……まるで、あの時と同じ。
レジーと名乗った、黒髪黒目の女。あの女が呼び出した、オミクロンと呼ばれる白い魔獣が、王都で暴れまわった、あの時と。
「まさか……」
エランは、包帯男の正体に当たりをつける。
しかし、すでに包帯男は解放されていた。正確に言えば、ウプシロン出現に気を取られてしまったアルマドロン・ファニギースを押しのけ、ラッへへと飛びかかっていた。
反射的にラッへは、防壁魔法を張る。包帯男との間に、見えない壁が展開される。
「んなもん、俺には通用しねぇ!」
しかし、包帯男は拳を突き出す。先ほど、結界が割れたのと同様の音が響き、ラッへの防壁魔法が破られたことを意味していた。
突き出した拳は、そのままラッへの首を絞め上げる。
「く、ぅ……!」
「ラッへ! くそ……っ!」
その光景を見て、エランは駆け出す……が、ウプシロンの妨害により、先へは進めない。
他の選手も同樣に、ウプシロンに妨害されている。ここにいるメンバーなら、魔獣といえど敵ではない。
だが、相手は空を飛んでいる。空を飛ぶかそうでないかで、相対する難易度は跳ね上がる。
その上、あの巨体だ。巨大な羽の羽ばたきは、それだけで突風を巻き起こし、魔法さえも跳ね返す。
『こ、これは、なにが、どうなって……
ち、ちょっと衛兵さん! これはなんとか……』
「っひひ、無駄だよ」
「イヤァアアアア!」
謎の乱入者に、魔獣。会場の警備、衛兵が来てもいい頃だ。しかし、誰も来ない。
それも、当然のことだ……今響いた、悲鳴こそがその答え。
「……」
場内の衛兵は、一人残らず、皆殺しにされていたのだから。
観戦席から、会場内に逃げ込んだ女性が見たもの。それは、血を流し倒れている、衛兵たちの姿。
その傍らに立つ、妙な仮面をつけた女だった。その右手は、血に染まっている。
「"あいつ"が、面倒なのは排除してくれてる」
「あいつ……?」
包帯男、魔獣……さらには、まだ仲間がいるのだ。
となれば、ここだけではない。場内すべてが危ない。ここにいない選手たち……それに……
大会に参加していない、クレアやルリーたちも……
「けどまあ、エルフは先に、始末しとかないとな!」
「ぁ、ぐ……」
ラッへの首を持ち上げる拳に、力が込められる。
魔法を発動させようにも、意識が集中しない。酸素が足りなくなり、脳が揺れ、魔導を使うためのイメージする力が、なくなっていく。
もはや。ここまで……
「とりゃあ!」
「あん?」
そこへ、声が響いた。エランはよく聞き覚えのある、この場にいないはずの、声が。
直後、放たれた魔力弾は、包帯男の腕に当たり……ラッへを、離した。
ラッへは魔導を使えず、エランたちはウプシロンに邪魔されている。
そんな中で、魔法を放ちラッへを助けたのは……
「はぁ、はぁ……!」
「る、ルリーちゃん!?」
認識阻害の魔導具フードを目深に被り、右手を突き出していた……ルリーの姿だった。
1
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】人生2回目の少女は、年上騎士団長から逃げられない
櫻野くるみ
恋愛
伯爵家の長女、エミリアは前世の記憶を持つ転生者だった。
手のかからない赤ちゃんとして可愛がられたが、前世の記憶を活かし類稀なる才能を見せ、まわりを驚かせていた。
大人びた子供だと思われていた5歳の時、18歳の騎士ダニエルと出会う。
成り行きで、父の死を悔やんでいる彼を慰めてみたら、うっかり気に入られてしまったようで?
歳の差13歳、未来の騎士団長候補は執着と溺愛が凄かった!
出世するたびにアプローチを繰り返す一途なダニエルと、年齢差を理由に断り続けながらも離れられないエミリア。
騎士団副団長になり、団長までもう少しのところで訪れる愛の試練。乗り越えたダニエルは、いよいよエミリアと結ばれる?
5歳で出会ってからエミリアが年頃になり、逃げられないまま騎士団長のお嫁さんになるお話。
ハッピーエンドです。
完結しています。
小説家になろう様にも投稿していて、そちらでは少し修正しています。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる