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第十章 魔導学園学園祭編
763話 春が来ないかな
しおりを挟む「え、えぇええ……」
私はデザートを作った。そして、これをそのままダルマスのところに持っていこうと思ったけど……
作るのは私でも、誰が持ってこいとは言われていない。
なので、キリアちゃんに持って行ってもらっても問題はないはずだ。
「ほら、行った行った」
「い、いいんですか?」
「もちろん。早くしないと、他の接客の子来ちゃうよ?」
ほれほれ、と後押しして、その結果キリアちゃんはデザートを持つ。
そして、ダルマスの待つところへと足を進めていく。
これでちょっとでも、距離を縮めてくれればいいんだけどな。
キリアちゃんの気持ちを知っているのは多分私だけだし、なんとか協力したいけど。
デリケートな問題だし、なにをどうアドバイスすればいいのか。
恋する乙女なら身近にノマちゃんもいるけど……相手は王族だもんなぁ。身分が違う恋と言ったらそうだけど、やっぱり全然違う。
「ま、頑張りたまえよ少女よ」
本人に届かないのはわかっているけど、私なりのエールを送る。
さて、と。ちょっと休憩しますかね。
『契約者よ』
「ん?」
うんと伸びをしていると、頭の中に声が響いていた。クロガネだ。
使い魔契約を結んでいるから、こうして頭の中で会話できるわけだ。便利だね。
「どうしたのクロガネ……あ、もしかして退屈だった? ごめんね」
今日まで、学園祭は三日目だけど……クロガネを全然外に出していない。
そりゃ、クロガネみたいな巨体を気軽に外には出せないけど……みんな騒ぎになっちゃうし。
でも、こんな楽しいお祭りなのに外にも出れないって言うのは、退屈だったのかもしれない。
『いや、気にするな。我は契約者の中から見ているだけで、満足だ』
「そーお?」
まあ、クロガネがいいって言うならいいんだけどさ。
クロガネはずっと独りでいたっぽいから、こういう賑やかなの見ているだけでも楽しかったりするのかな?
「それで、どうかした?」
『いや、どう……というほどでもないのだがな。少し気になったことがある』
ふむ、気になったこととな。クロガネからそんなこと言い出すなんて、珍しいな。
『先ほどの、リーフェルと名乗った者のことだが……』
「リーフェルさん?」
さっき、スキンヘッド男に絡まれていたところをカルさんが助けた、リーフェルさんか。
彼女のことで、気になることがあるって?
もしかして、黒い瞳だからその関係のことだったりするのかしら。
『あの者……人間ではないな』
「……獣人か亜人、ってこと?」
人間じゃない……でも、人間じゃない人なんていっぱいいる。
ピアさんだって猫の獣人だし、レニア先輩は小人族。亜人は見た目から亜人とわかるから、つまりリーフェルさんは獣人ってことだけど。
それを、わざわざクロガネが言うのって……どゆこと?
「別にリーフェルさんがなんの獣人でも、よくない?」
『それはそうなのだがな……おそらく、あの者は……』
「エランさーん、エランさんのお知り合いが来てますよー」
クロガネの言葉を聞くより先に、私の名前を呼ぶ声がした。
それは、さっきダルマスにデザートを運びに行ったキリアちゃんのものだ。
私の知り合いが来たから、わざわざ知らせにきてくれたのか。
「はーい。
……ごめんクロガネ、その話は後でもいい?」
『あぁ、別に急ぐことではない』
私はこの場を離れ、キリアちゃんのところへ。そして、私の知り合いが来ているという場所へ歩いていく。
知り合いかぁ、誰だろ。タリアさんかな、それとも……
「お、よーエランちゃん」
「久しぶりだな」
「ケルさんにヒーダさん。おひさー」
そこにいたのは、冒険者のケルさんとヒーダさんだった。
気さくに手を上げる二人に対して、私も手を振る。いつもはガルデさんと三人でいるから、二人だけっていうのはなんだか新鮮だな。
「その服似合ってるじゃないか」
「あぁ、ガルデが言ってた通りだ」
「えへん」
この服を褒められると、悪い気はしないな。
めいど服がかわいいのはもちろんだけど、考案したのはフィルちゃんで、実際に作ったのはカリーナちゃんたちだ。
私を褒められているというよりも、なんだか友達を褒められているみたいだ。
「そのガルデさんは、今日はいないの?」
「あぁ。今日は冒険者の仕事はないからな、自由ってことになったんだが……」
「野暮用があるってんで、ここには俺らだけで来たってわけよ」
「そっかー」
なんにせよ、二人とも会えてよかったよ。
せっかくの学園祭だし、ぜひ来てほしかったんだよね。
「キリアちゃんも、呼んできてくれてありがとね」
「いえ」
……キリアちゃんも、私と同じように冒険者の仕事に着いていったことがある。
そのときに、ルリーちゃん共々仲良くなったんだ。なんとも懐かしい出来事だよ。
それにしても、この二人は仲が良いとは思うけど……
「二人は、彼女とかいないの?」
「!」
「い、いきなり刺してくるねエランちゃん……」
私の言葉に、二人は胸を押さえている。どうしたのだろう。
でも、この反応を見るにいなさそうだ。
「はぁあ、冒険者ってのはなかなか出会いがなくてなぁ……」
「そうなの? 女性冒険者とかもいるし、そういう出会いは多いんだと思ってた」
「冒険者になる奴はたいていが財宝目当てだ。女の冒険者もいるが、出会いを求めてるような奴は冒険者にはならねえよ」
「違いねえ」
ほぉ、そんなもんなのか。
確かに冒険者ってのは、大変な仕事だし命に関わることもやる。そんな状況で、出会いなんて望めないし、相手が冒険者でないならなおさら難しそうだ。
自分の恋人が命に関わる仕事をしてたらどうだ、って話だもん。
「その点、ガルデはうまくやったよなぁ」
「フェルニンさんのこと?」
「おう。ま、あのバカは自分に向けられる気持ちに気付いてないがな」
ガルデさんとフェルニンさんかぁ……
学園祭デートしたり、お似合いだとは思うんだけど……ガルデさんが鈍感すぎるんだよなぁ。
「はぁ、俺らにも春が来ねえかなぁ」
ここは酒場じゃないんだからそんなに愚痴らなくても……
にしても、春かぁ……
……あ。あるじゃん、春。
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