史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

341話 晒された素顔の向こう側

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『おぉっと、ついにラッへ選手のフードが脱げ、素顔が明らかに…………えっ!?』

 大きく叫ぶ司会の声が、困惑を含む。そしてそれは、司会だけではない。
 先ほど、Eブロックの試合とは違い……露わになったラッへの素顔は、今度こそ晒される。

 モニターにも映し出され、その顔は会場中へと知れ渡った。
 金色の髪、白い肌、尖った耳、緑色の瞳……

「え、エル、フ……?」

 場内の、誰かが言った。
 その言葉を皮切りに、人々の間に、動揺が広がる。

「エルフ……え、あれが?」

「本で読んだわ、髪の色に瞳の色、それに耳が尖ってるって」

「エルフってあれだろ、大昔に……」

「でも、グレイシア・フィールドってエルフなんでしょ……?」

 場内のざわめきに気を取れたのか、魔術が止む。
 ざわついている観客……その中心にいるラッへの表情は、なにを思っているのか。エランは、その表情から感情を読み取ることが、できない。

 エルフ族……遥か昔に犯した罪により、人々から恐れられ、または迫害されてきた種族。
 正確には、罪を犯したのはダークエルフであり、エルフはその飛び火を受けたようなものだ。だが、その事実を知る者が、果たしてどれだけいるだろうか。

 また、昨今はエルフグレイシア・フィールドの働きにより、エルフに対する意識は変化しつつある。
 安心や恐れではない、その中間のざわめき……それが、今のエルフに対する、考えだ。

『こ、これは……驚きました。ラッへ選手、その正体はなんと、エルフです!
 し、しかし、これは……』

 エランはこの国に来てから、エルフを見ていない。この国にエルフは、いないのだ。
 ダークエルフであるルリーはその正体を隠し、その兄であるルラン等も、姿を隠し生活している。

 エルフで、この反応なのだ……ダークエルフが晒されてしまったら、いったいどうなってしまうのか。考えたくもない。

「ほぉ、エルフだったとは」

 ラッへのフードを払った、アルマドロン・ファニギースが、興味深そうに告げる。
 その視線を受け、ラッへは表情一つも変えない。

「悪い?」

「いや、エルフなど初めて見たな、と思っただけだ」

 この国にはエルフはいないし、それは国の外も同じこと。今や希少種なのだ、エルフは。
 簡単に見れるような存在ではない。

 初めて見た、エルフという存在。試合が、誰の策略でもなく、止まる……
 そんな中で、ラッへの顔に、眉を寄せ睨みつける者がいた。

「……なあにお姉さん。なにか、言いたそうだね」

 フェルニンだ。

「えぇ。……別にエルフがここにいるのが悪いとか、そもそもエルフに悪感情を持っているとか、そういう問題じゃない」

「それは、どうも」

「それより、気になっていることがある。
 ……なぜ、彼女……エラン・フィールドと、同じ顔をしている」

「……」

 驚愕に震えるフェルニンが紡ぐ、言葉……そして、視線を移す。ラッへも、そしてアルマドロン・ファニギース、ブルドーラ・アレクシャンも。
 さらには、会場上の視線が、エランに注目した……そう、エランは感じた。

 金色の髪、白い肌、尖った耳、緑色の瞳……それは、エルフの特徴だ。
 しかし、そういった"エルフの特徴"を除き去ってしまえば……

 そこにあるのは、エラン・フィールドと瓜二つの、顔だった。

『これは、どうしたことでしょうか……!
 素顔が表れたラッへ選手、しかしその素顔は、同じく試合舞台に立つ、エラン・フィールドとそっくりです!』

 会場のざわめきが、いっそうに強くなる。
 黒髪黒目、珍しい特徴を持つ少女エラン。エランと同じ顔をした、エルフ。

 状況は、困惑の中にあった。

「なぜ、と聞くか。なぜ私に聞く……?」

「……」

「聞きたいのは……こっちだよ……!
 "潰れろ"……!」

 フェルニンの問い、それにしばし考える様子を見せたラッへは……その瞳に怒りを宿す。
 直後、放たれるのは"言霊"だ。

 それは、容赦なく目の前の人物たちに、襲い掛かる。

「っ……」

「ぐぅ……」

 フェルニン、エランは、真上から掛かる負荷に体が潰されてしまいそうな感覚に陥る。
 倒れてしまわないよう、なんとか踏ん張っている。

 一方で、アルマドロン・ファニギースとブルドーラ・アレクシャンは、平然と立っていた。

「……"言霊"を人に向けて放つには、魔力で押しつぶさないといけない。平時の状態なら届かなかった"言霊"も、精神が動揺したおかげであの二人には通じた。
 なのに、そっち二人には効いてないんだね」

「あいにくと、やすやす揺らぐ精神力は持ち合わせていない」

「そもそも、私はあの少女のことはよく知らない。キミと顔が似ているからといって、なにを動揺することがある」

 "言霊"の効果が、表れている者と表れていない者。なるほど、エラン本人とエランを知っている人物なら、この顔に動揺するが……
 そうでなければ、たいした動揺にはならないということだ。

「くっ……あぁあああ!」

 押しつぶされそうな感覚の中、エランは必死に抵抗を始める。
 相手はエルフだとか、自分と顔が似ているとか、いろいろ気になることはある。だけど、今はいい。

 今はただ、試合に勝つことだ!

「ぬ、ぅうううう……!」

「無駄だよ、"言霊"の力からは……」

 凄まじい力に、押しつぶされそうだ。しかし、エランは諦めない。必死に抗い、強く、睨みつける。
 その瞬間、彼女の体に異変が訪れる。

 髪が……彼女の黒髪が、白く変わっていく。
 同時に、溢れ出す魔力。それは、破れないはずの"言霊"の拘束をも、破ろうとして……

「! なん、なんだその力……なんだ、その目は……!
 なんでお前は、私と同じ顔をして……なんでお前は、私と同じ……!」

「ジ、エンッドゥ」

 エランの底知れない力に、ラッへが忌々しげに叫ぶ。
 自分と同じ顔をした相手に。そして、自分と同じ……

 ……そのすべてが言い切られる前に、声が響いた。この場にいる誰のものでもない、男の声が。


 パリンッ……!


 なにかが、割れる……そう、結界が割れた。
 そして、何者かが上空から、降り立つ。包帯で顔をぐるぐる巻きにして、顔を隠した何者かが。

「だ、誰……」

「残念だが……大会は、これにて中止だぁ」

 外部からの干渉は、不可能……そのはずの、結界を砕いて。
 乱入者が、不敵に笑っていた。
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