史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第六章 魔大陸編

371話 魔族の力

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 無害だと思っていた、魔族の子供……彼によって、あっさりとルリーちゃんとラッへは、行動不能に陥ってしまった。
 ルリーちゃんは、魔族の子供の背中から伸びた三本目の手に掴まれて。ラッへは、その場で膝をつかされるほどの謎の力によって。

「なん、っだこりゃあ……!」

「重力操作……魔族と会うのが初めてなら、こんな経験も初めてじゃない?
 重力に押しつぶしきれないのは、驚いたけど」

「重力……ッ?」

 ……重力操作? なんだそれ、そんな技術聞いたことがない。

「キミにかかる負荷のみ、重力を重くした。聞くよりも、感じろ、だ。今キミの身に起こっていることが、すべて」

「どんな仕掛けだ……!」

「さあ」

 もしかして、魔族特有の能力ってことなのかな?
 獣人や亜人にも、その種族によって固有の能力がある。知らない魔族に知らない能力があっても、不思議じゃない。

 まずいな……ラッへはともかく、ルリーちゃんは、下手に動けば体を潰される。
 死ななければ、回復魔術で傷を癒やすこともできる。けれど、この環境じゃあ……

「そっちのエルフは、ほとんど魔力が尽きてる。そっちのダークエルフは、魔術さえ使わせなければたいした脅威じゃない。
 一番脅威なのは、ドラゴンの竜魔息ブレスを防いで見せた、人間……」

「グォオオオオオオオ!」

 私が一番脅威だと思っているからこそ、二人を人質に私の動きを封じる、ってことか。
 どうしよう……そう考えていると、待機を揺るがすほどの咆哮が轟く。

 それは誰のものか、考えるまでもない。これまで成り行きを見ていた、ドラゴンのものだ。
 それは、単に威嚇の咆哮……というだけではない。すさまじい魔力が溜まっていき、ドラゴンの口の中には高密度のエネルギーが……

「って、ちょっとちょっと待って! ラッへとルリーちゃんが、動けな……」

『ワレノ知ルトコロデハナイ』

「それはそうかもだけど!」

 考えてみれば、そうだ。ドラゴンにとって、自分を傷つけた魔族の子供は敵。
 だからといって、私たちの味方ってわけでもない。私たちに敵意がないことは示したけど、だからなんだって話だよな!

 だからって、ラッへもルリーちゃんも動けない状況であんなの撃たれちゃ……ヤバいって!

「ありゃりゃ、それもそうか。ドラゴンにはこのエルフたちの人質作戦は通用しない」

「わかったら離して!」

「それは無理」

 このままじゃ、魔族の子供もろともルリーちゃんもラッへも、ドラゴンのブレスが直撃してしまう!
 あんなの、直撃したらどうなるかわかったもんじゃない!

 そうしている間にも、魔力の密度は上がっていき……

『消エ去レ!』

 ドラゴンの、大きく開けられた口の中で、特大の魔力が固まり、それがカッと光り、放たれて……

「やめてぇ!!!」

 私は、ただ無我夢中で叫んだ。やめて、と。
 こんな叫び、聞き入れられるはずもない。だけど、理屈じゃない。叫ばずには、いられなかった。

 私の言葉も虚しく、ドラゴンのブレスが放たれる……そう、思っていた。

「……あれ?」

 また、あのすんごい攻撃が来る……そう、身構えていたけど。
 いくら待っても、攻撃は放たれない。それどころか、上昇していた魔力の密度が、下がっていく?

 見れば……ドラゴンの口の中に溜まっていた、魔力のエネルギーは……消滅していた。

「な、なんで……?」

 私は、その後景に目を丸くするばかりだ。
 確かに、やめて、と言ったけど……それで、本当にやめてくれた、ってこと?

 ただ……

『……?』

 ドラゴンも、不思議そうにしているのが、気になった。

「くく……あははは! なんだか知らないけど、わざわざドラゴンを止めてくれたってことかな!」

 なにが起きたかわからないのは、魔族の子供も同じだ。
 笑ってはいるけど、人質が通用しなかった以上、本当はヒヤヒヤしていたに違いない。

 でも、このまま好きにさせるわけには……

「ぐ……エラン、さん……私の、ことは、いいですから……!」

「うるさいな、静かにしてろよ」

「! ぎ、ぁあああぁあ!?」

 ルリーちゃんの体が、ぎゅうぅ……と締め付けられる。人一人をわしづかみにして、握りつぶそうとするほどの巨大な手。
 苦しむルリーちゃんの姿に、私は頭の中に血が上っていくのを、感じた。

「お前ぇええ!」

「おいっ、んな状態でむやみに……っ」

 自然と、足が動いていた。ラッへが止めようとするけど、その声では私は止まらない。
 今の私は、魔力が充分じゃない。それに、回復速度だって遅い。調整して使わなきゃっていうのも、わかっている。

 それでも……ルリーちゃんを危ない目にあわせられて、黙っていられるか!

「ルリーちゃんを、離せぇえ!」

「ふん……そんな程度の魔力じゃ、ぼくには傷一つつけられないよ。キミは魔力が尽きるまで、無駄な攻撃を続けると……っ!?」

「おりゃああ!」

 グダグダとなにか言っているが、関係ない。
 私は、右拳に魔力を集中させて、今のありったけを込めて、打つ。どのみち、今の全力が通じなきゃ、ちまちました攻撃も意味ないんだ。

 魔族の懐にまで近づき、拳を振り上げ……思い切り、打ち抜く。
 拳を打ち出し、それが魔族の顔面に当たる直前……なぜだか、爆発的に魔力が上昇したのを、感じた。

「っぶ……!」

 すっかり油断しきっていた魔族は、私の拳をもろに受け、吹き飛ぶ。
 ルリーちゃんを掴んでいた手はルリーちゃんを解放し、ラッへも体に自由が戻ったようだ。

 殴った手が、ピリピリと痛む。それに、私の中に感じる、この魔力は……

「っ、つつ……なん、だ、いきなり魔力が、膨れ上がって……
 なんだ、その姿は!? その髪の色は!」

「?」

 地面に転がっていた魔族は起き上がり、私を見て、激昂する。
 はて、その姿、とはなんだろう。髪の色って……そりゃ、珍しい黒髪だけど。今更そんなこと言われてもな。

 いやそんなことより、私の中に溢れている、この魔力。これ、私自身のもの……じゃない。
 これって、もしかして……

『……ッ、ワレノ、魔力ヲ、吸収シタ……ダト?』

 これ……ドラゴンの、魔力が、私の中に流れてきている?

 
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