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第六章 魔大陸編
368話 聞こえた声
しおりを挟むルリーちゃんの魔術のおかげで、ドラゴンの動きは一時的に封じた。
……そう、一時的に、だ。そう時間が経たないうちに、冷静さを取り戻せば、また暴れ出す。
その間に、ドラゴンに対する手立てを、考えないといけないんだけど……
「どど、どうする!? どうする!?」
さっき、ラッへの魔力込みのかかと落としは、ドラゴンに効いたように見えたけど……見えただけで、実際にダメージがいったのかは、わからない。
あの硬そうな皮膚だ、生半可な攻撃は通らない。
かといって、魔術はここでは本来の威力を発揮できない。魔大陸の空気は、精霊さんには合わないから。
頼みと言えば、魔大陸の空気と合っている邪精霊と契約している、ルリーちゃん。
でも、使える魔術は、今の目隠しくらいだと言う。
「こ、このまま逃げませんか!?」
「あんなのから逃げれるってのか? すぐに追いつかれて終わりだろ」
「なら、ラッへさんなんとかしてください!」
「大幅に魔力減っちまってんだよこっちは!」
ルリーちゃんの言うように、逃げるのも手だろう。だけど、ラッへの言うように、あんなのから逃げ切れるとも思えない。
魔力を使って全力疾走しても、あの羽……飛べるんだろうし、すぐ追いつかれそうだ。
なら、ここで倒してしまうしか……
「おい」
ふと、ラッへが私を見ていた。
「私?」
「てめえ、あの力使ってなんとかできねえのか」
「……あの力?」
私にどんな意見を求めているのか、と思ったら。
あの力とやらでなんとかしろと、言っていた。その目は真剣で、冗談を言っているようには思えない。
……思えない、んだけど……
「や、あの力って?」
私には、心当たりがない。
それを聞き、ラッへは目を見開いた。
「はぁ!? しらばっくれんじゃねえぞ! あの力だよ、あの、髪の毛が白くなって、魔力が爆発的に飛躍してたやつ!」
「髪の毛が……?
あっはは、やだなぁラッへったら。髪の毛の色が変わるわけないじゃない」
「んだと!?」
ラッへが言う、あの力。髪の毛が白くなって、魔力が上昇した?
なんだそれ、私には身に覚えがない。
ただ、やっぱりラッへの目は真剣だ。そもそも、こんな状況で冗談を言うとも思えない。
「てめっ、こんなときにふざけてんじゃねえぞ!」
私が思っていたことだよそれは。
「ま、待ってください! 私たちが言い合ってても、仕方ないです!」
「……ちっ」
ルリーちゃんが間に入ってくれたおかげで、ラッへは矛先を収める。
……続いて、その視線は魔族の子供へと、向いた。
「もうよ、こいつをドラゴンへの囮にして逃げようぜ」
「!」
「な、なに言ってるんですか! そんなこと、だめに決まってます!」
「魔族なんざどうなろうと知ったこっちゃねえ!」
相変わらず、魔族へのあたりが強いな……もしかして、魔族となんかあったのかな。
けど、それを詮索しているときじゃない。だって……
「グォオオオオオ!」
「ひぃ!」
「そろそろ魔力を手がかりに、手当たり次第暴れ出すかもね……」
残された時間は、わずかだ。
今、ドラゴンが癇癪を起こして暴れてないのは、奇跡と言える。正直、視界だなんだと封じても、あの巨体で暴れられるだけで私たちは手詰まりだ。
こうなったら、ルリーちゃんにまた、前と同じように、攻撃を当てる直前に魔術を解いてもらうか。
今度は魔術じゃなくて魔法をぶつける。普通なら魔術のほうが威力はあるけど、この状況じゃどっちとも言えない。
私とラッへの魔法を合わせれば、まあそれなりの威力にはなるだろう。
この考えを、二人にも伝えようとして……
『イ、タイ……』
「……ん?」
声が、聞こえた。
「ねえ、今誰か、なにか言った? 痛い、とか」
「あぁ? なに言ってやがる」
突然聞こえた、声。それは、いったい誰のものか。
ルリーちゃんか、ラッへか、魔族の子供か……だけど、みんな知らないと言うように首を振っている。
……実は、私も違う、と感じていた。
だって今のは、まるで……頭の中に聞こえてきたような、声だったのだから。
でも、だったらいったい誰の……
『クライ……クルシイ……』
「! また……」
頭の中に何度も聞こえる、声。思わず、頭を押さえる。
誰だ……なんなんだ、これ。というか、声自体にノイズがかかってて、男か女かもわからない。
……そもそも人なのか、これ?
『クロイ、マク……ナニモ、カンジナイ』
「くろい……黒い、幕……? なにも、感じない……って、まさか……!?」
頭の中に聞こえる声、その意味……それを解いたことで、私は一つの可能性に、たどり着いた。
黒い幕……それが、今ドラゴンを覆っている、黒いモヤ闇幕のことだとしたら。
闇幕は、感覚を封じる魔術だと、ルリーちゃんは言った。
あのモヤの中にいる者は、感覚を感じ取ることができない……
まさか、この声の主って……闇幕の中にいる、ドラゴン!?
「おい、さっきからどうしたんだ」
「エランさん……?」
どうやら、この声は私にしか聞こえないみたいだ。
それにしても、ラッヘはともかくルリーちゃんにまで、この人大丈夫か的な目を向けられるのは、なんだかなぁ。
それはそれとして……今聞こえた声が、ドラゴンのものだとしたら……
あのドラゴン、苦しんでいる……!?
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