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第二章 ヒーローとしての在り方
第12話 ブルーの正体は誰ですか
しおりを挟む「ブルーの正体を教えてほしいの、博士」
『なんじゃ藪から棒に』
尊と渚とのショッピングを終えた愛は、帰宅後自室にてスマホを手に、ある人物と電話をしていた。
電話の相手は、博士だ。ヒーロー用で支給されているこのスマホは、博士と通話することももちろん可能だ。
ブルーの……ヒーローの正体。愛自身、こんなことを聞くべきではないことは、わかっている。
しかし、だ。
「とても重要なことなの。私の渚ちゃんのハートが、ブルーに盗まれてしまったの!」
『いろいろとツッコミたいところはあるのぅ』
今日怪人が出現した場所、その場所にブルーが急行したこと、ブルーが怪人を倒したことは、博士にも伝わっている。
そこに愛までも居たとは、寝耳に水であったが。
愛のことだから、同じ場所に怪人が現れれば、迷わず変身して怪人を倒すはず……
だが、そうはしなかった。いやできなかった。
『つまり、愛くんがラブで夢中なたけるちゃんと、その妹であるなぎさくんが居たから、愛くんは変身できなかった。
そこにブルーが現れ、彼の活躍を見たなぎさくんのハートが盗まれてしまった、と』
「そ、そうですけど……その言い方やめてください」
博士の言い回しに、愛の顔が熱くなる。
状況自体は間違っていないが、言い方がなんだか嫌だ。
そんな愛の気持ちとは裏腹に、博士はひどく冷静な様子で、言葉を返す。
『ふむ。愛くんの気持ちはわかった。
しかし、ヒーローの正体については、詮索しない。……他ならぬ、キミが決めたことじゃろ』
「う……」
『それに、逆の立場で考えてみ。わしが、他のヒーローにレッドの中身を話したら?』
「うぐぐ、それは……」
博士の正論に、愛は返す言葉もない。
ヒーロー同士とはいえ、正体の詮索をしないようにと言い出したのは、愛だ。みんなもそれに賛同した。言い出しっぺの愛がそれを破るのはまずい。
博士ならば、ヒーロー一人一人の正体を知っているはずだ。
だから、博士に聞けばブルーの正体らわかる……それを素直に、教えてくれるはずもない。
浅はかな考えだったと、愛は肩を落として……
『まあでも、ブルーについては別に、正体は隠さなくてもいいと言われてるんじゃよな』
「へ?」
思わぬ言葉に、間の抜けた声が漏れてしまった。
「それって……?」
『自ら正体を明かすことはないが、もしも自分の正体を聞かれたら答えてやっていい、と本人が言ったんじゃよ。
もっとも、聞いてきたのは愛くんが初めてじゃがの』
ヒーローの正体を聞かないのは、暗黙のルール……詮索しないのも、レッドが言い出したこと。
だからこそ、今まで誰も、聞いてこなかったのだろう。
愛だって、渚の件がなければブルーの正体を聞こうとは、思わなかっただろう。
「い、いいんですか、本当に?」
『愛くんから聞いたんじゃろう』
謎に包まれたヒーローの、正体を知る……自分もヒーローなのに、なぜだかドキドキしている自分がいる、愛。
ごくりと、つばを飲み込む。
『ブルーの本名は、羅山 邦仁。わしの息子じゃ』
「わぁ、なんだかかっこいいなま……んん?」
聞いたことのない名字に、聞いたことのない名前。なんとかっこいい名前だろうかなんて思っていた所へ、衝撃の言葉が続く。
わしの息子だと、博士は言った。
……わしの息子だと?
「息子ぉおおお!?」
『おぉお、いきなり耳元で大声出さんといてくれ。耳キーンてなるわ』
「す、すみません」
思わぬ真実に、愛は逆転してしまう。
まさか、博士の息子がヒーローだとは。思いもしなかった。
……というか、博士の名字羅山だったんだ。考えてみれば、博士の本名知らないや。名前はなんだろう。
『邦仁は、今は大学生だったかのぅ。理系の、頭のいい子でなぁ』
「へぇー」
大学生……二十前後といったところか。
そんな相手に、渚は恋をしたということになる。年齢差はそこまでないが、中学生にとって大学生とは、もう立派な大人だろう。
しかし、安心した部分もある。もしもブルーの中の人が、レッドのように女だった場合。渚は、叶わぬ恋を抱いたということになってしまう。
最近は恋愛の多様性がある世の中だが、それは一旦置いておこう。
『しかし愛くんや。ブルーの正体を知って、愛くんはどうしたいのじゃ? なぎさくんの恋のお手伝いでもするつもりかの?』
「私は……」
問われて、言葉に詰まってしまう。愛は、つい衝動的に博士に電話をして、ブルーの正体を問いただしてしまった。
なにせ、かわいい義妹のことだ。心配事は取り除いておきたい。
とはいえ、正体を聞いて……それから、どうしたいのか。
一応、愛ならばヒーローのツテを使って、ブルーを渚に紹介できるかもしれない。が……
「とりあえず、今は様子見ですね」
今は、ブルーが男だったと確認できて、充分だ。
渚は中学生だし、颯爽と怪人を倒したブルーへの憧れを恋と勘違いしている可能性も、なくはない。
それが恋だとして、明日明後日には忘れてしまうかもしれない。
今、どうこうしようと動くのは、早計だ。
『そうか』
愛の答えに、博士はどこか嬉しそうだった。
『ちなみに、今息子に彼女はいないそうじゃ。いやぁ、まさかJCに惚れられるとは、わしの息子も捨てたもんじゃないのぅ』
「あはははー」
やはり、嬉しそうな博士だった。
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