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第十章 魔導学園学園祭編
704話 穴があったら入りたい
しおりを挟むピアさんのお店へと戻った私は、思いもよらない光景を目にした。
先ほど別れたばかりの相手が、そこにいたからだ。
……さっきの黒髪赤目の女の子ペルソナちゃんと、その弟である獣人の男の子がいた。
「わー、これすごーい!」
「こ、こんなの初めて見た!」
「……」
楽しそうな二人……うん、楽しいのはすごくいいと思う。思うんだよ。
だけど……だ。私さっき、クロガネになんて言った?
『ま、あの子もすぐに帰るってわけじゃないんだろうし。また会えるよ』
……恥っっっずかしいーーー……! 私、なんかドヤ顔ですごいそれっぽいこと言っちゃってたんだけど!
あんなこと言っといて、ものの数分後に再会するなんて思わないじゃん!
うわぁ、顔が熱い! 穴があったら入りたい!
「あれ? 戻ってきた、どーこ行ってたんだい?」
穴の中に隠れてもクロガネは私と意識共有しているから意味ないな……なんて思っていると、私に声がかけられる。
それは、ピアさんのもの。「おーい」と手を振っている。
その声に、ペルソナちゃんたちも反応するわけで。
「あ、さっきのお姉ちゃんだ!」
「ニ……エラン、さん」
男の子はその場でぴょんぴょんと跳ね、ペルソナちゃんは私をじっと見ていた。
今また私のこと『ニル』って呼ぼうとしたでしょ。
せっかく戻ってきたし、呼ばれたなら無視するわけにもいかないので、私はみんなのところへと向かう。
「あり、アンタさんたちエランちゃんとお知り合い?」
「うん、さっき助けてくれたんだ!」
「この子が迷子になっていたところを、助けていただいて」
「にゃるほど」
どうやら、お店はそれなりに繁盛しているようだ。それをレニア先輩がさばいている。
小さな体であちこちに動いている姿は、とても先輩には見えないくらいだ。
でも、おかげでちゃんとお店が回っている。
「まさか、さっき別れたばかりなのにこんなにまた早く会うなんてね」
「あなたにいただいたチラシに載ってたお店に行こうと思っていたんだけど……」
「おぉ、飛んだぁ!」
「すっげー!」
「……なるほどね」
二人は、私のクラスにまで行こうとしてくれたようだ。
でもその道筋で魔導具店を発見した。今みたいに、空に魔導具打ち上げたりして目立つところを。
それを目にして、興味を抱いた弟くんに引っ張られて……ってところか。
今も、同じ年頃の子供たちが遊んでいる。
「ところで、ネクちゃんたちは?」
「三人とも、ひとしきり遊んだ後学園祭を楽しむって行っちゃったよ。まあ、二人がおとなしい子を引っ張ってった感じだけ」
一緒に来ていたクラスメイトは、私がいない間にどっか行っちゃったらしい。
二人がおとなしい子を引っ張ってった、って……多分、ウルウちゃんとアメリアちゃんがネクちゃんを引っ張っていったんだろうな。
なんとなく、その光景が目に浮かぶみたいだ。
「それで、エランちゃんは学園祭を満喫できたかい?」
「まあ、とりあえずは。明日からは友達と回りますよ」
「そっか」
まあ、満喫って言ってもまだまだだけどね。その証拠に、別のクラスにもまだ行っていない。
執事喫茶をやるというノマちゃんのクラスに、他にもルリーちゃん、ナタリアちゃんのクラス。
なにをやるかは、生徒会としてそれぞれのクラスの出し物を回収したから知っているけど……やっぱり、実際に見てみないことにはね。
ただ、どうせならノマちゃんが接客している時に行きたいな、なんて気持ちもある。さすがに出し物はわかっても誰がいつ出てくるかまではわからないから、タイミングが合うかは運だけど。
……そもそも執事喫茶でノマちゃんたちが接客をするのかわからないけど。
「いや、私たちだってめいど喫茶で、男の子も接客しているんだし……」
「どうしたの、ブツブツ言っちゃってさ」
「いや、なんにも」
ま、行けばわかるでしょ。どうしよっかな、今から行こうかな。
でも、いろいろ回ったから結構時間も経っちゃってるしな。
それに……
「じゃあ、私たちはそろそろ、ここに行ってみようか」
「行くー!」
やっぱりこの二人も、気になるし。
さっきはあんなこと言ったけど、こうしてまた会ったからにはやっぱり気になってしまうのよ。
「なら、私が案内しようか?」
「え、いいの?」
私の申し出に、男の子は目を輝かせていた。
うーん、懐かれたなぁ。
それに、なんか手を差し出してくる。……繋げってことかな。
「はい」
「えへへ」
正解だったみたいだ。男の子は嬉しそうに笑う。気持ちが反映しているのか、犬耳や尻尾もゆらゆらと揺れている。
……触ってみたいなぁ。
そしてもう片方は、ペルソナちゃんと繋ぐ。
「じゃ、ピアさん。私はこれで」
「はいはーい、またねー」
ピアさんと別れ、私は二人を私のクラスまで案内する。
その間会話はなかったけど、物珍しい光景にあちこち目線を移動させる男の子の姿に、退屈はしなかった。
そして、教室にたどり着く。
教室の前は列になっていて、何人か並んでいた。入り口では、看板を持ったクラスメイトが立っている。
なんか、自分のクラスに順番待ちをして入るなんて、変な気分だな。
「あれ、エランちゃんじゃん」
「ん?」
私の名前を呼ぶ声が聞こえ、前を見た。
すると、そこにいた人物は振り向いて、私を見ていた。
「タメリア先輩」
「よっ」
生徒会の先輩、タメリア先輩だった。
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