史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
350 / 1,141
第五章 魔導大会編

342話 乱入者たち

しおりを挟む


 ……事態の急変に、誰もが追いつけない。理解できない。なにが起こったのか、なにが起ころうとしているのか。
 誰も……

 ただ、わかることは一つだけ。
 なにか、とてつもないことが起ころうと、している。

「い、今なにか、割れた音が……」

「まさか、結界が割れたんじゃ……」

「いや、うそでしょ!?」

「ていうか、あいつ誰だよ!」

 異変に、会場中がざわつく。
 先ほどの、耳に響くなにかが割れたような音。そして、外部からは侵入不可能なはずの、結界の内側に現れた何者か。

 その姿に、人々は困惑を露わにする。

『み、皆さん、落ち着いてください! 冷静に、状況を……』

 司会の声も、ほとんどの者には届かない。冷静にしろと言われて、おとなしくできるものか。
 未知の事態に、人々は弱い……それが、今だ。

 そんな中で、謎の人物を囲うようにして、選手五人は立っていた。

「……誰?」

 訝しく問いかけるエラン。それは、誰もが抱いている疑問だ。
 その人物は、細身の体をしている。顔は包帯でぐるぐる巻きにされているため、性別すらもわからない。

 だが、なんとなく、男だろうというのは、感じ取れた。

「んん……エルフ、エルフか……っひひひ、ここにも生き残りがいたとはな」

「……っ」

 その人物の視線は、ラッへに向いていた。エルフとしての特徴を露わにした彼女は、鋭い視線に気圧されてしまう。
 漆黒の瞳が、まるですべてを飲み込んでしまいそうで。

「まったく……邪魔をしてくれるものだね」

「!」

 しかし、次の瞬間、ラッへを襲っていた圧力が、和らぐ。
 圧力を放っていた包帯男が、うつ伏せに地面に押し倒されたからだ。その背後に居るのは、アルマドロン・ファニギース。

 彼は、包帯男の不意をついて背後を取り、地面に押し倒していた。

「魔導大会、その決勝……各ブロックを勝ち抜いた、強者たち。
 しかもその中には、あのグレイシア・フィールドの弟子や、エルフまでいる。この上なく盛り上がっているところだった。
 それを、キミは水を差したわけだ」

「っひひ、さすが前回大会優勝者……けど」

 大会を盛り上げる、その使命を無意味なものにされ、アルマドロン・ファニギースの感情は高ぶっていた。
 完全に押し倒され、包帯男は動けない……だが。

 不敵な笑みで、上空を見上げた。

「来い! ウプシロン!!」

「ギャォオオオオ!!」

 天高く、舞っていたそれは、高らかな咆哮を上げる。
 包帯男の呼びかけに応えるように、ウプシロンと呼ばれたそれは……白き体の鳥は、急降下してくる。

 ただの鳥ではない。人を三人は乗せられるかというほどの巨体。それに、くちばしから覗く牙は凶悪だ。
 さらには生えている脚も巨大で、それは鳥というよりはもはや怪鳥に近かった。

「キャアアアア!」

「な、なんだあれ!」

「化け物だぁああ!」

「いや……あれ、魔獣……?」

 逃げ惑う人々、しかし誰も彼もが動いているので、まともに逃げることができない。

 空の怪鳥を見て、エランはこう分析する……魔獣だ、と。
 これまで見てきた、白い魔獣。それらに、似た気配がするのだ。それに、人に操られている……まるで、あの時と同じ。

 レジーと名乗った、黒髪黒目の女。あの女が呼び出した、オミクロンと呼ばれる白い魔獣が、王都で暴れまわった、あの時と。

「まさか……」

 エランは、包帯男の正体に当たりをつける。
 しかし、すでに包帯男は解放されていた。正確に言えば、ウプシロン出現に気を取られてしまったアルマドロン・ファニギースを押しのけ、ラッへへと飛びかかっていた。

 反射的にラッへは、防壁魔法を張る。包帯男との間に、見えない壁が展開される。

「んなもん、俺には通用しねぇ!」

 しかし、包帯男は拳を突き出す。先ほど、結界が割れたのと同様の音が響き、ラッへの防壁魔法が破られたことを意味していた。
 突き出した拳は、そのままラッへの首を絞め上げる。

「く、ぅ……!」

「ラッへ! くそ……っ!」

 その光景を見て、エランは駆け出す……が、ウプシロンの妨害により、先へは進めない。
 他の選手も同樣に、ウプシロンに妨害されている。ここにいるメンバーなら、魔獣といえど敵ではない。

 だが、相手は空を飛んでいる。空を飛ぶかそうでないかで、相対する難易度は跳ね上がる。
 その上、あの巨体だ。巨大な羽の羽ばたきは、それだけで突風を巻き起こし、魔法さえも跳ね返す。

『こ、これは、なにが、どうなって……
 ち、ちょっと衛兵さん! これはなんとか……』

「っひひ、無駄だよ」

「イヤァアアアア!」

 謎の乱入者に、魔獣。会場の警備、衛兵が来てもいい頃だ。しかし、誰も来ない。
 それも、当然のことだ……今響いた、悲鳴こそがその答え。

「……」

 場内の衛兵は、一人残らず、皆殺しにされていたのだから。
 観戦席から、会場内に逃げ込んだ女性が見たもの。それは、血を流し倒れている、衛兵たちの姿。

 その傍らに立つ、妙な仮面をつけた女だった。その右手は、血に染まっている。

「"あいつ"が、面倒なのは排除してくれてる」

「あいつ……?」

 包帯男、魔獣……さらには、まだ仲間がいるのだ。
 となれば、ここだけではない。場内すべてが危ない。ここにいない選手たち……それに……

 大会に参加していない、クレアやルリーたちも……

「けどまあ、エルフは先に、始末しとかないとな!」

「ぁ、ぐ……」

 ラッへの首を持ち上げる拳に、力が込められる。
 魔法を発動させようにも、意識が集中しない。酸素が足りなくなり、脳が揺れ、魔導を使うためのイメージする力が、なくなっていく。

 もはや。ここまで……

「とりゃあ!」

「あん?」

 そこへ、声が響いた。エランはよく聞き覚えのある、この場にいないはずの、声が。
 直後、放たれた魔力弾は、包帯男の腕に当たり……ラッへを、離した。

 ラッへは魔導を使えず、エランたちはウプシロンに邪魔されている。
 そんな中で、魔法を放ちラッへを助けたのは……

「はぁ、はぁ……!」

「る、ルリーちゃん!?」

 認識阻害の魔導具フードを目深に被り、右手を突き出していた……ルリーの姿だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

処理中です...