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第十章 魔導学園学園祭編
742話 会いに行こう
しおりを挟む「そうか、あの子は元気にやっているか」
私からナタリアちゃんの話を聞いていたアルミルおじいちゃんは、柔らかく微笑んでいた。
その表情から、本当に安堵しているのがわかる。
ここまで話してきて、思ったけど……
「……ナタリアちゃんと、最近話してなかったりする?」
私の話すナタリアちゃんに、一つ一つ興味深そうに聞いていた。
それは、ナタリアちゃん本人から話を聞く機会が少ない……とかではなく、本当に話を聞いたことがないように見えた。
私の言葉に、おじいちゃんは苦笑いを浮かべる。
「あぁ、そうだな。あの子が大きくなるにつれ、あまり話をしなくなってなぁ」
ナタリアちゃんと話す機会が、どんどん少なくなっていった。おじいちゃんはそう話す。
それは、多分本人の意図したところじゃない。
「それはまた、どうして?」
だから私は、質問を重ねた。
それに対して、おじいちゃんは自分の白髭を撫でつけて……
「ちょうど、あの子を引き取って一年が経った頃だ……私の功績が評価され、王城に在中することになった。それから、時間があるときには帰っていたのだが、それも次第に難しくなってな」
それは、つまりは仕事が忙しくなって……的なあれだろう。
魔導のエキスパートって呼ばれるくらいだ、そりゃ忙しさもあるだろう。
同じ国内に住んでいても、帰ることが難しいくらいに時間が減っていった。
その結果、ナタリアちゃんと会う時間も……ってことか。
「私が離れたとはいえ、あの子を育てる環境としては申し分ない。
あの子の成長についても、息子夫婦から聞いてはいたしな」
ふむ……両親がいない私にとってはよくわかんない感覚だけど、おじいちゃんがいなくなってもナタリアちゃんは一人になるわけじゃない。
とはいえ、才能を見出して養子にした子と、一年しか一緒に入れなかったのは寂しいな。
「ただ、実際にあの子の友人から話を聞くのとでは、違うな。
まあ、どのみち学園に入学してからの出来事は、息子夫婦もあまり把握しているわけではないが」
会えなくても、ナタリアちゃんのことを心配していたのは確かだろうな。
私の話で、少しでも安心してくれたなら、嬉しいけど。
「……ナタリアちゃんは、本当にいい子だよ。誰に対しても、偏見なんかなくて……思ったことはちゃんと言ってくれるし、だからみんなあの子のことが大好きなんだ」
エルフの件もそう……学園に入学してからも、そう。誰に対しても、先入観とかなく接してくれる。
さっぱりした性格だから、付き合っているこっちとしても気持ちが良い。
同じ歳の子がたくさん付き合えば好きな人嫌いな人は出てくるだろうけど、ナタリアちゃんを嫌いだって人は聞いたことがない。
「キミのような友人がいて、安心したよ」
「安心したいなら、私から話を聞くだけじゃなくてさ。直接会ってみたらいいじゃん」
「ん……それは……」
せっかく、同じ学園内にいるんだ。しかも、ナタリアちゃんは自分のクラスにいる。
事情を話せば、ちょっとくらい持ち場を離れても問題ないだろうし。
だけど、アルミルおじいちゃんは眉にしわを寄せ、唸っていた。どうかしたのだろうか。
「なにか、まずいことでもある?」
「いや、まずいというか……最近は本当に会えてなかったから、いざ会おうとなると恥ずかしいというか……」
「おとめか!」
ちょっと頬を染め、指先で頬をかいている。
おじいちゃんの頬染めはいらないんだよ! なんで照れ笑い浮かべてるんだよ!
「会うのが嫌、ではないんでしょ?」
「そ、それはもちろん」
「なら、行こうよ。ナタリアちゃんだって、久しぶりのおじいちゃんに会いたいはずだよ」
自分を育ててくれたうちの一人だ。会いたいに決まっている。
私だって、私を育ててくれた師匠が学園祭に来ているってなったら、会いたいし。
……結局あの写真、師匠が落としたものだったのかなぁ。
「そう、か……そう、だな。うん、せっかくの機会だしな」
「そうこなくちゃ!」
おじいちゃんのは覚悟を決めたかのように、立ち上がる。
私も同じように立ち上がり、近くのごみ箱に食べた後のものを入れる。
ごみはちゃんとごみ箱に、ね!
「すごいんだよ、ナタリアちゃんのクラスの出し物は! 自分の教室を異空間に繋げて、その中におっきな迷路を作っているんだから!」
「ほぉ、それは面白そうだな。せっかくだし、私も挑戦して行こうか」
教室に向かう間も、ナタリアちゃんのクラスの出し物について説明をする。
これは、ナタリアちゃんと会うことが出来ると同時に、今ナタリアちゃんがどれくらい魔導を扱えるようになっているのか知ることもできる。
校内に入り、歩く……すると、やっぱり周囲から視線を感じる。
……と、思っていたんだけど。
「こうして顔を変えれば、騒ぎにならずに済むだろう」
人目を盗んで、魔法によって顔を変えることにした。
おかげで、周囲の誰もおじいちゃんだとは気付かない。単純だけど、効果的な手だ。
さっきは外だったからまだしも、学内であんな有名人が歩いていたらかなりの騒ぎになっちゃうだろうからね。
そんなこんなで、ナタリアちゃんのいるクラスへとたどり着いた。
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