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第十章 魔導学園学園祭編
768話 四日目の始まり
しおりを挟むさて、学園祭も四日目がやって来た。
折り返しを過ぎたことで、みんなさすがに慣れてきたのか、その動きに余裕が出来てきたように見える。
そんな中で私は、昨夜ノマちゃんに受けたアドバイスを、キリアちゃんにしていた。
「共通の話題、ですか……」
「そう。いざ話しかけても話に詰まっちゃわないよう、お互いに共通する話題を準備していけばいいんだって」
「確かに……私、ダルマス様に話しかけることを考えることばかりで、肝心の内容についてはあまり考えてなかったかもしれません」
ノマちゃんのアドバイスは効果的だ。さすが現在恋愛中なだけある。
キリアちゃんは考え込むようにして、顎に手を当てた。
自分とダルマスに共通する話題はなにかと、考えているのだろう。けれど、なかなか見つからないらしい。
しばらくうーんと考えていたあと……はっとして私を見た。
「……エランさん?」
「やっぱそうなっちゃうかー」
考えた結果、キリアちゃんとダルマスに共通する話題は私のことでは? ということになってしまった。
そりゃ、私が話題の中心にいるのは悪くはないけど……これは、どうなんだ。
そう思っていると、キリアちゃんはなにやら複雑そうな表情を浮かべていた。
「どしたの、キリアちゃん?」
「あ……いえ……」
キリアちゃんはふるふると首を振る。
「ダルマス様は、もしかしてエランさんを……いえ、なんでもないです」
「?」
ぼそぼそとなにかを言っていたようだけど、結局なにも聞こえなかった。
ただ、なんでもない……という言葉だけは、ぼんやりと聞こえた。
悩みがあるなら、力になりたいけど……
「あと、話しかけるのは……やっぱり本人が頑張るしかないよ」
「そう、ですよね。……エランさんがうらやましいです」
「私?」
「あ、えっと……ああいう風に、私も自信満々に話しかけられたらな、と」
私にうらやましがるところなんてないと思うけどな。
でもキリアちゃんにとっては、ずいずいと話しかけられる私の性格が、うらやましいらしい。
こればかりは、どうしようもないからなぁ。
「ま、でも私もそれとなくフォローするからさ!」
「はい。
……あの、エランさん……」
「はーい、そろそろ準備に取り掛かるから、担当の人たちは集まってー!」
何事か言おうとしたらしいキリアちゃんだけど、そろそろ時間だと声がかかる。
午前の担当はキリアちゃんも含まれているので、焦ったように振り向いた。
「キリアちゃん?」
「えぇと……いえ、なんでもないです。忘れてください」
なにか言いたげなキリアちゃんだったけど、結局なにも言わなかった。
忘れてくれと言い残して、背を向けて歩いていくキリアちゃん。
なんでもなさそうには見えなかったけど……でも、本人がそう言うなら、無理に聞きだすまでしなくてもいいか。
「さて私は今日は上の学年に……お」
今日の予定は、上級生の出し物を見に行くことだ。
魔導学園の二年生、三年生の出し物がどんなものか、気になっていた。
本命はもちろん、ゴルさんたちのクラスだけど。ただ、一人で行くのもつまらない。
誰か一緒に誘える子はいないかなときょろきょろしていると、教室の端でぽつんと一人でいる子を見つけた。
「ネークちゃん!」
「うひゃわ!?」
私はその子に近づいていき、声をかけた。
別にこそこそ近づいたつもりはないのだけど、私が声をかけたその子……ネク・ラテンちゃんは、おおげさなほどに驚いた。
驚かせるつもりもなかったんだけどな。
「な、なな、なにっ……気配隠してたのに」
ネクちゃんはびくびくした様子で、私を見た。
ネクちゃんは深い藍色の髪で所々くせっ毛があるのだけど、前髪が長くて普段は目元が隠れている。
目が見えないから、表情もわからない。
でも、同じ料理係ってことで話すことも多かったし。ウチのメニューの料理名ほとんど命名したのはネクちゃんだもんな。
「いやね、もしよければ一緒に回らない?」
「わ、私と……?」
「うん」
なぜか驚いた様子のネクちゃん。
この学園祭は、クラスメイトとの交流を深めるのにもいい場だ。
私はもうクラスメイトとは大なり小なり話しているけど、ネクちゃんとは学園祭まであんまり話したことがなかった。
だって、気付けば教室から消えているんだもん。
それと、学園祭一日目ではネクちゃんたちを置いていっちゃったし。そのお詫びも兼ねて。
「だめかな? 誰かと用事があったり? それとも行きたい場所ある?」
「……な、ない。一人だし……ひ、暇」
暇、と話すネクちゃん。
一人でよかった、とは言えないけど、それでもこの後予定がないのはよかったと言うべきなんだろうか。
「じゃ、行こっか」
「わっ」
私はネクちゃんの手を取り、教室から出た。
外では、やはり学園祭の熱気があちこちにある。目的地が決まってなかったら、どこから行こうか迷っちゃうくらいだ。
「て、手、あったかい……ぐゅふふ……」
「えへへ、私の手は触り心地がいいって評判なんだよ」
ぎゅ、と手を握りながら、私は廊下を歩き……階段を昇っていく。
目指すは上階。まずは二年生の学年だ。
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