史上最強魔導士の弟子になった私は、魔導の道を極めます

白い彗星

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第九章 対立編

613話 悪趣味な魔術

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「はぁ、はぁ……」

 目の前の光景に、ルリーはただ激しく呼吸を繰り返し、見つめていた。
 魔導の杖を構え、その先端からは黒いもやが放たれている。

 その黒いもやは、対象……クレアの身を包み込むように囲っている。
 クレアの姿はもはや、黒いもやに包み込まれて見ることは出来ない。

「はっ、は……」

 魔術の行使には、精神力を大きく消費する。魔術という繊細な力を使うこと、精霊、邪精霊の力を借りること。
 しかし、ルリーが今息を荒くしているのは、まったく別の話だ。

 これまで友達だと思っていた相手から向けられる、憎悪、敵意……殺意。
 それを一身に受けて、無事なわけがない。先ほどまでは、なんとか平常心を保っていたが。

 少し気が緩んでしまったのか、ルリーは膝を折り地面に膝をついた。

「はぁ……ふぅ……」

 魔術の集中力は切らさないように注意しながら、ルリーは深呼吸を繰り返す。
 少しだけ、落ち着いてきた。

 今ルリーが使っている魔術は、破られない限り自身の集中力が続く分だけ効果は続く。
 攻撃系統の魔術は、ある程度放てば終わりだ。だが、集中力が続くだけ持続するこの魔術は、ゴーレム召喚に近いものがある。

 もっともこれは、魔力により物体を生成するものではない。相手の五感に作用するものだ。
 一般的に魔術に、相手の五感、精神に干渉する者などない。
 それはもう……闇の魔術の領域だからだ。

「……このまま……」

 このまま、クレアが戦意喪失してくれれば……ルリーはそんな気持ちを、抱く。
 クレアとは、まだ学園が健在だった頃、何度か手合わせをしたことがある。

 お互いに、全力ではなかった。それでも、充実した時間だった。
 それを思い出せば、わかる。クレアの力は、あの時とは比べ物にならないほどに上昇している。

 ただ一つ、クレア自身の問題……練習不足。
 あの身体になって、ずっと部屋にこもっていた。つまり、自分の力を試していないのだ。
 もし、クレアが以前のように、意欲的に自分の力を確認し、さらなる発展を望んでいたとしたら……

「私の、負け……」

 力が上がっていても、経験が足りない。エランとはまた違った形で、経験不足が表に出ている。
 そうでなければ、ルリーはとっくにやられていた。

 それこそ、魔術を出す暇さえもなく。

「……」

 この決闘の勝敗に、明確なルールは設けられていない。
 ただ、降参かあるいは……誰の目にも戦闘不能だとわかれば、勝敗は決する。

 そのため、ただ黒いもやで囲っただけでは、相手を戦闘不能にしたとはいえない。
 この魔術を受けた相手が、戦意喪失してくれるのが、一番手っ取り早い。

 ……本音を言えば、この魔術を友達には使いたくはなかった。
 これは対象の感覚を殺す魔術。黒いもやの中にいる者が、いくら騒ごうが外には聞こえないし、なににも触れられない。

 視界も塞がれ、目も耳も口も鼻も手も機能しない。なにもない暗闇の中に放り込まれれば、人間というのは耐えられない。
 これは人相手に使うには、あまりにも悪質すぎる。そして、そんな魔術を使える自分も……

「……! ぇ……」

 しかし、次の瞬間にルリーの見ている景色に、異変が起こる。
 黒いもやは、ルリー自身の意思で解除するか、精神力を乱されるか、それとも内から破壊されない限りは継続する。

 ルリーは解除することはないし、精神にも余裕がある。
 しかし、ならばどうしてもやに、変化が見られるのだろうか。

 答えは、一つだ。

「……ふぅ、悪趣味な魔術ね」

「く、クレアさん……」

 霧が晴れるように、もやの中から姿を現したのは……もやの中にいた、クレアだ。
 もやの中では、全ての感覚が殺され、認識すらも曖昧になる。外から見れば、ただ黒いもやで覆っているものも……もやに包まれた者にとっては、いくら歩いても進んでいない感覚に陥る。

 内から破壊するのがこの魔術の突破口ではあるが、それはほとんど不可能だ。
 強大な魔獣でさえ、本能のままに暴れまわることしかできなかった。

 ならばなぜ、クレアは無事に脱出できたというのだろうか。

「ど、どうやって……」

「どうやって? ……素直に教えてやるわけないでしょ、ばーか」

 ルリーの困惑をよそに、クレアは魔力を練り上げ、魔法を放つ。
 いくつもの魔力弾をイメージし、それを放つ。油断していたルリーは、一撃をもろにくらってしまう。

「あ……ぐっ……」

 しかし、その場で倒れることは防ぐ。なんとか踏ん張り、残りの攻撃をかわしていく。
 それでも、一撃いいのをもらったためか、動きは鈍い。

「はぁ、はっ……」

「ほらほら、どうした。そんなもんか、ダークエルフ!」

 逃げるルリーの足下が、急激にぬかるむ。
 それを確認すると、固い地面がまるで泥のように変化しているではないか。

 先ほども、足場を凍らされた。やはりクレアの魔法によるものだ。
 それにしても、地面を変質させるなんて、よほどの魔力量がなければ不可能だ。

「く、そ……!」

 なにはともあれ、このままでは地面に足を取られて動けなくなってしまう。
 そうならないために、ルリーは思考を浮遊魔法へと切り替える。魔術の使用で多少なり疲弊はあるが、まだ倒れるわけにはいかない。

 空中に見えない足場を生成し、それに飛び乗る。

「あんたって、結構単純思考よね」

「!」

 ルリーの耳に、クレアの声が届いた。
 ルリーの視線がクレアに向いた頃には……クレアの杖は、ルリーを捉えていた。

「落ちろ」

 その直後……ルリーの体を、激しい雷撃が包み込んだ。
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