彼女はヒロインでヒーローで。訳あり女子高生の秘密は、重すぎる?

白い彗星

文字の大きさ
38 / 46
第二章 ヒーローとしての在り方

第38話 遊園地へ行こう!

しおりを挟む


 翌日……待ち合わせ場所である、駅前に尊は立っていた。
 休日のお出かけなので、当然私服だ。サイズの大きなトレーナーに、太めのパンツを合わせたカジュアルスタイルだ。肩からは小さめの鞄をかけている。

 正直、尊はあんまりおしゃれには詳しくはない。そのため……


『はぁ!? 明日あいちゃんとお出掛け!? いいなぁ渚も行きた……あ、あぁー、はいはいそういうことね。
 もう、なんでもっと早く言わないかなぁ! たけにぃの私服、いいの見繕ってあげるから!
 まさかTシャツにジーンズとか考えてないでしょうね!?』


 今日のことを知った妹の渚が、尊の私服を見立てたのだ。
 良かったのが、尊の私物にそれなりにイケる服が混じっていたことだ。

 以前渚と出かけた時、渚から勧められて買ったものだ。

「はぁ、変じゃねえかな」

 今までに着たことがないスタイルに、尊は若干不安だ。
 一応、家を出る前に鏡で確認してきたし、渚からも「まあ落第点かな!」とオーケーはもらった。

 落ち着かない様子で、尊はスマホを見た表示されている時間は、朝九時五十五分。
 待ち合わせは十時なので、五分前だ。時間にちゃんとしている愛が来ていないなど、珍しい。

 集合は駅の、噴水前に指定した。なので、迷うことはないはずだが……まさか、待ち合わせ場所か時間を、間違えたのだろうか。
 尊は、何度目かとなる確認を、しようとして……

「尊ー、お待たせー!」

 いつも聞く、活発な声が聞こえた。
 もしかして事故に……なんて考えも出てきていた尊は、ほっと一息つきつつ、スマホをしまい愛へと目を向ける。

「ったく遅いぞ愛。なにして……」

 ……そして、駆けてくる愛の姿を見て、言葉を失った。

「い、いいでしょまだ、集合時間前なんだから」

 時間に遅れたのならまだしも、まだ時間にもなっていないではないか、と愛は頬を膨らませていた。
 少し息を切らせているし、急いでくれたのだろうか。

 ゆるめのニットに、短めのキュロットスカートを合わせたスタイルの愛は、尊と同じく肩掛けの鞄を持っている。
 活発な彼女に、よく似合っていると思えた。

「……な、なによ」

 こちらから声をかけても、返答のない尊に、若干の不安を覚えて愛は口を開いた。

「あ、あぁ……なんか、いつもと違うような気がして」

「そ、そうかな!?」

 そんなに違うカナー、と言いながらも、愛は気づいてくれたことに内心ガッツポーズをしていた。
 服装も普段は取り入れないようなものだ。普段、制服はともかくスカートはあまり履かない。

 だがそれ以上に、いつもはしないことをした。それは、化粧だ。
 もちろん、自分でしたわけではない。母にお任せしたのだ。

 とはいえ、もともと素材のいい愛に、派手な化粧は逆効果だ。
 さらに、今日の予定は遊園地。活発な動きをすることが予想されるので、化粧が崩れてしまわないようナチュラルメイクだ。

(お、お母さんすごい……!)

 ナチュラルメイクだかなんだか知らないが、普段と変わらないメイクならメイクをする必要はないじゃないか、と愛は思っていた。
 実際、鏡で見た時も、いつもの自分とさほど違いがあるようには思えなかった。

 だが……実際に愛の姿を見た尊の様子は、効果ありと思えるものだった。

(てか、尊も普段見ないような服だな……)

 いつもは、もっとラフな恰好のはずだ。
 もしかして今日のために……と嬉しく思ったが、すぐに渚の顔が浮かんできて、くすっと笑った。

「な、なに急に笑ってんだ」

「ううん。渚ちゃんに選んでもらったその服、よく似合ってるよ」

「な、なんでわかる」

 やっぱり、そうだ。おしゃれに頓着な尊が、一人で服を選べるとは思えない。
 まあ、人のことは言えないが。

 渚のことだ。きっと、ノリノリで尊の服を選んだに違いない。

「じゃ、行こっか。電車乗るんだよね」

「あ、あぁ」

 待ち合わせしたのだ、ずっとここにいても仕方がない。
 今から愛たちが向かうのは、この駅から駅三つ分を移動した先にある遊園地だ。

 電車は乗り継ぐ必要はなく、近いわけでも遠いわけでもない距離にある。
 だが、その遊園地に行ったことはない。尊とはもちろん、家族とも……

 もし物心つかないほど小さい頃に行ったことがあれば、母がなにか言っているだろう。

「あー楽しみだなぁ。尊、どんなエスコートしてくれるのかしら」

「う……あんま、期待はすんなよ」

「にしし」

 わかっている。女性をエスコートとか、尊の柄ではない。
 だとしても、愛は嬉しかった。こうして、尊とお出掛けできることが。

 ……そういえばこれは、デートでいいのだろうか。
 休日に、男女二人で遊園地に遊びに行くなんて、それはデート以外の何物でもない、と恵は言っていたけれど。

 だがわざわざ、「これってデートなんだよね」と尊に確認する勇気などない。

「わ、もう電車来ちゃうよ」

 駅の構内で切符を買い、ホームへ急ぐ。
 出発時間から逆算し、余裕を持てるように待ち合わせ時間を決めていた。

 だが、若干とはいえ待ち合わせ時間より早く集合したことで、出発時間の電車は早めのものに乗ることができた。
 少し急いだが、その分多くの時間遊園地で遊べると考えれば、安いものだ。

 二人は、無事電車に乗り込んだ。

「ふぅ、危ない危ない」

「ったく、なんで待ち合わせより早く着いたのに、急ぐ結果になってんだよ」

「まあまあ、いいじゃない」

 予定通りに行かないのなんて、当たり前だ。それも含めえて、この時間を楽しむのだ。
 席は空いていなかったため、二人は吊革につかまり、談笑したりして電車に揺られる。

 窓の外で流れていく景色を、ゆったりと眺めながら。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...