彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる?

白い彗星

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第二章 ヒーローとしての在り方

第11話 あぁブルー様!

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「いやぁ、やっぱヒーローはかっこいいよな!」

「そ、そうね」

 あのあと、急いでその場から離れた。尊は、ブルーをもっと近くで見たいと言っていたが……
 あのとき、目が合ったような気がした。遠かったし、顔も隠している覆面スーツ越しだし、何気なく視線を上げただけかもしれない。
 たとえ目が合っても、それで愛がレッドだとバレることはない。

 しかし、それでも……あの場に留まり続けるのは、危険な気がした。

「にしても、いつもは真っ先にレッドが来てくれるのに、今回は来なかったな」

「そ、そうねー」

 正直、さっさと会話を終えてしまいたい。そして話題をそらしたい。
 しかし、ヒーロー好きな尊だ。一番好きなのがレッドなだけで、他のヒーローも好きなのだ。

 そんな彼が、目と鼻の先でヒーローの戦いを見て、興奮しないわけがないのだ。

「いやあ、レッドとはまた違って、鮮やかに怪人を倒す姿がまた……」

「な、渚ちゃん、このあとどうしよっか?」

 このままでは、尊は止まらない。なので強引に話を変える。
 怪人のせいであやふやになってしまったが、服を見ていた途中だった。ショッピングを続けるか、それとも他の場所を回るか。

 そういった意味を込めて、渚に話しかけるが……

「渚ちゃん?」

 先ほどから、いやに静かだ。
 渚も、尊ほどではないがヒーローが好きだ。なので、ブルーを見た直後でこんな静かなのは、ちょっと変だ。うつむいていて表情は見えない。

 もしかして、お腹が痛いのだろうか。それとも、怪人がまだ怖いのだろうか。
 ブルーが倒したとはいえ、彼女に刻まれたトラウマは、そう簡単に消えるものではない。距離が離れていても、怪人というだけで不安になってもおかしくない。

 だから、ここは優しく、落ち着かせてあげなければならない。

「大丈夫だよ渚ちゃん。怪人はもうブルーが倒したから。それに……」

 いざとなれば、私が守る……
 そう言うことは、けれどできない。

「…………った」

「ん?」

 ぼそりと、渚がなにかを呟いた。
 その言葉を聞き逃すまいと、愛は渚の口元に、耳を寄せて……

「か、かっこよかったぁ……!」

「……ん?」

 少々興奮した様子で漏れ出したその言葉に、愛は目をぱちぱちさせた。
 うつむいていた顔を上げると、その瞳はキラキラと輝いて、頬はほんのりと赤くなっていた。

 どうやら、ブルーの活躍に感極まっていた……ようなのだが。

「な、渚ちゃん?」

 ただ、憧れの人を見る目ではない。それは、尊で散々見てきている。
 これは、そういう類いの目ではない。これは、そう……知っている。

 まさか、これは……

「ブルー様……」

 恋する乙女の、目だ。

「渚ちゃん!?」

 ぽわぽわと、渚の頭にはお花が咲いている。それを見て、愛は驚愕に陥る。
 以前から、渚はブルーを好いていた……という話は、聞かない。ということは、さっきの活躍を見て、ブルーを好きになったということだ。

 しかも、様付けするという徹底ぶり。

「お、渚はヒーローブルー推しか?」

「たけにぃ……私、正直今までたけにぃのこと、バカだなって思ってた。口を開けばレッドレッドって、バカの一つ覚えみたいにさ。バカなたけにぃがレッドみたいになれるわけないのに、そんなお熱になるなんてバカじゃないかって」

「お、おう……兄ちゃん今泣きそうなんだが」

 バカバカ連呼されて、尊は半泣き状態だ。
 シスコンである尊にはキツい……いやシスコンじゃなくてもキツいだろう。

「いいじゃん……憧れるくらい自由じゃん……てか渚もヒーロー好きじゃん……」

「でも私! わかったの! ヒーローの素晴らしさ、ブルー様のかっこよさ、ブルー様の素敵さ!
 それに、さっき私と目が合ったの! これもう運命じゃない!?」

 ぶつぶつとしょげる尊をよそに、渚はヒーローへの……というかブルーへの熱を語りだす。
 ヒーロー好きな渚ではあったが、それは尊と比較するとおとなしいものだった。いや、比較対象がおかしいのだが。

 それに、渚は人にヒーロー好きを隠す自制心も持っていた。
 しかし、今の渚に、それは見当たらない。

「め、目が、合ったの……?」

「そう! 目が合って、ほほえんでくれたの!」

 先ほど、愛と合ったように感じられた視線……それを渚は、自分と合ったものだと解釈したらしい。
 その上、ほほえんでくれた、と。ヒーロースーツは顔が見えない仕様なので、実際にほほえんだところで、表情が見えるはずもない。

 完全に勘違いである。

「あの、渚ちゃん……」

「はぁ、ブルー様……まだ、下に残っているかしら。
 あぁでも、お会いしたいけど、会ったら心臓爆発して死んじゃう!」

 キャーキャー、と顔を覆い騒ぐ渚。渚からのダイレクトアタックに未だ心折れている尊。
 いったいこれは、どういう状況だろう。愛はただ、呆然と立ち尽くしていた。

 ヒーローへの憧れを口にする人はたくさんいたが、ガチ恋した人は初めて見た。
 これを恋の一言で済ませていいのか、厄介ファンに沼りつつあるのかはわからないが。

 ブルーのおかげで、愛は正体を隠したままでいられた……しかし、ブルーのせいで、渚が変な扉を開いてしまった。
 彼女はまだ中学生。恋に恋する年頃だし、誰に恋心を抱いても仕方がないが……

「これは、どうにかしないと……」

 その後、テンションマックスの渚に連れられるまま、ヒーローグッズを売っているショップへと行った。
 渚はブルーの商品をめっちゃ買っていた。

 服は結局買わなかった。
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