史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第九章 対立編

611話 全力で応えろ

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 クレアに向かって迫るルリーは、二人。分身魔法により、その数を増やしているからだ。
 その身には、身体強化の魔力を纏っている。

 分身魔法は、分身の数だけ個々の力も減少するというが……ルリーにそういった様子は、見られない。

「ちっ……」

 集中するべき対象が、二人に増えた。たったそれだけのことと言ってしまえばそうだが、一対一の状況においてそれは大きな問題だ。
 以前エランがゴルドーラに対して分身魔法を使用した時は、ゴルドーラと使い魔相手だったからそれほどのアドバンテージは発生しなかった。

 視界を共有でき、そもそも自立している使い魔がいれば、相手が増えても対処は可能だ。
 だがクレアには、それができない。

 生者とも死者とも言えない体になった……とはいえ、この身が一つであることに変りはない。

「面倒な……!」

 そうして、思考を重ねている時間ももったいない。
 クレアは杖を構え、目玉を動かし二人のルリーを見る。

 分身とは言っても、エラン曰く実体のある魔法だ。実際に、ゴーレムと戦っていた。
 本体プラス分身という形ではある。そのため、本体を撃ち抜けば分身も消える……はずだ。

 ルリーの本体を当てる可能性は、二分の一。分身と言うだけあって、ぱっと見違いは見られない。
 片方を攻撃し、それが本体でなければ……攻撃の隙を突かれる。
 いや、そもそも本体を当てたとしても、攻撃を防御されれば意味はない。

「だったら……」

 いちいち考えるのも面倒だ。
 どちらが正解かわからないなら。どちらも倒してしまえばいい。

 クレアは魔力を練り上げ、自らを中心に突風を起こす。
 すさまじいまでの風に、ルリーの足も止まった。

「……くっ」

 なんとか吹き飛ばされないように、その場で踏ん張る。それほどの風。
 観戦席にいる、エランたちにも迫る風だ。間近で受けているルリーにはどれほどの影響だろうか。

 これを受け、ルリーには一つの疑念が浮かんだ。
 これが本当に、ただの魔法なのか……と。

「あー、ホント腹立つ……自分の中で、魔力の貯蔵量が大きくなってるのがわかる」

「!?」

 ふと、ルリーの耳元でクレアの声が聞こえた。
 とっさにルリーは振り返るものの、そこにクレアの姿はない。

「けど、感謝なんてしないから。……するはずもない」

「ど、どこに……」

 もはや、目も開けられないほどの突風。そんな中でも、クレアの声だけは届く。
 風に、自分の声を乗せているのだ。だからまるで耳元にいるかのような錯覚に陥るし、自分の居場所も気取らせない。

 そしてこれが、ただ自分の姿を隠し相手を翻弄するだけのもの……でないことも、わかっていた。

「! きゃっ」

 視界の端で、なにかがカッと光る……その直後、軽めの爆発が起こった。
 軽めとはいえ、近くで起きたものだ。直撃こそしなかったが、爆風を受けただけでもダメージには充分だ。

 それに、一定以上のダメージは無効化してくれる結界内であっても、爆発の"熱"はそのまま体に残る。
 疲労などもそうだ。結界内であっても、残るダメージは確かにある。

「あぐ!」

 地面に倒れるルリーは、爆発の衝撃で吹き飛んだからだ。
 ズザザ……と腕が擦れる。生々しい切り傷が、刻まれる。

「くっ……風で位置を察知できないようにしてから、爆発を……」

「ただ攻撃しても、防がれるか避けられるからね。一旦あんたの動きを封じて、二人いっぺんにどかん。
 ……あんたが本物みたいね」

 見れば、爆煙の中から現れるように、クレアが歩いている。
 分身魔法の効力は切れ、今やルリー本体一人。

 エランであれば、あの爆発を受けても分身が消滅することはなかっただろう。
 分身魔法を見てから、練習してできるようになっても……二人程度なら個々の力をそのままにできても……まだまだだ。

「……クレアさんと手合わせしたことは何度かありますけど、まるっきり戦法が違いますね」

「そうね。誰かさんのおかげで、この体は魔力に満ち溢れているから……もう少し、大胆でもいいかしら」

 クレア自身も気付いているだろう。彼女の魔力量は、以前とは段違いに増えていることを。
 さっきの突風だって、以前の彼女の魔力なら、あそこまでのものにはならなかったはずだ。

 これがもし、クレア本人の努力の賜物により上昇した力であれば、彼女も手放しで喜んでいただろう。
 だが、実際はそうではない。

 それがまた、クレアの苛立ちを募らせていた。

「エルフってのは、魔力の扱いに長けた種族だって聞いてたけど……案外、たいしたことないのね」

「!」

「それとも、まさか私に遠慮しているわけじゃないわよね?」

 一歩一歩と近づくクレアが、杖を向ける。
 その足取りに、迷いはない。

 その姿にルリーは、一度目を閉じる。遠慮なんかしていない、自分は全力で……
 ……いや、本当にそうか?

 相手が魔術を使えないからと。自分もこの決闘では使わないと言った。だが、それは相手に全力で応えていることになるのか?
 クレアにとってこの決闘は、そんなお行儀のいい正々堂々としたものではない。だが、ルリーにとっては……

「!」

 静かにルリーは、杖の切っ先をクレアへと向ける。

 絶対に勝つ。それは、自分が決めたことだ。
 それで全力を尽くさないのは、失礼だ。自分にも……クレアにも。

 それに……今のクレアは、全力を見せずして勝てる相手ではない。
 だから……

「全てを包み込みし、漆黒の闇よ……」

 ルリーの口から、魔術の詠唱が紡がれる。
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