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第二章 ヒーローとしての在り方
第17話 誘いたい彼がいる
しおりを挟む恵から、プール行こうよとお誘いを受けて……愛は、もちろんいいよとうなずいた。
プールの割引チケットは四枚。メンバーは、恵、愛、そして尊。
残る、もう一人は……
「ほほぅ、山口くんねぇ」
「な、なによその顔は」
恵が指定したのは、クラスメイトの山口くん。尊とは仲が良く、よく二人一緒にいるのを見ている。
尊とは違って、おとなしめの印象だ。おとなしめで、そして優しい。
一部の女子の間では、尊と山口の姿を見てキャーキャー言っていたりするが、それはまた別の話。
「別にぃ? ただ、恵にも好きな男の子がいたんだなって。なんで言ってくれなかったのさー」
「すっ……べべっ、別に、そんなんじゃないし! ただ、ちょっと気になるだけって言うか……」
愛も愛だが、恵も恵でわかりやすい。
普段、尊とのことでからかわれている愛は、ここぞとばかりに恵をいじっていた。
とはいえ……好きな人がいる。その気持ち自体をからかうことは、しない。
「はいはい。
まあ、恵が誘いたいなら私はなにも言わないよ。誘うの頑張りなよ」
「うっ……意地悪、わかってるくせに。
アタシだけだと緊張するから、協力してほしいんじゃん」
「!」
普段、あいあい、たけたけなど、仲の良い相手には距離感の近い恵だ。
なので、気づいたことはなかったが……想いを寄せる相手には、こうも乙女になるのか。
思わず愛は、ごくりと唾を呑み込んだ。
「うはっ……あぶな。私が男だったら、たまらず襲ってたかも」
「あいあい?」
「大丈夫、そっちの気はないから」
ともあれ、誘うメンバーが決まったのなら、後は誘いに行くだけだ。
幸いにも、山口は尊と仲が良い。そのため、尊に協力してもらえば、すぐにでも誘えるはずだ。
だからまずは、愛に話を持ちかけてきたのだろう。
「それにしても、意外だなー」
「そ、そうかな」
「だって、恵と山口くんが話してるとこ、あんまり見たことないよ」
クラスメイトとして、話をしているところなら、まあ見かける。だが、それも必要最低限、といった感じだ。
あまり接点のない相手。その相手に、想いを寄せているのは、いったいどんな理由からか。
聞き出そうとする愛に、しかし恵は首を振る。
「い、いいじゃんその話はっ」
「えー、いいじゃん。山口くん誘うのに協力するんだからさー」
「んぐ……で、でも……
……う、うまくいったら、言うからっ」
「ほらぁ、やっぱり好きなんじゃん」
「あっ」
もしかして、尊に対する愛の態度は、今の恵と同じくらいわかりやすいのだろうか。
それはバレるはずだ。今後気を付けなければ。
愛にとっては、好きな人の話で盛り上がる……というのは、新鮮で、かつやってみたかったことだ。
普段からかわれることはあっても、こうしてお互いに好きな人の話で盛り上がれることはない。
なんだか、今このときこそ、女子高生を満喫している……そんな気がするのだ。
「じゃ、早速尊に話を通してみようよ」
「たけたけ?」
「どうせ二人一緒にいるから、話の流れで誘っちゃお」
昼食を終え、弁当箱を片付ける。思い立ったら即行動が愛のモットーだ。
しかし、恵はもじもじしたままだ。
「え、えっと……い、今から?」
「今から」
「……本気?」
「本気」
「で、でも……」
「伝えたい気持ちは、すぐに伝えなきゃ!」
今すぐに行こうと言う愛と、今すぐは心の準備ができていないと言う恵。
しかし、そんなことを言っていては一生誘えないだろう。
どの口が言うんだ、と恵は思ったが、あれよあれよと、愛に引っ張られていく。
そして、教室へ。尊は、やはり山口と一緒にいた。すでに昼食を食べ終え、二人で談笑しているようだ。
まずは、愛が尊に駆け寄っていく。
「ねーねー尊。プール行かない?」
「……なんだ藪から棒に」
なんだか、似た場面がついさっきあった気がするな、と思いながらも、愛は続ける。
「実は、恵が福引で、プールの割引チケットを当てたみたいでね。
人数は四人。だから、あんたを誘ってあげようと思ってね」
感謝しなさい、と、なぜか後半高飛車になる愛。
こんなところで変にツンデレをしないでくれ、と願う恵。
それを受けた尊は……
「なんだよその言い方。てかお前が当てたわけじゃないだろ。
……けどまあ、せっかく誘ってくれるんなら、ありがたく行かせてもらおうかな。竹原も、それでいいのか?」
「う、うん。もちろん!」
ちょっとムッとしたかな、と心配したが、どうやら尊は了承してくれた。
ほっとする一方、愛が肘で恵の脇腹を突っついていく。その意味は、言葉にしなくても伝わる。
この流れでいっちゃえ、誘っちゃえ……という意味だが、そんなことができれば最初から愛に協力を申し込んでいない。情けない話ではあるが。
ふるふると首を振る恵の様子を見て、愛は苦笑いを浮かべる。
やはり、きっかけ作りをしなければいけないか……と、愛は思う。
「そっか。けどなぁ……本当に、いいのか?
四人行けるなら、女子同士で行ったほうが楽しいんじゃ……」
「いいの! それに、もう一人誘いたい子は、決めてるんだから!」
「そ、そうか……」
尊の気遣いは、もっともと言える。プールの割引チケットがあるというのなら、同性同士で行った方が楽しいだろう。
しかし、そんな尊を心配をよそに、愛の視線は尊の隣……会話に入れず呆然としていた、山口に向いた。
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