634 / 1,198
第九章 対立編
622話 ルリーの過去⑯ 【迫害】
しおりを挟む「…………んぅ」
私はその晩、身を隠すようにして眠った。
故郷の森ほどではないにしろ、身を隠すのに最適な森を発見したので、そこでだ。
草木の間に座り込み、膝を抱えて眠る。
ふかふかのベッドで寝ていた昨日が、嘘みたいだ。眠る前にお母さんやお父さん、お兄ちゃんとお話していたのが、嘘みたいだ。
膝を抱えて、膝に額を押し付け、目を瞑る。
多少は、寝れたはずだ。
……なのに、頭はぼんやりして、眠気は残ったままだ。
「……もう、朝」
木々が生い茂る森の中でも、太陽の光が差し込んでくる。
それが、今が朝だと伝えてくる。
私はよろよろと、立ち上がる。木を手伝いに、ゆっくりと。
ずっと目をつぶっていたし、多少は寝れたはず……体の疲れも取れているはず。
でも、ぐっすり寝たって気持ちは、ない。
寝たら、あの光景が夢に出てきそうだから。
「……これから、どうしよう」
お母さんは、生き延びろと。お兄ちゃんはいつか会おうと言った。
だから私は、生きなくちゃいけない。この先やることがわからなくても……
……とにかく、なにか食べよう。あれから、なにも食べてない。
不思議なことに、こんなときでもお腹は減る。こういう場所なら、木の実とかあるはずだし……
私は、生きなきゃ。
――――――
「おい、あれ……」
「嘘だろ、でも……」
「あぁ、間違いない……ダークエルフだ」
数日を歩いて過ごし、やっとたどり着いたのは人のいる町だった。
私にとって、人間は……森を襲ってきた人間たちを除けば、初めて見る存在だった。
聞こえてくる声に、私はぐっと目を閉じた。
「……っ」
あいつらのことがあって、私の中に人間とは怖いものだ、という気持ちが刻まれた。
でも、人間に対して、全部が悪いとは思っていない。思いたくない。
数が少ないダークエルフだって、いろんな性格の人がいるのだ。
それに、人間を悪く思いたくない理由はもう一つ。リーフェルの存在だ。
私たちの村に現れた、エルフの女性。その後一年、一緒に過ごした。
彼女は、ハーフエルフ……人間とエルフの間に生まれたのだという。人間とエルフの血が流れている。
人間を否定するってことは……リーフェルの中に流れる血も、否定するってことになる。それはなんだか、嫌だった。
「あ、あの……」
だから私は、勇気を持って声をかけた。
きっと、話せば仲良くなれる。みんな、物珍しさで私を見ているだけだ。
でも……
「失せろ! ダークエルフ!」
「!」
鋭い言葉が、飛んできた……
それが私を指したものであることは、ダークエルフという言葉からわかる。
それを皮切りに、口々と非難が飛んでくる。
出ていけ、消えろ、汚い種族、死んでしまえ……そんな言葉が、投げかけられた。
「ぁう……!」
投げられたのは、言葉だけではない。石もだ。
その辺に落ちている石が……次々と、投げられる。小粒なものから、拳ほどの大きさのものまで。
それが額に当たり、血が流れる。
それでもやまない鋭い言葉に、私はその場から逃げ出した。
「はぁ、はぁ……!」
町から出て、誰も見えなくなったところで、物陰に潜んだ。
荒くなった息を整える。額から流れる汗を手で乱暴に拭うと……血が、ついていた。
これまで、ダークエルフは他の種族から嫌われているという話を聞いていた。だけど、ダークエルフしか住んでいない村で、それを自覚するのは難しかった。
嫌われているという意味が、ようやくわかった気がする。
「……リーフェルも、こんなだったのかな」
なんで、エルフであるリーフェルがダークエルフの森に迷い込んだのか。それは、ハーフエルフという立場のせいだと言っていた。
エルフと人間の血が混じったリーフェルは、同じエルフからも邪険にされていて……ある日、逃げ出した。
そうして逃げた先が、あの森だ。
リーフェルも、今みたいに嫌な言葉や、石を投げられたりしたんだろうか。迫害、というやつだ。
……リーフェルも、死んじゃったのかな。
「……っ」
胸の奥が痛いのは、頭を打ったからじゃない。
今までに投げられたことのない、悪意に満ちた言葉のせいだ。
大昔にダークエルフは、他種族を殺した。だから世界中から嫌われている。その話は聞いた。
でも……それは、大昔のこと。私がやったことじゃない。
なんで私が、こんな目に遭わないといけないの……!
「……お腹、空いた」
町なら、食べるものがあると思ったけど……さっきの様子じゃ、今度また町に行ったらどんなことをされるかわからない。
なにか、食べられるものは……
「……木の実か、モンスターか……草、か……」
この際、贅沢は言ってられない。いろんなことがあって疲れてしまったから、余計にお腹は空いている。
私はあちこちを散策し、片っ端から食べられそうなものを探した。
――――――
素顔をさらして人里に行けば、ひどい目に遭うというのがわかった。
だから道端に落ちていたフードで、顔を隠した。エルフ族の特徴は耳だ、耳さえ隠してしまえばどうとでもなる。
あれからいったい、どれだけの時間が過ぎただろう。
満足いく食事も睡眠もできず、それでも結構な時間を過ごしてきた。
そんな私の耳に、入ってきたのは……
「魔導……学園?」
顔を隠して、人里に降りる。何度も続けていた。
いつ正体がバレるともわからないけど、ずっと逃げ隠れしている生活だとなにも情報が入ってこない。
情報を得るためにも、人里に行くことは必要なことだった。
そこで聞いたのだ……魔導を学ぶ学園の、存在を。
11
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜
みおな
ファンタジー
私の名前は、瀬尾あかり。
37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。
そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。
今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。
それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。
そして、目覚めた時ー
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
無能と蔑まれ敵国に送られた私、故郷の料理を振る舞ったら『食の聖女』と呼ばれ皇帝陛下に溺愛されています~今さら返せと言われても、もう遅いです!
夏見ナイ
恋愛
リンドブルム王国の第二王女アリアは、魔力を持たない『無能』として家族に虐げられ、厄介払いとして敵国ガルディナ帝国へ人質に送られる。死を覚悟した彼女だが、あまりに不味い帝国の食事に耐えかね、前世の記憶を頼りに自ら厨房に立つことを決意する。
彼女が作った温かい家庭料理は、偶然離宮を訪れた『氷の皇帝』レオンハルトの孤独な心を癒していく。やがてその味は堅物騎士団長や宰相をも虜にし、食べた者を癒す奇跡から『食の聖女』と讃えられるように。
価値を知った故郷が「返せ」と言ってきたが、もう遅い!
これは、料理で運命を切り開き、最強皇帝から世界一甘く溺愛される、美味しい逆転シンデレラストーリー。
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
【完結】モブ令嬢のわたしが、なぜか公爵閣下に目をつけられています
きゅちゃん
ファンタジー
男爵家の三女エリーゼは、前世の記憶を持つ元社畜OL。社交界デビューの夜、壁際でひとりジュースを飲んでいたところを、王国随一の権力者・ヴァルナ公爵カイルにスカウトされる。魔法省の研究員として採用されたエリーゼは、三年間誰も気づかなかった計算の誤りを着任三日で発見。着々と存在感を示していく。一方、公爵の婚約候補と噂されるクロード侯爵令嬢セラフィーヌは、エリーゼを目障りに思い妨害を仕掛けてくるが...
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる