史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第五章 魔導大会編

352話 エラン、ルリー、音沙汰なし

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 "転移能力"を持つ魔石。その力は、あらかじめ指定された場所に、対象を飛ばすというもの。
 魔石の力が発動すると、魔石を中心に魔法陣が展開される。その後、魔法陣の中に入ったものを転移させる。

 これには、人だけを転移させるもの、物だけを転移させるもの、あるいはその両方……などの種類もある。
 今使われたのは、人だけを転移させるもの。

 魔法陣の中に入ったものは、外に出ることはできない。魔法陣が発動した後、転移の力から逃れる術はないのだ。
 その力により、転移してしまうのは……魔法陣の中にいるもの。

 そして、魔法陣の中のものに、触れている者……だ。

 ――――――

「……っ!」

 レジーに足止めされ、エランは歯痒い思いを感じていた。早く行かなければ、ルリーがひどい目に合わされる。
 チラリと確認すれば、エレガはルリーに近づいている。

 その手には、透明な魔石を持っていた。それが、どんな効果を持つ魔石なのかはわからない。
 だが、嫌な予感がするのは、確かだ。

「っ、どいて!」

「はっ、やなこった。だいたい、なんでダークエルフを庇う」

「友達だから!」

 ダークエルフだからとか、そんなの関係ない。友達だから……助ける理由は、それだけで充分だ。
 それを聞き、レジーは鼻で笑った。

「友達、友達ねぇ。
 なら、その友達パワーでこの窮地を切り抜けてみるんだね」

 小馬鹿にしたレジーの言葉に、エランはまたもルリーの方を気にする。
 膝をつき、動く様子がない。危険が迫っているのに、逃げる素振りすら。

 近くにいるクレアは震えているし、フィルは目を閉じたまま。そもそも子供だ。
 他の人は、魔獣の相手で手一杯。

 こんな、足止めなんかされている場合では、ない!

「ぬぅううう!」

「そんなにあのダークエルフが大事か。はっ、くだらない。見ろあいつの顔を、あいつを見ていた奴の顔を。
 ダークエルフは世界の嫌われ者さ、だから私らが処理してやろうってんだ!」

 クレアの、ダークエルフへの……ルリーへの対する怯えようを見れば、それがどれだけ異様なことなのか、想像はつく。
 だからといって、エランにはルリーを嫌う理由なんて、ない。これまでも、これからだって。

 友達に対する、熱い想い。それがエランの中で昂り、体内の魔力を活性化させる。
 魔力は本人の意思とは関係なしに溢れ出し、その体にも異変を表す。
 黒く美しい髪は、その色を白へと変えていく。

「!」

 黒髪黒目の少女は、白髮黒目へと変貌した。
 その姿にレジーは目を見開き、その動きに一瞬の隙が生まれる。

 その隙を、見逃しはしない。動きの鈍ったレジーの拳を避け、エランは体を捻らせ、飛び蹴りを放つ。

「ぶっ……!」

 鋭いつま先は、レジーの頬へとめり込み、吹き飛ばす。
 着地し、エランはレジーが吹っ飛んでいったのを確認し、すぐさま行動に移した。

 飛ぶように地面を蹴り、ルリーの下へ。ルリーの足下には、魔石が転がり、魔法陣が展開されている。

「わーっ、ママー!」

 どこかから声が聞こえるが、それに構う暇はない。
 光り出す魔法陣。全速力で駆け走り、魔法陣の中にいるルリーに、エランは手を伸ばす。

「だぁあああああああああ!!!」

 ――――――

「ルリーちゃん!!!」

「……!」

 聞こえた声に、はっとする。
 周囲で、あらゆる音が聞こえていた。人々の悲鳴、怒号、嫌悪……そういった、様々な声が。

 そんな中で、ルリーの耳に届いたのは、彼女が今この世界でもっとも信頼する相手の声。
 心の中にぽっかりと空いた穴を埋めてくれる、あたたかな声。

 その声に、ルリーは顔を上げ、方向を見る。
 そこには、ルリーに向かって迫り、手を伸ばしているエランの姿があった。

「エ、ラン、さ……」

「手を!」

 ……友達だと思っていたクレアに拒絶され。自分からすべてを奪った男に眼中にもされなくて。ルリーの心は絶望が支配していた。
 それでも……ルリーを、必死になって救おうとしてくれる人が、そこにいる。

