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転生魔王は友達を作る

うらやましい二人

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「わぁ、クレープおいしそう……!」

「女子は好きだよなー、そういうの」

 あいも変わらず、真尾とさなを尾行しているあいと流水。
 その過程で、真尾とさなが買ったクレープ、それを影から見ながら、あいは目を輝かせていた。

「いいじゃんか、甘いの好きなんだから」

「別に悪いとは言ってないだろ」

 ようやく、映画の感動から解放され泣き止んだ流水を連れ、あいはこっそりと二人の様子を伺っていた。
 あそこは、確か最近オープンしたクレープ屋さんだ。
 いつか食べに行きたいと思っていた。

 それは、さなと来ることになると思っていたが……
 まさか、会ったばかりの男の子に先を越されるとは、思っていなかった。

「欲しいなら食えばいいじゃん」

「いや、それは……」

 ここで我慢する必要などない。流水の言葉はもっともだ。
 だが……クレープ屋から二人が離れていない以上に、今食べたくない理由がある。

 尾行中に、それも鍵沼と一緒の時にだなんて。
 そんな、初クレープの思い出は嫌だ。

「いいの、別に食べたくないし」

「お前さっきと真逆のこと……は、言ってないな」

 先ほど、あいはクレープがおいしそうだと言ったのだ。食べたいとは言っていない。

 とはいえ、そこまで意固地にならなくても、とは思うが。

「うーん、さすがに食べさせ合いはしないか」

「す、するわけないでしょ!」

 箸やスプーンで、あーんならいざしらず。
 クレープなんてものを、ダイレクトにあーんするには、いくらなんでも早すぎる。

 そういうのは、もっと段階を踏んで……

「って、なにを考えているんだボクは」

 さなをエスコートしている、光矢 真尾……悪い人では、ない。
 面白い人であるのには、違いないけれど。

 自分は当時の現場にいなかったが……初対面の、それも公衆の面前で堂々と告白など、どうかしている。
 そう思ったと同時……うらやましいという気持ちも、あったのだ。

 だって、まだ名前も知らない相手から告白されるなんて、それは一目惚れというやつだろう。
 一目惚れされ、公開告白されるなど、それは女冥利に尽きるのではないだろうか。

 ……まあ、恥ずかしいことに変わりはないだろうが。

「お、二人が動き出したぞ」

「ん」

 流水の声に、意識を戻す。
 二人はクレープを食べ終えて、デートの続きといくようだ。
 あいと流水も、後を追う。

 直前、クレープ屋に後ろ髪を引かれたが……ぐっと、こらえる。
 いいさ、もっといいタイミングで、食べに来るから。

 さなと食べに来るか、それこそデートをするときのために……

「クレープで親交が深まったのか。真尾のやつ、あんな優しい顔俺には向けてくれないのに」

 嫉妬の感情のようなものを覗かせる流水。
 気持ち悪いものだ。

 そんな流水は無視し、あいは二人の後を追う。
 その後はショッピングに移り、二人は服屋や雑貨屋を見ている。

 そんな二人の姿を見ていると……いつか自分も、と、思ったりするわけだ。あいも。
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