740 / 1,141
第十章 魔導学園学園祭編
728話 もろともぶっ飛ばす!
しおりを挟む巨大迷路の行き止まりに突き当たってしまい、現れたのは人造人形。
見上げるほどに大きいが、以前コーロランのクラスと試合をしたときにコーロランが出してきたものほどの大きさでは、ない。
まさか、ゴーレムが出てくるとは思わなかった。迷路には罠があると言っていたから、これが罠だろう。
ゴーレムを召喚できる魔導士は、これまで三人しか会ったことがない。コーロラン、ゴルさん……
そして、このクラス所属のコロニアちゃんだ。
「ちょ、ちょっと! なんでゴーレムが出てきてるのよ!」
驚愕するクレアちゃんの気持ちは、正直わかる。
でも、出てきたものは出てきたんだから、しょうがない。
「なんでもなにも、出てきたんならやるしかないでしょ」
「やるってなにをよ! というか、術者はどこにいるのよ!」
キョロキョロと周りを見るけど、当然あるのは壁だけだ。
魔術を使うとなれば、当然そこには魔導士がいるはずだ。ならば、壁の外に待機しているのだろうか。
それとも……
「罠、ってくらいだから……誰かがここに来たら出現するよう、セットされてたんじゃない?」
「……人に反応して出てきた、ってこと? そんなこと……」
「できないとは限らないよ。なんせコロニアちゃんは、無詠唱で魔術が使えるんだから」
魔術は、詠唱が必要なのは基本だ。でも、中には無詠唱で魔術を使うことができる人がいる。
その一人が、コロニアちゃんだ。無詠唱で魔術が使えるってことは、それだけ精霊に愛されているってことだ。
精霊と心を通わせ、魔導の技量も非常に高い。それが、無詠唱魔術に必須なこと。
私だって、無詠唱魔術は使えないのだ。悔しい。
「こ、コロニア様なの? このゴーレム」
「このクラスに、コロニアちゃん以外に魔術が使える人がいなければそうなるね」
こちらを見下ろすゴーレムは、とんでもない威圧感だ。この感じは、覚えがある。
以前、ゴルさんとの決闘の準備の際、訓練に付き合ってくれたコロニアちゃん。あのときと大きさこそ違うけど、なんというか気配が同じなのだ。
魔術って点ならナタリアちゃんの可能性もあるけど……私の勘が言っている。これはコロニアちゃんだと。
「と、というか……全然襲ってこない、わね」
さっきから、ゴーレムの攻撃に備えて構えている。だけど、ゴーレムはただ私たちを見下ろすのみ。
ゴーレムってのは、魔術の中でも特殊なものだ。なんせ、自立式で動くのだから。
複雑な命令は無理でも、単純な命令なら術者の指示通りに動くし、なんだったら自分で考えて動くこともできる。
ゴーレムがなにを考えているかはわからない。けど……
「ま、まあ襲ってこないなら、戻りましょうよ。ゴーレムを相手にしている時間は……」
「せいや!」
クレアちゃんがなにかを言い切ろうとする前に、私は飛び上がる。身体強化の魔法で脚力を強化し、ジャンプ力を上昇させたのだ。
そして、ゴーレムの頭上へ。身体強化に回していた魔力を右拳に集中させ、強化。
そして……
「おりゃああああ!」
右拳を、ゴーレムの額へとぶち込んだ。
ドゴッ……と激しい音がして、バリバリッとなにかが砕けるような音が続く。
ゴーレムが、拳を受けた額からひび割れているのがわかる。でも、まだだ。まだ終わらんよ。
ゴーレムには、自己再生能力がある。ゴーレムの核を破壊しないと、いつまでも再生し続けるのだ。
核がある場所は、様々だ。単純に頭や心臓部分にある場合もあれば、右肩や腰といった部分にあることもある。
核の場所が正確にわかるのは、術者だけだ。
だから、核を見つけるには地道にゴーレムの表面を剥がして探すか、あるいは……
「爆炎で焼き尽くす豪火よ、天地をも焼焦す死火と成りて、すべてを灰燼と帰せ!」
「ちょっ……」
「紅炎爆発!!!」
核もろとも、ゴーレムをぶっ飛ばすかだ。
私の放った魔術は、ゴーレムを包み込み爆発する。
迷路の壁を壊してはいけないというルールなので、ある程度威力は抑えて。あくまでも、ゴーレムを破壊することのみに力を注ぐ。
地面に着地し、私は構えは解かない。爆煙がゴーレムを覆っているからだ。
次第に、煙が晴れていくと……
「た、倒した……」
そこには、ボロボロに崩れ落ちた土や石の残骸。
ゴーレムは、土や石などのものを使って作り出す。再生能力が高いのも、素材が再生しやすいものだからだ。
なんにせよ……
「ふぅ、終わり!」
「……ゴーレムを、こんな一瞬で」
「なーに言ってんの! 今のクレアちゃんならゴーレムくらい余裕でしょ!」
終始騒いでいたクレアちゃんも、今の彼女の力ならあれくらいのゴーレムなら余裕のはずだ。
迷路の罠だけあって、強さはそこまで設定されていなかったのだろう。倒しやすかった。
おかげで、ちょっとスッキリしたよ!
