379 / 1,141
第六章 魔大陸編
371話 魔族の力
しおりを挟む無害だと思っていた、魔族の子供……彼によって、あっさりとルリーちゃんとラッへは、行動不能に陥ってしまった。
ルリーちゃんは、魔族の子供の背中から伸びた三本目の手に掴まれて。ラッへは、その場で膝をつかされるほどの謎の力によって。
「なん、っだこりゃあ……!」
「重力操作……魔族と会うのが初めてなら、こんな経験も初めてじゃない?
重力に押しつぶしきれないのは、驚いたけど」
「重力……ッ?」
……重力操作? なんだそれ、そんな技術聞いたことがない。
「キミにかかる負荷のみ、重力を重くした。聞くよりも、感じろ、だ。今キミの身に起こっていることが、すべて」
「どんな仕掛けだ……!」
「さあ」
もしかして、魔族特有の能力ってことなのかな?
獣人や亜人にも、その種族によって固有の能力がある。知らない魔族に知らない能力があっても、不思議じゃない。
まずいな……ラッへはともかく、ルリーちゃんは、下手に動けば体を潰される。
死ななければ、回復魔術で傷を癒やすこともできる。けれど、この環境じゃあ……
「そっちのエルフは、ほとんど魔力が尽きてる。そっちのダークエルフは、魔術さえ使わせなければたいした脅威じゃない。
一番脅威なのは、ドラゴンの竜魔息を防いで見せた、人間……」
「グォオオオオオオオ!」
私が一番脅威だと思っているからこそ、二人を人質に私の動きを封じる、ってことか。
どうしよう……そう考えていると、待機を揺るがすほどの咆哮が轟く。
それは誰のものか、考えるまでもない。これまで成り行きを見ていた、ドラゴンのものだ。
それは、単に威嚇の咆哮……というだけではない。すさまじい魔力が溜まっていき、ドラゴンの口の中には高密度のエネルギーが……
「って、ちょっとちょっと待って! ラッへとルリーちゃんが、動けな……」
『ワレノ知ルトコロデハナイ』
「それはそうかもだけど!」
考えてみれば、そうだ。ドラゴンにとって、自分を傷つけた魔族の子供は敵。
だからといって、私たちの味方ってわけでもない。私たちに敵意がないことは示したけど、だからなんだって話だよな!
だからって、ラッへもルリーちゃんも動けない状況であんなの撃たれちゃ……ヤバいって!
「ありゃりゃ、それもそうか。ドラゴンにはこのエルフたちの人質作戦は通用しない」
「わかったら離して!」
「それは無理」
このままじゃ、魔族の子供もろともルリーちゃんもラッへも、ドラゴンのブレスが直撃してしまう!
あんなの、直撃したらどうなるかわかったもんじゃない!
そうしている間にも、魔力の密度は上がっていき……
『消エ去レ!』
ドラゴンの、大きく開けられた口の中で、特大の魔力が固まり、それがカッと光り、放たれて……
「やめてぇ!!!」
私は、ただ無我夢中で叫んだ。やめて、と。
こんな叫び、聞き入れられるはずもない。だけど、理屈じゃない。叫ばずには、いられなかった。
私の言葉も虚しく、ドラゴンのブレスが放たれる……そう、思っていた。
「……あれ?」
また、あのすんごい攻撃が来る……そう、身構えていたけど。
いくら待っても、攻撃は放たれない。それどころか、上昇していた魔力の密度が、下がっていく?
見れば……ドラゴンの口の中に溜まっていた、魔力のエネルギーは……消滅していた。
「な、なんで……?」
私は、その後景に目を丸くするばかりだ。
確かに、やめて、と言ったけど……それで、本当にやめてくれた、ってこと?
ただ……
『……?』
ドラゴンも、不思議そうにしているのが、気になった。
「くく……あははは! なんだか知らないけど、わざわざドラゴンを止めてくれたってことかな!」
なにが起きたかわからないのは、魔族の子供も同じだ。
笑ってはいるけど、人質が通用しなかった以上、本当はヒヤヒヤしていたに違いない。
でも、このまま好きにさせるわけには……
「ぐ……エラン、さん……私の、ことは、いいですから……!」
「うるさいな、静かにしてろよ」
「! ぎ、ぁあああぁあ!?」
ルリーちゃんの体が、ぎゅうぅ……と締め付けられる。人一人をわしづかみにして、握りつぶそうとするほどの巨大な手。
苦しむルリーちゃんの姿に、私は頭の中に血が上っていくのを、感じた。
「お前ぇええ!」
「おいっ、んな状態でむやみに……っ」
自然と、足が動いていた。ラッへが止めようとするけど、その声では私は止まらない。
今の私は、魔力が充分じゃない。それに、回復速度だって遅い。調整して使わなきゃっていうのも、わかっている。
それでも……ルリーちゃんを危ない目にあわせられて、黙っていられるか!
「ルリーちゃんを、離せぇえ!」
「ふん……そんな程度の魔力じゃ、ぼくには傷一つつけられないよ。キミは魔力が尽きるまで、無駄な攻撃を続けると……っ!?」
「おりゃああ!」
グダグダとなにか言っているが、関係ない。
私は、右拳に魔力を集中させて、今のありったけを込めて、打つ。どのみち、今の全力が通じなきゃ、ちまちました攻撃も意味ないんだ。
魔族の懐にまで近づき、拳を振り上げ……思い切り、打ち抜く。
拳を打ち出し、それが魔族の顔面に当たる直前……なぜだか、爆発的に魔力が上昇したのを、感じた。
「っぶ……!」
すっかり油断しきっていた魔族は、私の拳をもろに受け、吹き飛ぶ。
ルリーちゃんを掴んでいた手はルリーちゃんを解放し、ラッへも体に自由が戻ったようだ。
殴った手が、ピリピリと痛む。それに、私の中に感じる、この魔力は……
「っ、つつ……なん、だ、いきなり魔力が、膨れ上がって……
なんだ、その姿は!? その髪の色は!」
「?」
地面に転がっていた魔族は起き上がり、私を見て、激昂する。
はて、その姿、とはなんだろう。髪の色って……そりゃ、珍しい黒髪だけど。今更そんなこと言われてもな。
いやそんなことより、私の中に溢れている、この魔力。これ、私自身のもの……じゃない。
これって、もしかして……
『……ッ、ワレノ、魔力ヲ、吸収シタ……ダト?』
これ……ドラゴンの、魔力が、私の中に流れてきている?
1
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる