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第十章 魔導学園学園祭編
703話 きっとまた会える
しおりを挟むさっき会った、ペルソナちゃんという名前の女の子。
珍しい黒髪の女の子だったけど、黒目ではなくて赤目だった。それでも、やっぱり黒髪というだけでも人目を惹く。
本人は、気にした様子はなかったけれど。
「……ニル、か」
その子は、私のことを『ニル』と、そう呼んだ。そして、私のことを知っているふうでもあった。
私は、ペルソナちゃんのことは知らない。あんなかわいくて目立つ見た目なら、会ってれば忘れるはずがないしね。
なので、可能性があるとすれば、私が記憶を失う前にかかわりのあった子なんだろうけど……
『気になるか?』
学園祭見学に戻った私は、屋台を見ながら歩く……
すると、頭の中にクロガネの声が響く。
使い魔であるクロガネとは、いろいろ共有している。片方が拒否すれば別だけど、大抵は視界を共有したり気持ちを覗いてみたり。
そういった、強い繋がりを持つのが使い魔契約だ。
クロガネは、さっきまでのやり取りを感じて、私を心配してくれたのだ。
「うーん、まあね」
まあ、気になるのはあの子が私とどういう関係にあったかで、私自身の過去には興味がないんだけどね。
『どうやら、幼き日の契約者と接点があったようだな。あのまま帰してよかったのか?』
「いいんだよ。それに、話をしようにもいきなりすぎて」
いきなりあんなこと言われて、私自身整理がついていないのは、あるのかもしれない。
考えてみれば、記憶喪失前の私を知っているかもしれない人と会ったのは、初めてだ。
師匠はすでに記憶喪失の私を拾った。それから、特に誰と関わるわけもなく過ごしてきた。
ベルザ国に来てから関わった人は、当然会ったばかりの人たちだったし。
だから、ああいった子と会うのは初めてだ。
『我にも、なにかわかればいいのだがな……』
……使い魔。それもクロガネほどのモンスターともなれば、契約者の記憶を見ることだってできる。
それがあれば、私の全てを知ることも……できるかと思ったけど、そんなに甘くはない。
私が忘れているだけの記憶ならともかく、丸々失ってしまっている記憶。喪失した記憶まで見ることはできない。
それができれば、とクロガネは気にしてくれているのだ。
「ありがとね。でも、ホントに大丈夫。気にはなるけど、それだけ。
私と仲が良かった……とかなら、多分向こうから呼び止めたんだと思うし」
『……そうか』
「弟くんもいたみたいだし、あれ以上引き止めるのも悪いしね」
あの子は、私が『ニル』って名前じゃないと知って去っていった。もしまだなにか確かめたいことがあるなら、あの場にいたままのはずだ。
そうしなかったってことは、あの子も話という話はなかったってことなんだろう。
「記憶に関しても、私にとっては失う前よりもそれからを過ごした時間の方が長いんだから」
私が師匠に拾われたのは、六歳くらいのとき。それから師匠のところで十年過ごした。
私はすでに、記憶を失う前よりも失った後の時間のほうが長い。
それも、だからなんだって話だ。師匠が気にしたことはあったけど、私の気持ちを尊重してか昔のことには触れようとしなかったし。
今更、なにがあったか知りたいとも思わない。
「ま、あの子もすぐに帰るってわけじゃないんだろうし。また会えるよ」
黒い目でこそないけど、黒い髪はやっぱり目立つ。
せっかく学園祭に来ているのなら、満喫するだろうし……今日明日自分のいた国に帰るってことはないだろう。
そんな目立つ容姿をしていたら、ひょっこりまた会うことがあるかもしれない。
「さて、と。そろそろ自分のクラスに……いや、ピアさんのお店まで戻ろっかな」
『もういいのか?』
「一人は充分満喫したしね。それに、いきなりいなくなっちゃったからネクちゃんたちも心配してるかもしれないし」
私は、学内の案内パンフレットを見ながら足を進める。
謎の写真を拾って、もしかして師匠がいるかもしれないと走り回って……でも、見つけられなくて。
こんな動きにくい恰好じゃ、満足に動けなかったってのはあるかも。
それで、迷子の男の子を見つけて……その子を捜していた女の子が、私のことを知っているみたいで。
なんか、この短時間で一気にいろんなことが起こった気がする。
「これは、誰が落としたんだろう」
歩きながら、私は写真を見た。私と師匠が写って、笑い合っている光景。
懐かしい気持ちと、こんな写真を持っている人物は限られている事実に、心が揺れる。
もしかしたら、ここに師匠が来ていたのかもしれないのだ。それがわかっていて、私は……
なんて、歯がゆい。
『……それは、絵ではないのか』
「そうだよ。すごいでしょ」
『……写真、というのか』
こんな鮮明に、人や物が光景として残っている。描いてもできないことだろう。
不思議なものだよね。そこにあったものを、切り取ってみたいに形に残せるんだから。
「ここを曲がって……なんか、賑やかだな」
だんだんと目的地に近づいているのがわかる。すると、なんだかいっそう周りの声が大きくなってきたような気がする。
曲がり角を曲がり、ピアさんのお店はすぐそこだ。元気なピアさんの声も聞こえてきた。
私は、パンフレットを仕舞って顔を上げて……
「うわー、すっごーい! かっこいい!」
「にゃははは、そうでしょそうでしょ、どんどん見てよ。
そっちの黒髪のお姉ちゃんも、遠慮せずににゃ」
「は、はい」
お客さんの接客をしている、ピアさんの姿があって。
……先ほど別れたばかりの姉弟が、楽しそうに魔導具店で遊んでいた。
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