史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第九章 対立編

609話 死んだ方がよかった

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 この体はあたたかいと。クレアを抱きしめながら、ルリーはそう言った。
 あの一件以来、誰とも触れ合うことなどしてこなかった。部屋にこもり、ルームメイトのサリアとさえも顔を合わせることはなく。

 だから、触れてあたたかいなどと言われて……少なからず、クレアは動揺した。
 それは、驚きであり、ほんのわずかな喜びであり……

 ……隠しきれない、怒りだった。

「お前のせいで、私は……!」

 生きているのか死んでいるのかもわからない。そんな体にされて、心までぐちゃぐちゃになって。
 そんな体にした本人から、なにをぬけぬけとした言葉を聞かされて。

 クレアは、自分に抱き着いたままのルリーを強引に引きはがしにかかる。

「お前に、私の気持ちがわかる!? ……食べることも、寝ることもできるわ。できるけど……お腹も空かない、眠くもならない! 普通に生きていたら、そんなのはありえない!
 こんな状態で、あたたかい!? そんな言葉で、私が安心するとでも思ったの!?」

「ぅ、ぐ……っ、クレア、さんは……! ……そんな状態にしてしまって、ごめんなさい。でも、私はあの時、必死で……目の前でクレアさんが、死んでしまって……
 このままお別れなんて、嫌だから。だから、私はクレアさんを……! あのままだと、クレアさんは死んだままで……」

「こんな身体になるくらいなら、死んだ方がよかったわよ!」

「!」

 その、心の底から出てきた言葉に、ルリーの手の力が緩む。
 その隙を見逃さず、クレアはルリーを押し飛ばした。自分も、後ずさり距離を取る。

 ふらふらとふらつくルリーは、しかしなんとか倒れないように踏ん張る。

「……っ」

 死んだ方がよかった……その言葉はルリーに、大きな衝撃を与えた。
 以前、エランがクレアに会いに行った時、クレア自身がそう言っていたと聞いた。こんな身体になるくらいなら、死んだ方がよかったと。

 クレアがそう感じていることは、わかっていた。
 わかっていたが……いざ本人の口からそれを聞くと、想像していた以上に堪えるものだ。

 エランも、同じ気持ちだったのだろうか。

「なに、驚いてるの? もしかして、命を救ってやったんだからさぞ感謝されるだろう……とでも思ってた? そうよね、普通の人なら、そんな風に感謝でも述べるんでしょうね」

「く、クレアさん……」

「ごめんなさいね。私もう、普通の……いや、人ですらないから」

 自虐的に笑うクレアを前に、ルリーは言葉を失った。
 感謝されたいなんて、考えたことはない。こんな……クレアにこんな顔をさせたくて、彼女の命を繋いだのではない。

 まさか、自分の行いが……こんなにも彼女を苦しめていたなんて、思いもしなかった。

(わた、しは……)

 本当ならば、クレアを生き返らせた直後に話をするべきだったのだ。
 だが、ルリーは魔大陸に転移させられ……話し合いの機会は、失われた。

 その後、ルリーはエランたちがいたおかげで乗り切れた。
 だが、クレアはどうだ。誰にも相談できず、一人で抱え込み、負の感情だけを募らせて……

 彼女の心の傷は、誰にも知られることなく、大きく膨れ上がっていった。

「もし、あのときちゃんと、話が出来てたら……こんなことには、ならなかったんでしょうか」

「さあ。それに、そんな想像意味がないわ。
 私と話がしたいなら、私を倒してみせろ!」

「!」

 これ以上会話に付き合うつもりはない、と言わんばかりに、クレアは杖を振るう。
 燃え上がる火の弾が、ルリーに向かって放たれる。

 それをルリーは、今までのように防御にて受け止める……のでは、ない。

「話がしたいなら……」

 クレアと話をする。それが、ルリーが望んだ決闘の勝利で要求したものだ。
 先ほどまでのように、攻撃を回避し続けていても勝機はない。それは、その通りだから。

 ルリーは杖を、迫り来る火の弾へと向ける。巨大な攻撃だ。
 人一人くらい、簡単に包み込めてしまうだろう。

 それを……

「はっ」

 ルリーは、指先ほどの大きさしかない水の弾で、迎え撃つ。
 いくら火に対しての水とはいえ、質量が違う。こんなもの、すぐに蒸発されて終わりだ。

 そのはず、だった。


 ドパァン!


「!?」

 目の前で、巨大な火弾が弾けて消滅した様子を見て、クレアは目を見開いた。
 今、なにが起こったのか……ルリーが放ったのは、小さな水の弾だ。

 いくら火と水の相性があるとはいえ、規模が違うはずだ。なのに、なぜ。

「私の……エルフ族の眼なら、これくらい容易いことです」

「は……」

 直後、ルリーはいくつもの水の弾を発射させる。
 本来魔法に詠唱は必要ないが、それを引いても素早い撃ちだ。

 クレアは足に身体強化の魔法をかけ、走ってかわす。
 それを追いかけるように、ルリーは魔法を撃ち続ける。早撃ちのそれは、徐々にクレアとの距離を詰めていく。

「おぃ、すごいね」

「うん」

 それを観戦するナタリアは、感心した声を漏らす。
 隣でうなずくエランは、ルリーの魔法に目を奪われていた。

 ルリーは、魔法の早撃ちが得意だ。学園の入学試験で、その力の一端を見た。
 早撃ちに限れば、エラン以上だ。

 さらに、エルフの"魔眼"は魔力の流れを見る。先ほどは、クレアの魔法に対して、一番弱い場所……つまり弱所を見抜いた。
 そこを正確に撃ち抜いたことで、質量の大きな魔法も打ち砕くことが出来たのだ。
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