上 下
10 / 114
転生魔王は友達を作る

帰宅したあとに

しおりを挟む


 さなを家へと送り、俺は一人自宅への道を歩く。
 ああいうのを、豪邸って言うのだろうか。いつか家に上がってみたいものだ。
 さすがに、初日から上がらせてもらうのも非常識だしな。

 その後は、特になにが起きるわけでもなく……家へと、帰宅する。
 すでに両親が、帰っていたのだが……

「真尾、お前、入学前に女の子に告ったって本当か!?」

「私、恥ずかしくて仕方なかったわよ!?」

 両親が、驚いた様子で問い詰めてきた。
 どうやら、俺がさなに告白したことは、両親の耳にも届いていたらしい。

 とはいえ、両親が俺の親だ、と周りにバレたわけではない。
 ただ、両親から見れば、入学前から公開告白した男は自分たちの息子、とわかっていたわけで……

 まあ、恥ずかしかったわけだ。

「いや、つい……」

「ついでやらないぞそんなことは!?」

 別に、両親は本気で怒っているわけではないのだろうが……それはもう、ものすごい勢いだった。
 やっぱりあれはやりすぎだったらしい。

 その後、告白した女の子とどうなったかを聞かれた。

「とりあえず、家まで送りはしたけど……」

「いきなり!? はぁー、昔から思ってたが、お前のその行動力はどこから出てくるんだ」

 行動力、か……どこからと聞かれれば、それは魔王時代からだろうな。
 行動力さえもなければ、荒々しい魔族をまとめ上げることなどできなかったからな。

 前世と呼べる記憶。それが、今もあってよかった。
 自分が転生した理由などわからなかったが……こうして、持っていた知識を活かすことができるのはありがたい。

 転生魔術とは、かなりの大魔術だ。
 それを自分で使ったわけではない。だとしたら、何者かの意図が働いているのか。

「…………」

 と、自室のベッドの上で、ぼんやりと考える。
 こうしたことは、今までもたまに考えることはあった。
 考えてもどうしようもないし、たとえ原因がわかったところで、だからどうしようというわけでもない。

 なってしまったものは、なってしまったのだ。
 このまま、時の流れに身を任せればいい。

 それよりも、だ。今は……

「さな……」

 目を閉じれば、浮かんでくる一人の女子の顔。
 如月 さな……これまで出会ったどの女子よりも、俺が魅力を感じた相手。

 この体に転生したばかりの頃は、まだ人間相手に気持ちが動くことはなかった。
 それはそうだ。前世で魔族だった俺は、人間の異性を好くなど、一定以上の感情を抱くことはなかった。
 それは、種族間ゆえの感性の違い。

 しかし、この体は成長することにより……俺の感性は、だんだん人間に近づいていった。
 中学に上がる頃には、もうすっかり人間と同じ感性になっていたのだと思う。

 そんな俺が、こうも心動かされたのは……彼女が、初めてだった。

「……連絡先でも、交換しておくんだったか」

 科学の発展したこの世界では、携帯電話というものが普及している。
 手のひらサイズの機械で、いつでも相手と連絡が取れるのだ。

 前世だと、離れていても魔族同士なら、頭の中で会話ができたが……
 人間にそのような芸当は、できなかった。

 向こうにはなかった、科学という力で、便利なものが増えていった。

「まあ、毎日会えるのだからな……」

 連絡先の交換……それをしなかったことを後悔するも、どうせ毎日会えるのだからと、切り替える。
 まあ、会っていきなり連絡先を聞くというのも、驚くかもしれんしな。

 そのまま俺は、着替えることもせずに眠ってしまう。
 疲れていたのだろうか……人間の体というやつは、この程度でも疲れを溜めてしまうのだな。

 その後、母親に強制的に目を覚まされた。制服のまま寝るとしわになるから、せめて着替えろとのことだ。

「……」

 とはいえ、一度起きてしまったので……俺は、散歩に出かける。
 入学式で早く学校が終わったからといって、他にやることもないしな……

「……桜も、散り始めてるか」

 学校の近くでは満開だった桜も、ウチの近くでは散り始めている。
 なんとなく、寂しさを感じる。

 ともあれ……明日から、新たな生活が始まるのだ。
 気を、引き締めなければ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:64,613pt お気に入り:2,076

いいえ、望んでいません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,100pt お気に入り:3,208

王妃となったアンゼリカ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:181,015pt お気に入り:7,855

異世界の希望・転生勇者の新たな旅立ち

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:17

聖剣を抜けなかった俺が勇者になる話

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:3

プリンセスクロッサー勇と王王姫纏いて魔王軍に挑む

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:221pt お気に入り:11

勇者たちの異世界協奏曲

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:214pt お気に入り:0

処理中です...