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第十章 魔導学園学園祭編
743話 おじゃま虫は退散します
しおりを挟むさて、「オウガ」クラス……ナタリアちゃんのいるクラスに戻ってきたわけだけど。
「え、え、エラン様!? ま、また来てくださったんですか! ほぁ、ほぁあっす!」
私の姿を見るなり、興奮したように騒ぎ出すのはエコ・コンコンちゃん。
忘れていたわけじゃないけど……うーん、私も変装して来ればよかったかな。
アホ毛はピコピコと動き、よほど喜んでいるのだというのがわかる。
それは嬉しくもあるんだけど、あんまり騒ぐと人目を集めるのでやめてほしい。
「エラン……様?」
その姿に、アルミルおじいちゃんはさすがに驚いた様子だ。
「……私のファン、らしいの。熱烈な」
「熱烈な、か」
熱烈なファンというのは、説明しなくてもわかってくれるだろう。
それにしても、変装しているとはいえ隣にアルミルおじいちゃんがいるのに、私がこんなに注目されるなんてなんか変な気分だ。
私もそりゃ注目を集めるけど、おじいちゃんと比べたらなぁ……なわけだし。
「えっと、ナタリアちゃんいる?」
このままだと、ずっと悶絶したまま進まなさそうなので、ここに来た目的を伝える。
すると、エコちゃんは目をハートにしたまま、こくこくとうなずいた。
「はいっす! 奥の方で、みんなのこと監視してますっす!」
言い方!
……まあ、私たちが入った時にルール説明してくれたように、ああいう感じでやっているんだろう。
なら、その役目を少しだけ、誰かに代わってもらうことはできないか。コロニアちゃんも一緒にいたし、他にも誰か……
「いや……せっかくだ、この迷路に挑戦してみよう」
「え?」
だけど、おじいちゃんはナタリアちゃんを呼ぶのではなく、自分が迷路に挑むのだという。
ナタリアちゃんたちは、私たちの動きを把握しているようだった。どこかから見ているんだろう。
なら、おじいちゃんが入っても、向こうが気づいてくれる。あ、変装したままだとわからないか。
「キミは言っていたな。ゴールまでたどり着けば、あの子に会うことができたと」
「う、うん」
「ならば、ゴールまでたどり着き、堂々と会ってやろうではないか」
おぉ……なんか、燃えている。さっきまで会おうかどうか悩んでいたおとめみたいな人だとは思えない。
ここまで来たんだから、吹っ切れたってことかな。
なるほど。迷路をゴールして、ナタリアちゃんと会ったところで変装を解く。
そうすれば、迷路の途中で他の参加者に会っても、それがアルミルおじいちゃんだとは気づかれない。ゴール地点にいるナタリアちゃんに正体を明かすまでは。
アルミルおじいちゃんは、サプライズゲストとしてこの学園に来たけど……これは、ナタリアちゃん個人へのサプライズになるのかな。
「そういうことなら、早速……」
「いや、ここからは私一人で行く」
さっさと迷路をクリアして、感動のご対面を……と思っていたけど。
おじいちゃんは、首を振る。自分一人で行くというのだ。
「でも、迷路には難しい問題がたくさんあるよ?」
「ふっ、甘く見られたものだな。私を誰だと思っている? そのような問い、最後まで当ててみせようではないか。
それとも、まさかキミは私に不正をしろとでも?」
……私が答えを教えて、最短ルートで迷路をクリアする。そう考えていたんだけど。
確かにそんな不正、やるはずもないよね。答えを教えてもらってゴールなんて。
少なくとも、私なら絶対やらない。
「これは、失礼しました」
「ふふ。……午後の時間までには戻る。生徒会の彼にも、そう伝えてもらえるかな」
「りょーかい」
ここからは、おじいちゃん一人。
別に、私が答えを教えず隣に立っているだけなら、一緒に入っても良い気がしたけど……
多分、おじいちゃんが一人で行きたいと言ったのは、不正がどうのって理由だけじゃないんだろうな。
一番の理由は、きっと……
「じゃ、おじゃま虫はここで退散しますねー」
「どこでそんな言葉を覚えるんだ」
私の言葉に、おじいちゃんは呆れたような微笑を浮かべ……教室の入り口から、中へと入っていく。
外から中を、覗き込む。そこには、なんの飾り付けもされておらず、誰もいない教室。
人が入ったばかりなのに、外から見たらやっぱり変化はないのか。
見ただけじゃ、本当に異空間に繋がっているかなんてわからなあお……すごいや。
「あのぉ、エラン様」
すると、遠慮しがちにエコちゃんが話しかけてきた。
「様なんていらないよ。師匠ならともかく、私なんてそんな大層な人間じゃない」
「なにをおっしゃいますかっす! エラン様こそ私にとって神……! エラン様が師匠と崇めるグレイシア様はそれはもう天上のお方ですが、自分にとっての神はエラン様なんっす! 様以外の呼び方なんて、恐れ多い……もしそんなことをするくらいなら、自分は腹を切るっす!」
な、なんて意固地なんだこの子は……私が神? 私はいつの間に新世界の神になったんだ。
私を神って言うなら、様付けをやめてっていう神のお願いを聞いてほしい。
とはいえ、強制的に様付け禁止したらこの子本当にお腹切りそうだなぁ……怖いなぁ。
「……わかったよ。で、どうしたの?」
「先ほどのお方は、ナタリア嬢とお知り合いなんすか?」
先ほどのお方……アルミルおじいちゃんのことか。
そりゃ、変装してたからあれがアルミルおじいちゃんだとはわからないし、わかったとしてもナタリアちゃんと孫娘の関係だとは断定できないか。
ナタリアちゃんとの関係は……別に、教えちゃだめとは言われてないしなぁ。
でも、アルミルおじいちゃんがナタリアちゃんのおじいちゃんだってのは、知られたら騒ぎにもなるだろうし。
「……ナタリアちゃんの、おじいちゃんだよ」
とりあえず、変装したままの姿ならおじいちゃんって言っても問題ないでしょ。
アルミルおじいちゃんがそうだって言わなければ、なんとかなるさ。
「おじいちゃん……? あの人、女性じゃないんすか?」
「……あ」
やべっ、アルミルおじいちゃんが変装してたの、男性じゃなくて女性だった。
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