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第二章 ヒーローとしての在り方
第26話 バレちゃった……!?
しおりを挟む「あいあいー!」
「わぷっ」
「もー、どこ行ってたの! 心配したよー!」
尊に手を引かれ、愛は恵、山口と合流した。
愛を見つけた恵はすぐに駆け寄ってきて、隣にいた尊を押しのけ、愛を抱きしめた。
その力強さに、恵がどれだけ心配してくれていたのかがわかる。
「ご、ごめん……」
「でも、怪我とかしてないようでよかったよ」
恵の背後から、山口が歩いてくる。
彼は、尊と比べるとやはり貧弱なイメージを受ける。まあ尊と比べると、クラスのほとんどが貧弱になってしまいそうだが。
そんな山口に想いを寄せる恵。
彼女の着ている水着は……
『うーん……うん、これいいね!
オフショルビキニ! この……フリルがついてるやつ! 色は黒!』
『く、黒かぁ……ちょっと、派手じゃない?』
『ちっちっち。男ってのは、単色かつシンプルなデザインを好むものなんだよ。
それにめぐみさんは、スラッとしててかっこいい感じだから、黒が映えると思う』
『そ、そうかなぁ……
でも、同じ水着でもいろんな種類があるよね』
『そうだね。えっと……この肩紐つきのやつ、かな。こっちのが、他のより清楚感があるからね。
この水着はセクシーに見せられるけど、逆にセクシーを狙いすぎて下品に見える、なんてこともあるから、組み合わせには気をつけないと』
『し、師匠……!』
水着選びの際、渚との間にそんなやり取りがあり……選んだのは、フリルのオフショルビキニだ。
上下ともに黒で、モデルのような恵のスタイルがよく映える。
試着したときもそうだったが、やはりプールという環境だからか、なんだか余計に似合っているようにも思える。
「ところで恵」
「なぁにあいあい」
恵に抱きしめられたままの愛は、小声で恵に話しかける。
その姿に、恵は首を傾げた。
「山口くん、なんて言ってた?」
「!? な、なな、なんでそこで山口くんが出てくるのよ!?」
「だって山口くんに見せるために買ったんでしょ」
「ぅ……」
愛からのいきなりの突っ込みに、恵は顔を真っ赤にした。わかりやすい。
これでよく、今まで個人への好意を悟られないようにできたものだ、と愛は感心する。
ちなみに本人は気づいていないが、好意を隠しきれていなかった愛とは大違いである。
「ほらほら、言っちゃいなよ」
ニヤニヤと笑いながら、愛は先の言葉を促した。
適当に誤魔化してしまいたい恵だが、そもそも山口のことが気になっている……と話をしたのは恵本人だ。
だからこれは、別に面白がっているわけではない。ただ恵の恋の行方を気にしているだけなのだ、と愛は自分に言い聞かせた。
「その……に、似合ってるって、言ってくれた。スラッとしてて、きれいだって」
「ぉおおおぉおおお……!」
普段は見せない恵の女の顔に、不覚にも愛はドキリとしてしまった。
あぁ、その場面をぜひとも見たかった。山口がどんな顔をして褒めたのだとか、褒められた恵はどんな顔をしていたのだとか。
つくづく、あの時現場にいなかったことが悔やまれる。
本当に、あの怪人は余計なことをしてくれたものだ。あと百回くらい殴っておけばよかった。
怪人はもういなかったが。
……そうだ、怪人といえば……
「そういえば尊、あの女の人はどうしたの?」
「んぁ?」
あの時、尊と一緒にいた女性。怪人に襲われそうになり、足を捻ってしまっていた。
それを、尊はお姫様抱っこで共々避難したのだ。
……尊のファーストお姫様抱っこ(多分)を奪った女だ。思い出しただけでも憎たらしい。しかも、盗っ人だ。
本来なら気にするべきではないが……それでもやはり、愛はヒーローだ。
だから、ちゃんと避難できたのか、気になる。
「女の人って、あぁ……あの足捻っちゃった人か。係員さんに届けて、そのままだよ。無事ではある」
「そっか」
よかった……と、愛はほっと胸をなでおろす。
だが……
「ところで……愛はなんで、そのことを知ってんだ?」
「え……ぁ」
それは、当然の疑問でもあった。
尊が、動けない女の人を助けた。それは事実だが、それを知っているのは尊本人と……あの場にいた、レッドだ。
愛では、ない。
愛が知らないはずの情報を、なぜ愛が知っているのか。そういう話だ。
「ん? なんの話?」
そして恵は、なんの話がされているのか理解していない。
山口も同じようだ。つまり、尊はこの話を、二人にもしていない。
ならばますます、なんで愛がこの話を知っているのだという話になる。
「……お前、もしかして……」
ふと、尊の視線が鋭くなる。
その視線を受け、愛は体の奥に熱が灯ったように……いやそれどころではなく。なにもかもを見透かされたような気持ちになった。
まさか、バレてしまった……? 愛が、レッドだということを。
これは、どうごまかすべきだろう。それとも、ごまかしきれないのだとしたら……?
心臓の音が、大きくなっていく。
次に告げられる尊の言葉を、愛は、目をぎゅっとつぶって聞いて……
「どっかで、俺があの人を運んでるところ見てたのか?」
「……へ?」
間の抜けた、声が漏れた。
きょとんと目を開いて、パチパチと何度か、まばたきをして。
「違うのか?」
「へ……あ、あぁ! そう、見てた! 見てたんだよ!」
「なんだそうか。だったら、声かけてくれよ。わざわざあれから探したんだから」
「あはははは、ごめんごめん」
尊が人を運んでいるのを、どこかから見ていた……そう、解釈したらしい。
とんでもない勘違いだが、愛は全力でそれに乗っかる。尊が鈍感で良かった。
わざとらしく笑う愛に、恵は終始、きょとんとした表情を浮かべていた。
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