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第十章 魔導学園学園祭編
769話 二年生の教室
しおりを挟むネクちゃんと一緒にやって来たのは、二年生の階層だ。
普段は移動などでしか通らないから、あまり来ることもない。
「こ、ここって……に、二年生の……」
ふと、手が震えていることに気付いた。
震えているのは私の手……ではなくて、私と繋いでいるネクちゃんの手だ。
見れば、ネクちゃんはぷるぷると小刻みに震えているじゃないか。
「どうしたの、ネクちゃん」
「ど、どうしたって……じょ、上級生のところ、なんて……」
顔を赤くしたり、青くしたり……
多分、慣れない上級生の階で緊張しているんだな。
「大丈夫、私が一緒だから」
「いや、それなんの解決にも……いや……なんか大丈夫な気がしてきた……」
私と一緒イコール上級生の階でも大丈夫、とネクちゃんが理解してくれたところで。
私たちは一緒に、教室を回っていく。
最近は上級生と話すことも増えたとはいえ、知り合いと呼べる人は少ないんだよなぁ。
二年生で一番仲が良いと言ってもいいピアさんとレニア先輩は、校庭で魔導具披露中だし。
ま、大本命は三年生のところだし、ここはちらちらっと見ていきますか。
――――――
「きゃーっ、かわいい!」
「……」
現在私は、二年生のとある教室で叫んでいた。
叫ぶと言っても、それは黄色い声だ。驚いたと言えばそうだけど、これは喜びの感情hに近い。
なんで私がそんなことになっているかと言うと、それは目の前の光景に歓喜してのことだ。
「わ、わぁ……! かわいい服! もちろん、それを着ているネクちゃんもめっちゃかわいいよ!」
「……どうも」
キャーキャーと騒ぐ私とは対称的に、ネクちゃんはげんなりした様子だ。
なんで私とネクちゃんがそんなことになっているのか……その理由が、このクラスの出し物にある。
ここのクラスでは、ファッションショーなるものをやっている。
要は、おしゃれな服を着ることが出来る……といったものだ。
「やっぱりネクちゃん、前髪あげた方がずっとかわいいって! いや、目隠れもそれはそれでいいんだけどね!」
「……なんなのこの騒ぎよう」
恥ずかしそうにもしているネクちゃんは、現在ひらひらした服を着て前髪も上げている。
おかげで普段は隠れている表情も、今ではばっちりだ。
「こ、こんなひらひらした服、恥ずかしい……」
「えー、ウチだってめいど服着て……あー、ネクちゃんは料理担当だから着てないのか」
「お、同じ料理担当なのに、いつもあの服着てるほうが……へ、変……」
まるでお嬢様のドレスみたいだ。昨日会ったリーフェルさんとは、また違ったタイプ。
女の子なら誰もが一度は着てみたいと思えるくらいだ。
しっかし、かわいい女の子がかわいい服を着ているのを見ているって言うのは……あー、視力が回復する。
「と、というか……な、なんで私、だけ……」
「えー、私も着るって。でも先にネクちゃんを着替えさせないと、逃げちゃいそうだったから」
「くっ……」
教室に入った瞬間、ネクちゃんが逃げそうなのがわかった。
だからそうならないうちに、そそくさと着替えさせてもらったわけだ。
「あー、もうずっとその恰好でいてくれないかな」
「き、却下!」
「ねーねー、あなたエラン・フィールドちゃんだよね」
ネクちゃんの姿を目に焼き付けていると、私に声がかけられた。
首を動かすと、そこには一人の女子生徒。ただし、かなりの大柄。
それもそのはず。その人はオークだった。亜人だ。
鬼みたいな見た目だが、それとは裏腹にとてもかわいらしい声と瞳をしている。
「そうですけど……私のこと、知ってるの?」
「そりゃあ、有名人だからね。それに、シルフィがよく話してるよ」
どうやらこの人は、シルフィ先輩と知り合いのようだ。
ってことは、ここってもしかしてシルフィ先輩のクラスだったりするんだろうか。
「シルフィ先輩もこのクラスなんですか?」
「うん、でも今は出ててね」
やっぱりそうだったか。
シルフィ先輩がいないのは残念なような、ちょっとほっとしたような。
「えっと……いつぞやはご迷惑をおかけしました」
「あー……あれはすごかったね」
いつだったか、私がシルフィ先輩のクラスに首から上だけこんにちはしてしまったことがあった。
そのときのクラスが、ここだ。私はぺこりと頭を下げた。
ま、私が有名だって話は、それだけの内容じゃないだろうけど。
「それで、シルフィ先輩は私のことをなんて?」
「ふふっ、生意気な一年生がいるーってよく愚痴ってるよ」
む、なんてこと言うんだあの人は。
でも、言われている内容は良くないものなのに、この人は少し嬉しそうだ。
「あ、自己紹介が遅れちゃったね。私はシルフィのクラスメイトで、ミヤ・カトレアって言うの」
「あ、これはご丁寧に……」
「おおい! わ、私のこと、わ、忘れてないか!?」
おっといっけね。ネクちゃんのこと忘れてた。
ネクちゃんは他の先輩から、他の服を勧められて困っているようだった。
あー、モテモテじゃないか。うらやましい。
「やだなー、忘れてないよあははは」
「嘘だ!」
若干涙目になりつつあるネクちゃん。だけども彼女の頭をなでてやると、ふにゃっと微笑んだ。
ちょろいな。
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