11 / 46
第二章 ヒーローとしての在り方
第11話 あぁブルー様!
しおりを挟む「いやぁ、やっぱヒーローはかっこいいよな!」
「そ、そうね」
あのあと、急いでその場から離れた。尊は、ブルーをもっと近くで見たいと言っていたが……
あのとき、目が合ったような気がした。遠かったし、顔も隠している覆面スーツ越しだし、何気なく視線を上げただけかもしれない。
たとえ目が合っても、それで愛がレッドだとバレることはない。
しかし、それでも……あの場に留まり続けるのは、危険な気がした。
「にしても、いつもは真っ先にレッドが来てくれるのに、今回は来なかったな」
「そ、そうねー」
正直、さっさと会話を終えてしまいたい。そして話題をそらしたい。
しかし、ヒーロー好きな尊だ。一番好きなのがレッドなだけで、他のヒーローも好きなのだ。
そんな彼が、目と鼻の先でヒーローの戦いを見て、興奮しないわけがないのだ。
「いやあ、レッドとはまた違って、鮮やかに怪人を倒す姿がまた……」
「な、渚ちゃん、このあとどうしよっか?」
このままでは、尊は止まらない。なので強引に話を変える。
怪人のせいであやふやになってしまったが、服を見ていた途中だった。ショッピングを続けるか、それとも他の場所を回るか。
そういった意味を込めて、渚に話しかけるが……
「渚ちゃん?」
先ほどから、いやに静かだ。
渚も、尊ほどではないがヒーローが好きだ。なので、ブルーを見た直後でこんな静かなのは、ちょっと変だ。うつむいていて表情は見えない。
もしかして、お腹が痛いのだろうか。それとも、怪人がまだ怖いのだろうか。
ブルーが倒したとはいえ、彼女に刻まれたトラウマは、そう簡単に消えるものではない。距離が離れていても、怪人というだけで不安になってもおかしくない。
だから、ここは優しく、落ち着かせてあげなければならない。
「大丈夫だよ渚ちゃん。怪人はもうブルーが倒したから。それに……」
いざとなれば、私が守る……
そう言うことは、けれどできない。
「…………った」
「ん?」
ぼそりと、渚がなにかを呟いた。
その言葉を聞き逃すまいと、愛は渚の口元に、耳を寄せて……
「か、かっこよかったぁ……!」
「……ん?」
少々興奮した様子で漏れ出したその言葉に、愛は目をぱちぱちさせた。
うつむいていた顔を上げると、その瞳はキラキラと輝いて、頬はほんのりと赤くなっていた。
どうやら、ブルーの活躍に感極まっていた……ようなのだが。
「な、渚ちゃん?」
ただ、憧れの人を見る目ではない。それは、尊で散々見てきている。
これは、そういう類いの目ではない。これは、そう……知っている。
まさか、これは……
「ブルー様……」
恋する乙女の、目だ。
「渚ちゃん!?」
ぽわぽわと、渚の頭にはお花が咲いている。それを見て、愛は驚愕に陥る。
以前から、渚はブルーを好いていた……という話は、聞かない。ということは、さっきの活躍を見て、ブルーを好きになったということだ。
しかも、様付けするという徹底ぶり。
「お、渚はヒーローブルー推しか?」
「たけにぃ……私、正直今までたけにぃのこと、バカだなって思ってた。口を開けばレッドレッドって、バカの一つ覚えみたいにさ。バカなたけにぃがレッドみたいになれるわけないのに、そんなお熱になるなんてバカじゃないかって」
「お、おう……兄ちゃん今泣きそうなんだが」
バカバカ連呼されて、尊は半泣き状態だ。
シスコンである尊にはキツい……いやシスコンじゃなくてもキツいだろう。
「いいじゃん……憧れるくらい自由じゃん……てか渚もヒーロー好きじゃん……」
「でも私! わかったの! ヒーローの素晴らしさ、ブルー様のかっこよさ、ブルー様の素敵さ!
それに、さっき私と目が合ったの! これもう運命じゃない!?」
ぶつぶつとしょげる尊をよそに、渚はヒーローへの……というかブルーへの熱を語りだす。
ヒーロー好きな渚ではあったが、それは尊と比較するとおとなしいものだった。いや、比較対象がおかしいのだが。
それに、渚は人にヒーロー好きを隠す自制心も持っていた。
しかし、今の渚に、それは見当たらない。
「め、目が、合ったの……?」
「そう! 目が合って、ほほえんでくれたの!」
先ほど、愛と合ったように感じられた視線……それを渚は、自分と合ったものだと解釈したらしい。
その上、ほほえんでくれた、と。ヒーロースーツは顔が見えない仕様なので、実際にほほえんだところで、表情が見えるはずもない。
完全に勘違いである。
「あの、渚ちゃん……」
「はぁ、ブルー様……まだ、下に残っているかしら。
あぁでも、お会いしたいけど、会ったら心臓爆発して死んじゃう!」
キャーキャー、と顔を覆い騒ぐ渚。渚からのダイレクトアタックに未だ心折れている尊。
いったいこれは、どういう状況だろう。愛はただ、呆然と立ち尽くしていた。
ヒーローへの憧れを口にする人はたくさんいたが、ガチ恋した人は初めて見た。
これを恋の一言で済ませていいのか、厄介ファンに沼りつつあるのかはわからないが。
ブルーのおかげで、愛は正体を隠したままでいられた……しかし、ブルーのせいで、渚が変な扉を開いてしまった。
彼女はまだ中学生。恋に恋する年頃だし、誰に恋心を抱いても仕方がないが……
「これは、どうにかしないと……」
その後、テンションマックスの渚に連れられるまま、ヒーローグッズを売っているショップへと行った。
渚はブルーの商品をめっちゃ買っていた。
服は結局買わなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる