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第八章 王国帰還編
553話 国の騒ぎ
しおりを挟む理事長室に入り、私とルリーちゃんはソファーに座る。
この部屋にいるのは、私とルリーちゃん、サテラン先生、ルリーちゃんの担任、そして理事長に校長、教頭だ。
これから聞くのは、私たちがこの国にいなかった間の出来事。
魔導大会の最中に、転移の効果を持つ魔石で飛ばされた。その先は魔大陸……そこから帰ってくるまでの間に、いったいなにがあったのか。
これまで断片的な情報しか聞いていなかった。
この国をめちゃくちゃにしたエレガたち本人は意味深に笑うだけだし。
帰って来てからもみんな、私たちのこと気にするばかりで聞くタイミング逃しちゃったからなぁ。
「騒ぎが起こったのは、魔導大会決勝戦の最中。
事態の変化は、私たちよりも当人のエラン・フィールドさんの方が詳しいと思います」
ローランド理事長の言葉に、私はうなずいた。事態が動いたのは、魔導大会決勝戦。
その決勝戦の場に、私はいた。
誰に聞くよりも、私はこの目で直接見ている。
会場を覆う結界が壊され、エレガ、ジェラ、レジー、ビジーが乱入してきた。
そして、あいつらが操る怪鳥……いや白い魔獣、ウプシロンと呼ばれたそれが。
「私たちも、当時決勝にいた者に話を聞いて、状況は整理した」
サテラン先生が言うには、決勝に進んだ人に話を聞いたようだ。もちろん、いなくなった私とラッヘ以外の。
確か、他に決勝に進んだのは……Aランク冒険者魔導士のフェルニンさんと、ブルドーラ・アレクシャンって貴族だったか。
それと、前回優勝者のアルマドロン・ファニギース。
強い人の名前は、それなりに覚えてるよえっへん。
……それにしても、ブルドーラ・アレクシャンって筋肉男と家名がおんなじだよなぁ。
「他の人たちは、無事なんですか?」
「あぁ。さすがは決勝進出者と言うべきだろう、騒ぎの中心にいたにも関わらず無事だ」
そっか、よかった。
あの場にいたままでは危ないから、あのあとどうなったのか気になっていたんだ。
男二人はともかく、フェルニンさんは冒険者だし……冒険者ギルドに行けば会えるだろうか。
「突如の乱入者、そして魔獣の出現により、場内は混乱に包まれました。私たちも、恥ずかしながらしばらく動けませんでした」
国を挙げての一大イベントだ、理事長たちも会場にいたのだろう。
そんな、お祭りイベントの最中にあんなことがあったら驚いてしまうのは仕方ないだろう。
「しかし、理事長はすぐに指示を出してくださったではないですか」
「いえ、もっと早く指示を出せたはずです」
校長の言葉に、理事長は首を振る。
自分がもっと早く動けていたらと、悔いているようだ。
人が求めているものと、自分が求めているものは違う……この人は、自分に求めるものが高いんだろう。
それも、理事長という立場から、か。
「しかし、あの状況です。自分から動くものも少なくはありません」
指示を待つまでもなく動く人たち……あー、決勝の男二人とかやりそうー。
まあ、あの状況だと行動せざるを得ないんだろうけど。
「避難と、そして魔獣の迎撃。周囲への被害を抑える者と、手分けをしたのですが……」
「奴ら、あの黒髪の人間たち。お前たちが転移させられたあと、白い魔獣を好きに暴れさせ、他にも魔物を呼んだと思えば、自分たちは魔物に乗ってどこかに行きやがった。
追跡も、途中で撒かれてな」
まるで目的を果たしたみたいに……と、サテラン先生がつぶやく。
エレガたちは元々、ルリーちゃんだけを魔大陸に転移させるつもりだった。そこに巻き込まれる形で、私とラッへも転移した。
エレガたち的には、それで目的は達成したのだろう。
その後は、魔獣や魔物を好き勝手暴れさせたわけだ。
「魔獣とは何度か戦ったことがありますが、あの白い魔獣は別格でした。
おまけに、現れた魔物も普通の魔物とは別次元の強さでした」
「さすがに苦労させられましたな」
先生たちの話を聞くに、出現した魔獣、魔物の対処はかなり手こずったみたいだ。
それでも……エレガたちがいなかった分、それだけ負担は減っていたんだと思う。
会場にいた魔導士たちと、魔獣たちとの乱戦は、想像するだけでもかなりの混戦だったことはわかる。
それでも、すべてをさばき切れるわけではない。
「会場内で押し留められなかった魔物が、会場の外に出て……町に被害をもたらしてしまいました。力不足です」
あちこちで暴れ回る魔物が、建物を破壊していく。
そんな状況でも、なんとか対処できたのは……
「ザラハドーラ前国王が指揮を取ってくださり、徐々に落ち着いていったのです」
理事長はあくまで、魔導学園のおえらいさんだ。それよりも、国王という立場の人が指揮したほうが、より効力を発揮する。
それはそれは的確な指示で、あっという間に魔物を鎮圧していったらしい。
それでも、出てしまった被害はある。
「負傷者重傷者は多く出ています。この学園の生徒会長であるゴルドーラさんも、その一人です」
「……っ」
その事件で重傷を負ったという、ゴルさん。
今や療養しているみたいだけど……ゴルさんほどの実力者が重傷になってしまうなんて、事態の深刻さがうかがえる。
それに、それだけじゃない……
「それだけの被害がありながら、死者の情報は入っていません。
……この国の国王であった、ザラハドーラ・ラニ・ベルザ様を除いて」
国中を揺るがす大事件でも、死者は出なかった……ただ一人を除いて。
そしてその一人こそが、この国の国王だった人なんだ。
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