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第二章 ヒーローとしての在り方
第27話 殺意にも似た感情
しおりを挟むなんとか、自分の不自然な言葉をごまかせた愛は、尊、恵、そして山口と共にプールで遊ぶことに。
怪人が現れたせいで、奪われてしまった時間。それを取り戻すかのように、愛ははしゃぎまくった。
尊と、一緒にプール。それに今回は、恵と山口もいる。
人数が増えればそれだけで楽しいし、体を動かすのも気持ちいいものだ。
「よぉし山口、次はあれ行こうぜあれ!」
「う、うん!」
ただ、はしゃぎすぎて……尊が、山口とばかり遊んでいる。
先ほど滑った、ウォータースライダー。あれを気に入ったのか、山口と肩を組んで行ってしまった。
少し疲れたので、愛と恵は休憩だ。
「ふぅー、男の子って元気だよねー」
「そ、そうだね」
水の中での動きというのは、普段よりも体力を使う。なので、体力を奪われて恵はどっとため息を漏らした。
髪から滴る水滴が、胸元に落ちる。その姿だけで、なんと色気のあることか。
一方の愛は、実はまったく疲れていなかった。
日々ヒーロー活動に勤しんでいる愛は、本人も意図しないうちに体力がついていた。
ヒーロースーツは本人の身体能力を高めるが、それで上昇した持久力は、本人に引き継がれる。
「すごいねー、あいあいは全然疲れてないっぽい」
「え、そ、そんなことナイヨ!?
は、はぁー、疲れたナー!」
「あっはは、ウソ下手かよ」
愛の棒読み演技に、恵は吹き出してしまった。
その姿に、愛も釣られて笑顔になる。
思えば、ヒーロー活動を始めてからこれほどのんびり過ごしたのは、初めてかもしれない。
いつも、いつ怪人が現れるか、気が気でなかった。もちろん、今もそうだが。
だが、先ほど怪人を倒した際、この場にはグリーンが来ている。また怪人が現れたとしても、今度は彼に任せられる。
「それにしてもあいあい、いいの?」
「なにが?」
「たけたけ、山口くんと遊んでばっかだよ。せっかくのプールなのに、遊ばなくていいの?」
「その言葉、そっくり返すよ」
「っ……」
愛をからかったつもりの恵が、愛からのカウンターに顔を赤らめた。
反撃される内容だろうに、最初からそんなことを言わなければいいのだ。
だが、恵の言うことも一理ある。
せっかくのプールだというのに、これでは結局いつもと変わらない。男同士女同士で、固まっているだけだ。
ならばなんとかして、それぞれの想い人と過ごせないものか。
「うーん、どうしたもんかなぁ」
「なにが?」
「なにがってそりゃあ……わひゃあ!?」
どうやって尊と、もっと距離を縮めるか……そう考えていたところへ、戻ってきた尊が首を傾げていた。
まさか戻ってきていたとは思わず、愛はその場で転びそうになる。
なんとか冷静を取り戻しつつ、こほんと咳払い。
「う、ウォータースライダーはもういいの?」
「おう、充分楽しんだぜ!」
尊が楽しんでくれたのなら、それはなによりだ。
「いやぁ、ありがとうね、竹原さん。まさかプールに誘えるなんて、思ってなかったよ」
「ひゃっ!? や、ややや、いい、いーのよ! これ、くらいっ、あははは!」
山口に話しかけられ、礼を言われた恵は、わかりやすいくらいに反応している。
それを見た愛は「あらまあ~」と口元に手を当て微笑むが、恵に睨まれてしまった。
四人が集まったところで、小休憩。
「あ、あそこのアイスクリーム食べない?」
「プールでアイスか。いいかもな」
愛の提案で、四人はアイスクリーム売り場へ。
それなりに盛況のようで、近くにはアイスクリームを持ったカップルや家族連れがいる。
(か、カップルだ……)
(か、カップルね……)
列に並び、自分たちの前にいたカップルを見て、愛と恵は息を呑む。
仲睦まじく話し、手まで繋いで、羨ましいことこの上ない。
やがて、前の二人の番に。二人が頼んだアイスクリームは、バニラチョコ味のソフトクリームだ。
それを、一つ。
(一つ? 二人いるのに、なんで?)
二人いるというのに、注文したアイスクリームは一つだけ……これはおかしい。
そこまで考えて、一つの結論に至った。人数は二人、しかし注文したアイスクリームは一つ。
おまけに相手はカップルとなれば……真実は一つ。
「はいみーちゃん、あーん」
「あーん。……あぁん、おいしい!
ならあーくんも。あーん」
「あーん。……ぅんん、おいしいよーみーちゃん」
「あーくん」
「みーちゃん」
「あーくん」
「みーちゃん」
((イラッ))
そう、あーんだ。一つのソフトクリームを、二人であーんしているのだ。
なんて、ラブラブなカップルだろう。年も、愛たちと変わらないだろうに。
好きな人がいて、その相手と恋人になって、食べ物の食べさせ合いっこをする。
とんでもなく羨ましく、とんでもなくウザかった。
愛は必死に自制していた。ヒーローが私的に力を使うことは許されない。
だから、目の前のカップルを殴ってはだめだ。そもそも一般人だ。蹴ってはだめだ。落ち着け柊 愛、クールになれ。
「ふぅ……危なかったぜ」
「なに言ってんだお前は」
あーくんとみーちゃんへの殺意にも似た感情を必死に抑え、愛は売っているソフトクリームの種類を見た。
定番のバニラやチョコ、それにイチゴやバニラと、他にも様々な種類がある。
こんなに種類があっては、逆に迷ってしまうが……ここは……
「おじさん、バニラ一つ」
「俺は抹茶で」
「うーんと……じゃあアタシ、アップルマンゴ!」
「ボクは……北海道あずきで」
それぞれ、やっぱり好きなものを注文した。
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