 だからルリーは……その手に向かって、手を伸ばす。

「エランさん!」

「ルリーちゃん!」

 二人の手は、固く繋がれて……その直後、魔法陣がいっそうの輝きを放つ。
 光はルリーを、そしてルリーの手を取ったエランを……包みこんでいく。

 そしてそれは、一瞬のこと。輝きは一瞬にして、消え失せる。
 光が消え、魔法陣は消え、魔石は砕け……あとには、なにも残らなかった。

 転移の光に巻き込まれた、ルリーとエランは……この場から、消えてしまった。

 ――――――

「ちっ、まじかよ。あそこまでするとは」

 ダークエルフと、それを助けようとした少女が消えた。この場から、指定された場所へ転移したのだ。
 それを確認し、レジーは蹴られた頬を擦りながら、忌々しげに吐き捨てた。

 ダークエルフ一人だけを、転移させるつもりが。まさかのイレギュラーだ。
 しかも、それだけではない。

「おい、あのエルフはどうした」

「ん? ……いないね」

 エレガの指摘に、ジェラは己の手の先を見た。
 巨大な手で掴み、握りしめて動きを封じていたエルフ、ラッへ。その姿が、そこにあるはずだった。

 だが、いない。ラッへの姿が、どこにも。
 彼女の姿が、消えていたのだ。

「いつの間にか逃げられてたみたいだね」

「お前な……しっかり握っとけよ。
 って、その腕……」

「痛覚がないのが、たまに傷か」

 見れば、ラッへの黒い腕は、途中から斬れていた。そのため、ラッへは拘束から脱出できたというわけだ。
 ジェラたちの意識がエランに向いている隙に、こっそり魔術でも唱えて腕を斬る……こういうことだろう。

 腕を斬られれば本来なら気づくはずだが、この腕には痛覚がない。それが、こんな形で不覚を取ることになるとは。

「……まさかあのエルフも、転移したってのか?」

「そうだよー、私見てたし。あのエルフが、消える直前にお姉ちゃんの足を掴んでたとこ」

「! ビジーか」

 逃げたラッへの行方、それを話すのは新たに現れた、黒髪黒目の少女だ。
 彼女は無邪気に笑い、エレガはため息を漏らす。

 転移する者の条件は、魔法陣の中にいるか、中にいる者と接触していること。それに、さらに接触している者も適用される。
 今回は、魔法陣の中にいるルリー。彼女の手を取ったエラン。そしてエランの足を掴んだラッへ。
 よって、魔法陣の中にいたルリーに接触したエランに接触したラッへ……この三人が、転移したのだ。

「お前な、見てたなら止めろよ」

「やだよ、どのみち間に合いそうになかったし」

 小さな少女は、ニヤリと笑う。
 それから舌なめずりをして、天を仰ぐ。

「ただ、残念だなぁ。お姉ちゃんは、私が食べたかったのに」

 ずっと、美味しそうだと思っていた。いつか、この腹の中に収めてしまいたいと、思っていたが。
 それも、叶わぬ願いとなってしまったのか。

「また会えたら、今度は絶対食べたいなぁ」

「ま、それは無理だろ。諦めな」

「なんせ、転移先は……」

 物騒な話を、なんでもないように言う。
 黒髪黒目の特徴を持つ、四人。そして会場に忍ぶ、他のメンバーも……

 なにか面白いことがあるかと思って、大会を見に来た。まさか、エルフが紛れ込んでいるなんて。
 過去も、今も、執拗にエルフを狙う彼ら。その目的こそ……

「せっかく"転生"したんだ。好き放題、やらせてもらうよ」

 ……その目的こそ、己の娯楽を満たすために他ならない。壊したいから壊す、殺したいから殺す。
 森の妖精、エルフ。世界中から嫌われているそんな存在を、蹂躙するなど、考えただけでも胸が踊る。

 今回、生き残りを見つけ……いろんなイレギュラーがあったが、これはこれで面白そうだ。
 ダークエルフ、エルフ、そして……エルフの弟子だという人間の少女。

 彼女らの行く先は、文字通りの地獄……その光景を、この目で見れないことが、ひどく残念だ。

「さぁて……どうするかね、この状況」

 なんにせよ、目の前の楽しみは……まだまだ、終わりそうにない。
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