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第二章 ヒーローとしての在り方
第5話 お休みをください
しおりを挟む「あのぉ……最近、怪人の出現率高くありませんか? 博士」
「んむぅ、わしに言われてものぉ」
柊 愛……どこにでもいる、ごく普通の女子高生。
と言えればよかったのだが、残念ながら彼女は、どこにでもいるごく普通の女子高生ではない。
彼女の正体は、迫りくる怪人を倒すヒーローレッド。
彼女の所属するヒーロー隊には、彼女含め五人のメンバーが所属している。
レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンク……それぞれの戦隊カラーを表した衣装に身を包み、活躍している。もちろん正体は不明のヒーローとして、世間を賑わせる。
そのリーダーであるレッドを務めるのが、愛だ。
ここはヒーロー隊の秘密基地。愛の正面に座るのは、巨大なモニターを前ににらめっこしていた、博士だ。
今年六十一歳のおじさまだ。回転椅子にちょこんと座っているが、足が地に届いていない。
「私だって暇じゃないんですよ。学生だし、授業はもちろん、友達との約束だってあるんです。
それが、いちいち怪人出現の度に出動させられてたら、たまったもんじゃないです!」
「んむぅ、わしに言われてものぉ」
「だいたい、他の人に任せればいいじゃないですか! なんで私ばっかり!」
「いやだって、他の者が集結する前に愛くんが怪人倒しちゃうんじゃもん」
「それは……!」
愛たちヒーローには、特別なスマートフォンが支給されている。
怪人が出現した際にはこれが反応し、怪人出現をヒーローに伝えるシステムだ。これは、五人等しく作動している。
それを受けて、ヒーローたちは現場に急行するのだが……
いつも、愛以外のヒーローが到着したときには、愛が怪人を倒した後なのだ。
「だって、早く終わらせたいし……他の人が到着するのなんて、待ってられないし」
「他の人に任せればいいと言うのなら、愛くん無視すればええじゃん」
「うーーーっ」
愛は、知っている。ヒーローをやっている人は、みんな責任感が強いのだと。
愛が行かなくても、誰かが行って、怪人を倒してくれる。それはわかっている。
それでも……
「はぁ、愛くんは正義感が人一倍強いのぉ。だからこそ、レッドとしての素質が高いんじゃが」
博士は、つるつるの頭を指でかきながら、ため息を漏らす。
しかし、そこにあるのは呆れではなく微笑ましさだ。
正義感と責任感の強い愛は、なんだかんだ言って怪人が現れたのを放っておけない。
ヒーローに選ばれる素質は、正義感と責任感。彼女は、それが秀でている。だからこそ、選ばれたのだ。
博士は軽くため息を漏らしつつ、うーうーうなっている愛を見た。
「怪人が現れるのは、怪人側の都合としか言えん。じゃが……
どうじゃろ、レッドは一時休業、というのは」
「え?」
博士は、名案とばかりに、手を叩く。
「そうじゃそうじゃ、ヒーローにも休暇は必要じゃよの。休暇日を設け、その日はスマホに反応がいかんよう調整しよう」
「そんなこと、できるんですか?」
「うむ。考えてみれば、ヒーローは五人もいるんじゃし。一人くらい休んでも平気じゃよ。
そもそも今までは、愛くんが一人でほぼ倒してたわけじゃし」
これまでは、怪人にどう対処するか、マスコミなどへの対応など、それらばかりを考えていた。
しかし、怪人と戦うのもマスコミの取材を受けるのも、ヒーローだ。
そんな彼女らに、休める日を与えないのは、バチが当たるものである。
「じゃ、シフトを考えるとするかのぉ~」
「シフトって、バイトじゃないんだから……
……バイトと言えば博士、お願いがあるんだけど」
「なーんじゃ?」
回転する椅子の上で、くるくると回る博士。
ちょっとかわいい……と思いつつ、その様子を見つめながら、愛はもじもじと指先を合わせていた。
なにか言いにくいことでもあるのか、目が泳いでいる。
その様子に、博士はこほんと咳払い。
「悪いのぉ……わしの操は、亡き妻に捧げている。愛くんの気持ちはありがたいが、わしは……」
「なに言ってんのいきなり!?」
無駄にいい声で語りだす博士に、愛が叫ぶ。
椅子の上に立ち上がったと思えば、いきなりなにを言い出すというのか。
「んむ? だって今の、告白の流れじゃろう?」
「んなわけないでしょ! どうやったらそんな認識になるのよ!」
荒ぶる愛は、吠える。その姿に、博士は椅子の上で、小さくなる。小さな体がさらに小さく。
女子高生からの告白だと思って舞い上がってしまったのが恥ずかしいのだろうか。
「そうじゃなくて……その、ヒーローのお仕事してて、お給料もらってるじゃないですか」
ため息を漏らし、愛は口を開く。なんだか考えていたのがバカらしくなってきた。
なので、勢いのままに言ってしまおう。
このヒーロー活動には、給料が出ている。お金のためにヒーローをやっているわけではないが、もらえるものはもらっておく。
わりと、中身は悪くないから。
「うむ、そうじゃな。それがどうしたの?」
「えっと……お給料、前借りできないかなって」
「まえ……」
話しにくそうにしていた愛の頼みは、これだ。給料の前借り。
これまでに、給料の前借りを頼むことはなかった。その内容に、博士は目をパチクリさせた。
しかし、せっかくの愛の頼みだ。これまでお金どころか、文句を言いながらも博士の都合に付き合ってくれた。
こういう頼みくらい、聞いてやろうというもの。
「構わんよ、愛くんの成果はよく見とるからの。
構わんが、なにか入り用かね?」
「まあ……」
これまで一番怪人を倒してきたのは、レッドである愛だ。理由はどうあれ、恐るべきスピードで事件を解決してきた。
そんな彼女の頼みだ、不純な動機でないことはわかっている。
わかってはいるが、それなりに払っている給料を、前借りするとは。急に必要なものでも出てきたのだろうか。
女子高生だし、遊びたい盛りなのだろうか。
「実はその……たけ……幼なじみの、誕生日が近くて」
だからなにかプレゼントしたいんだよね……と愛は、照れながら話す。
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