「さあて、迷路に戻ろうかクレアちゃん! さあ行くよ!」
「ちょ、ちょっと! 切り替え早すぎないー!?」
これで、迷路に戻れる! 今度は、間違えることなく進んでみせるぞ!
――――――
「……いや、これは予想外だったね……」
「……」
「迷路の罠。だからあくまで見かけ倒しさ。迷路に挑むお客さんを襲うつもりなんてないんだよ。魔導士じゃないお客さんなんてざらだしさ……そんな人に、ゴーレムと戦えなんて言えない。第一、戦わせるためなら行き止まりじゃなくて迷路の道中に設置してる。
だから、ゴーレムはあくまで、お客さんをびっくりさせるだけのものだったのに」
「……」
そう、ゴーレムは戦うためでも、道に立ち塞がる目的で作られたわけでもない。それが証拠に、ゴーレムは出現した後動く様子を見せなかった。
行き止まりの罠の、ちょっとした脅かし用のはずだった。
それを……
「まさか……ゴーレム、倒されちゃうなんてね……」
「……エフィーちゃんのアホぉ」
異空迷路に挑む人々……その様子を別室で観察していた、ナタリアとコロニア。
ナタリアは苦笑いを浮かべ、ゴーレムを召喚したコロニアは涙目で頬を膨らませるのだった。
10
あなたにおすすめの小説
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて
だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。
敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。
決して追放に備えていた訳では無いのよ?
わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた
名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。
さら
ファンタジー
長年パーティーを支えてきた中年冒険者ガルドは、討伐失敗の責任と横領の濡れ衣を着せられ、仲間から一方的に追放される。弁明も復讐も選ばず、彼が向かったのは人里離れた辺境の小さな村だった。
荒れた空き家を借り、畑を耕し、村人を手伝いながら始めた静かな生活。しかしガルドは、自覚のないまま最強クラスの力を持っていた。魔物の動きを抑え、村の環境そのものを安定させるその存在は、次第に村にとって欠かせないものとなっていく。
一方、彼を追放した元パーティーは崩壊の道を辿り、真実も勝手に明るみに出ていく。だがガルドは振り返らない。求めるのは名誉でもざまぁでもなく、ただ穏やかな日々だけ。
これは、最強でありながら争わず、静かに居場所を見つけたおっさんの、のんびりスローライフ譚。
平凡な王太子、チート令嬢を妻に迎えて乱世も楽勝です
モモ
ファンタジー
小国リューベック王国の王太子アルベルトの元に隣国にある大国ロアーヌ帝国のピルイン公令嬢アリシアとの縁談話が入る。拒めず、婚姻と言う事になったのであるが、会ってみると彼女はとても聡明であり、絶世の美女でもあった。アルベルトは彼女の力を借りつつ改革を行い、徐々にリューベックは力をつけていく。一方アリシアも女のくせにと言わず自分の提案を拒絶しないアルベルトに少しずつひかれていく。
小説家になろう様で先行公開中
https://ncode.syosetu.com/n0441ky/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる