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第十一章 使い魔召喚編
831話 思いもよらない召喚
しおりを挟むまさか筋肉男が続いて伝説上の生き物を召喚することになるとは。
驚いたけど、誰がどんなモンスターを召喚するかはわからないし……そういうこともあるんだろう。
それからも授業は続いていく。やり方は見ていて覚えたのか、後半になるほどにスムーズに進んでいく。
そして、ついに最後の一人となった……
「では、次最期だ。ヨル」
「はーいっ」
周りには、たくさんのモンスターの姿。残り一人なんだから当然ではあるんだけど、それだけ多くのみんなが使い魔と契約したってことだ。
使い魔召喚は失敗したって話はないという。それに、召喚したモンスターと契約しなかったことも、なかったと。
みんな、一番最初に召喚に応じてくれたモンスターと契約を交わした。クレアちゃんだって、こうもりだなんだと言っていても契約はしたのだ。
「最後だってさ。こういうのって、なんかすごいの出てきそうだよね」
「変なプレッシャーかけるのやめてくんない……」
バシバシとヨルの背中を叩いてやり、一応気合いを入れてやる。
まあこれまでいろんなモンスターが飛び出てきたし、なにが出てきても驚くことはないよ。
ヨルは緊張とかしてるんだろうか……いや、無縁そうだな。いつもと変わんなく見えるし。
「さぁて。なにっが出るかななにっが出るかな」
やっぱり緊張してないなこいつ。鼻唄歌いながら歩いてってる。
魔導の杖を取り出し、所定位置へ。先生やみんなが見守る中で、その時が訪れる。
ヨルが軽く呼吸を整えたのがわかり、その様子を見つめる。
「……うしっ」
軽く声が聞こえると、ヨルが杖で魔法陣を描き始める。
その動きは少し雑ではあるけど、本人なりに一生懸命やっているのが伝わってくる。
やがて魔法陣を描き終え、魔法陣が青白く光り出す。使い魔召喚の瞬間だ。
ヨルはいったい、どんなモンスターを召喚するのだろう。普通のモンスターか、伝説上の珍しいモンスターか、それとも魔物か?
魔法陣から出てくる、黒い影。大きい……もふもふやカーバンクルよりも、よっぽど大きい。
かといって、サラマンドラほど大きくはない。大きさはそう、ヨルより少し小さいくらいだ……
「……ん?」
なんか、変だ。いや、なにが変って言うとアレなんだけど……
魔法陣からは確かになにか出てきているし、使い魔召喚は成功しているはずだ。だけど……おかしいのは、そのシルエットで……
なんか、人みたいな形をしているような……っていうか……?
「……人の形?」
「クレアちゃんもそう見えるか」
そりゃ、世界は広い。人みたいな姿をしているモンスターだっているだろう。
それはわかっている。わかっているけど……現れたのは……
……モンスターではなく、人だった。
「……」
「……」
やがて魔法陣から全身を現したその人は……その子は、ヨルと向かい合う形で立っていた。
周囲ではどよめきが立っている。そりゃそうだ。使い魔召喚したら、人間の女の子が出てきたのだから。
こんなこと、あるのか? 先生の表情を確認してみたけど、みんなあんぐりと口を開けている。
ウーラスト先生までも、だ。
ともかく、起こったことは目の前の光景の通り。まずは、いろいろな確認をしないとと思い……
「……お、おにぃ……?」
……と、女の子が困惑した様子で喋ったのだ。
「おい、喋ったぞ……」
「そりゃ人なら喋るだろ……」
「でも魔法陣から現れたんだぞ? モンスターじゃないのか?」
「それなら声は術者にしか聞こえない……いやそもそも契約もしてないんだから誰にも聞こえないか」
「なあ、あの子かわいくね?」
みんなが一様に口を開く。そうやって疑問に思う気持ちはわかるけど……
まず、女の子を召喚したヨルはなにを考えているんだ。ていうか、さっきおにぃって呼ばれてなかったか?
それがどういう意味なのか、ヨルに確かめないと……
「お、お前……マヒル……か?」
「……?」
おぉ? 確かめる前に、ヨルが口を開いた。
しかも、マヒル……って、それ名前かな? だったら、あの女の子のことをヨルは知ってるってことで。
ヨルより小さく、見たことのない服を着ている。いや、魔導学園の制服に似てるっちゃ似てるかな。
くりくりした大きな目。なにより、ヨルや私と同じ黒髪黒目なのが特徴だ。髪は長く、左右で結んでいる。
「おにぃ……やっぱりおにぃだ、おにぃ……!」
女の子は、目をパチパチと動かしていたけど、次第に目に涙を溜め、ヨルに抱きついた。
突然ヨルが女の子に抱きつかれ、周囲は騒然とする。
「おいヨル、どういうことだ!」
「なにやってんだお前ぇ!」
「……ヨルくん、えぇと……いろいろ、なにから聞けばいいのか。ひとまずだ……その子は、キミの知り合いかな?」
騒ぐ生徒たちをなだめ、なんとかサイン先生が聞く。まず、状況を整理させてほしいからだ。
するとヨルは、困ったように笑い……
「ええと……どうやら、俺の妹みたいです」
「……いも……」
「……うと……」
……一瞬、それがなにを言っているのかわからなかった。だけど、それを理解した瞬間……
私は……いや、私以外の誰もが。
この場でなにが起こっているのか、やっぱり理解できなかった。
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