史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

文字の大きさ
622 / 1,198
第九章 対立編

610話 憎むべき相手

しおりを挟む


 ルリーが放つのは、水の弾。それが次々と放たれる。
 しかも、ルリーは魔法の早撃ちが得意だ。隙を与えない連続攻撃は、クレアから徐々に余裕を奪っていく。

 身体強化の魔法を使ってなお、避けきれるとは言い難い。
 魔法障壁で防ぐ手もあるが、先ほど弱所を見切られて魔法を破られたように、魔法障壁の弱所なんてものを突かれたらたまったものではない。

「なんで今度は、逆なのよ……!」

 迫る魔法を避けながら、クレアは舌打ちをする。
 先ほどまでは、自分がルリーを追い詰めていたはずだ。なのに、今や自分がルリーに追い詰められている。

 ダークエルフに、追い詰められている。許されないことだ。

「っ、りゃあ!」

 クレアは振り向きざまに、杖を振るう。
 横薙ぎの突風が、水の弾を打ち消した。スピードがあるとはいえ、パワーはさほどないのだ。

 そのまま、突風は風の刃となってルリーへと向かう。
 見えない刃はルリーの体を巻き込み、その身を刻んでいく。腕が、脚が、頰が、刃に刻まれ血が流れる。

「うぐっ……やぁ!」

 突風の中で身動きが取れなくなりつつも、ルリーはかろうじてその場から脱出。
 横に飛び、倒れるように地面に転がる。やはり、結界内ではこの程度の傷はそのまま本人に刻まれる。

 皮膚が切れた程度だ……だが、ジクジクとした痛みが、ルリーを襲っている。

「どう? 痛いでしょ……じわじわと、なぶってやる」

 相変わらずクレアは、追撃をしてこない。ルリーに地道にダメージを与えていくつもりだ。
 ゆっくり立ち上がるルリーは、数度の深呼吸。こういうときに、慌ててはだめだ。

 痛いとは言っても、たいした痛みではない。
 この程度……クレアが受けた痛みに比べれば、なんともないはずだ。

「……クレアさんは、私が出ていったあと……どうするんですか?」

「なに? もう諦めたの? 降参のつもり?」

「いえ……
 ただ、ダークエルフである私がこの国から去ったところで、クレアさんの身体は元には戻りませんよ。そこ、どう考えてるのかなって」

「……っ!」

 ルリーの指摘に、クレアの頭にはカッと血が上っていく。
 クレアは、今の身体になったことに絶望している。だからダークエルフに、ルリーに怒りを募らせる理由は分かる。

 だが、ルリーをこの国から追い出したところで、自身の身に起こったことはなかったことにはならない。

「そんなの、少なくともあんたの顔を見なくて済むからよ」

「そうですか……」

 それは、なんの意味があるのだろう。挑発だろうか。
 クレアには、ルリーの考えていることがわからない。わかりたくもない。
 ダークエルフの、考えていることなど。

 これが挑発だとして、ならばなんともお粗末だ。
 確かに苛立ちはしたし、頭に血が上ったが、それだけだ。我を忘れたりするほどではない。

「今まで、ダークエルフと一緒に過ごしてたんだと思うと……吐き気がするわ」

「……ダークエルフが、世間から嫌われているのは知っています。でも私は、みなさんと……クレアさんと、仲良くしたい」

「夢物語ね」

 もし、ルリーが勝ったとして、クレアとちゃんと話し合いはできるのだろうか……そんな疑問さえ、浮かんでくる。
 それでも、やらなければならない。ダークエルフがみんなからどう思われていたかなんて、わかっていたはずだ。

 ダークエルフにとっても、人間は……本来、憎むべき相手なのだ。
 家族を、仲間を、故郷を奪った人間を。

 でも、みんながみんな悪人でないことを知っている。ダークエルフだと知っても、友達と言ってくれた人がいた。
 そんな人と離れたくないから……

「力付くでも、話し合いに参加してもらいます!」

 ルリーは己の魔力を練り上げ、身体強化の魔法を全身にかける。

 それを見て、クレアはわずかに反応した。全身強化など、自分でもできないのに。
 エルフ族とは、魔力の扱いに長けていると聞く。それはエルフもダークエルフも同じなのだろう。

 だから、クレアもできない魔力による全身強化を、簡単にやってのけた。

「行きます!」

 律儀に口に出してから、ルリーは一歩踏み込む。
 普段の様子を見るに、ルリーは肉弾戦は得意ではなさそうだ。だが、あえて今、身体強化の選択肢を取った。

 迫りくるルリーを前に、クレアもまた身体強化の魔法を足にかける。
 ルリーやエランのように全身には魔力を纏えなくても、足だけならば。なにをしてこようとも、避ける準備を整えておく。

 そして、クレアは腰を落とし、次なる行動を見つめ……

「分身魔法!」

「!」

 しかし、クレアの目の前の景色が変わる。
 突撃してきていたルリーの姿が、増えたのだ。一人から二人に。

 分身魔法。これも、エランが使っていたものだ。ゴルドーラとの決闘の際、ゴーレム相手に複数もの分身を作り出した。
 ルリーは、二人。分身を一人しか作れないのか、あえてなのかはわからないが。

 いずれにせよ、猛スピードで迫ってくる敵が、二人に増えたということ。

「……っ」

 業腹ながら、クレアは後ろに飛び距離を取る。
 当然ながら、ルリーはクレアを追う。距離は縮まらないが、広まりもしない。

 エランは、言っていた。分身魔法は、増やせば増やすだけ力が減るのだと。
 例えば二人であれば、本来の力の二分の一。十人であれば、本来の力の十分の一。
 増やせばそれだけ有利になる、わけではない。個々の力が減少するのだ。

 それでも……目の前のルリーの速度も、魔力も、減っているようには思えなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています

きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。 敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。 結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。 だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。 「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」 謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。 少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。 これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。 【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】

1000年ぶりに目覚めた「永久の魔女」が最強すぎるので、現代魔術じゃ話にもならない件について

水定ゆう
ファンタジー
【火曜、木曜、土曜、に投稿中!】 千年前に起こった大戦を鎮めたのは、最強と恐れられ畏怖された「魔女」を冠する魔法使いだった。 月日は流れ千年後。「永久の魔女」の二つ名を持つ最強の魔法使いトキワ・ルカはふとしたことで眠ってしまいようやく目が覚める。 気がつくとそこは魔力の濃度が下がり魔法がおとぎ話と呼ばれるまでに落ちた世界だった。 代わりに魔術が存在している中、ルカは魔術師になるためアルカード魔術学校に転入する。 けれど最強の魔女は、有り余る力を隠しながらも周囲に存在をアピールしてしまい…… 最強の魔法使い「魔女」の名を冠するトキワ・ルカは、現代の魔術師たちを軽く凌駕し、さまざまな問題に現代の魔術師たちと巻き込まれていくのだった。 ※こちらの作品は小説家になろうやカクヨムでも投稿しています。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク 両親は村を守る為に死んでしまった 一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。 神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。  そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...