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第二章 ヒーローとしての在り方
第6話 いっそ殺してくれ
しおりを挟む幼馴染である、神成 尊。彼の誕生日が近いため、愛は給料の前借りをお願いしていた。
今、どうしても手持ちがないわけではないが……せっかくの誕生日だ、いいものを送りたい。
それに、手持ちがないよりは、余裕を持たせておきたい。そんな気持ちからだ。
「幼なじみ……あぁー、いつも愛くんが言っとる、たけるちゃんね」
愛の言葉を受け、博士は小さな手を合わせ、納得がいったようにうなずく。
その、聞き慣れない呼び方に愛が目をパチパチさせながらも、それが誰を指しているのか理解する。
なぜかちゃん付けだが、尊のことだ。
「たけっ……わ、私、そんないつも言ってます?」
「おぉー、言っとるよ言っとるよ。
たけるちゃんと一緒に帰ってたのに怪人のせいで帰れなくなったー、とか、たけるちゃんがレッドの話ばっかしてて嬉しいけど複雑ー、とか」
「わわわわーー!?」
六十を過ぎた博士の、女子高生の声真似はなかなかにクるものがあるが、そんなことよりもその内容に愛は、声を上げる。
顔は真っ赤だ。
自分でも気づかないうちに、そんな恥ずかしいことを言っていたのか。
しかし、博士にそんな重要なこと、話すだろうか。尊への思いは、内に秘めているのだ。
……それが、本人以外にバレていないかは、また別の話だが。現に、自分から話してはいないのに、友達なんかには尊への想いはバレている。
そして相談に乗ってもらったりもしている。
「やっぱり私、博士にそんな話したこと……」
うーんと、考えて、思う。いくらなんでも、博士にそんな話をしたことは、やっぱりないのだ。
それなりに信頼はしているが、プライベート中のプライベートを話すほどの関係性ではない。
なのに、これはどういうことだろう。
「忘れたのかの。ヒーロースーツには通信機が付いとるから、ヒーロースーツ着用時の言葉は全部わしに筒抜けじゃよ」
「プライバシぃー!!」
博士からの説明。それを受けて愛は、絶望から床に膝をつき、うなだれる。
確かに、ヒーロースーツには通信機が取り付けてあると説明は受けていた。スーツを通して、博士と直接会話することも可能だ。
現に、スーツ越しに博士と会話するのはもはや日常茶飯事だ。そうしないと、博士からのサポートを受けられない。
つまるところ、、スーツ着用時の言葉は、全部博士に筒抜けとなる。
怪人が現れる度、尊との時間を奪われたことを愚痴っていた愛の言葉も思いも、全部博士にはバレている。
「うぇえええ……いっそ殺してぇ」
「愛くんに死んでもらったら困るのぉ。
安心せい、愛くんがたけるちゃんラブということは、わしの胸の内にしまっておくからの」
「そういう言い方やめて!」
落ち込む愛に、博士の無自覚なクリティカルがヒットする。
内緒の話にしておいてくれるのはありがたいが、人に聞かれてしまった時点で愛の羞恥は、限界突破だ。
「まあまあ。愛くんくらいの年なら、むしろ恋愛なんてあって当たり前なんじゃから。
相手が幼なじみの男の子で、ずっと好きとか、微笑ましい限りじゃないの」
「ぐぅう……なんか、楽しんでません?」
「人の恋路ほど面白いものもないからのー」
この博士いい性格をしてやがる……愛は、そっと拳を握りしめた。
もういっそ、尊のことが記憶から消えるまで、殴ってやろうか。
鼻唄を歌いながら「わしだって若い頃は……」と、自らの思い出話に浸りつつある博士に、愛は深いため息を漏らした。
「そんなに思い悩むなら、素直に告白すればええのに」
「……簡単に言ってくれますね。どうせからかってるんでしょ。
変ですもんね、人々を守るために戦っているレッドが、男の子に告白もできないなんて。怪人と戦う勇気はあるのに」
告白……言葉で言うなら簡単だが、それができれば苦労はない。
幼馴染である以上、すでにある程度の関係性が出来上がっている。告白した時点で、成功しようがしまいが、関係は変わってしまうのだ。
成功すれば、まだいいが……
こんなことなら、幼馴染じゃないほうがまだ可能性が……と、考えることもある。
しかし、幼馴染だからこそ、ここまで仲を深めることができたのだ。
「難しいなぁ」
「ほっほ、若いうちは悩むとええよ。
じゃが、わしは愛くんをからかうつもりはないぞい。愛くんのような優しい子なら、ちょっとの勇気を出せばきっと成功するわい」
「博士……」
落ち込む愛に、博士からの言葉が染み渡る。
さすがは年長者といったところか。
「でも、こ、こんな……怪人を一発で倒しちゃうような女、なんて……」
もじもじ、と愛は指を合わせる。
フォローしてもらったらもらったでまた新たな不安が生まれる、面倒な性格である。
確かに、愛は怪人を一撃で倒すほどの力を持っている。しかし、それはヒーローレッドとしての力だ。
ヒーロースーツは、着用者の攻撃力、防御力、耐久力……つまるところ、身体能力を上昇させる。
なので、愛のようなか弱い人間でも、岩をも砕くことができる。
「愛くんはかわいらしいんじゃから、そう悩む必要もないと思うがのぉ」
「か、かわいいなんて……もぅ、博士ったら!」
「ぶべ!」
かわいい、と褒められた愛は、博士の背中をパン、と叩く。
あくまで照れくささからくる、軽いスキンシップのようなものだったが……
背中を叩かれた博士は、正面の壁へと、思い切り突っ込んでいった。というかめり込んんだ。
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