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転生魔王は青春を謳歌する

転生した部下

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「んー、これおいしいです!」

「……はぁ」

 俺は今、ニーラとともに喫茶店に来ていた。
 あのあと、本当ならば俺がさなを追いかけたかったのだが……

 見たことのない表情のさな、それを追いかけるのに足がすくんでしまった。情けない。
 それ以上に、あいに自分に任せてほしいと、強く言われてしまった。

 ……こいつを一人にできないのは、前提だし。任せるしかなかった。

「で、ニーラ。お前は……」

 目の前でパフェをむさぼっているこの女に、俺は苛立ちをぶつけたい気持ちを抑えながら、口を開く。
 聞きたいことは山ほどある。お前がここにいる理由がその最たるものだ。

 俺の聞きたいことがわかっているのかいないのか、ニーラは口周りをクリームで汚した状態で、俺を見た。

「あ、魔王様もこれ食べますか?」

「いらん。
 ……それと、この世界でその呼び方はやめろ。今の俺は光矢 真尾だ」

「光矢 真尾……」

 のんきなものだ……こいつのおかげで、こっちは彼女を怒らせてしまったというのに。
 ……あいのやつ、かなりビビっていたが大丈夫だろうか。

 とはいえ、今はあいに任せるしかないか。
 とにかく俺は、ニーラに集中……いや……

「お前、この世界での名前は?」

「わっちですか? 新良にいら かなたです、かわいいでしょ?
 それに見て下さい、この制服!」

 ニーラ改め新良は、立ち上がりスカートの端をちょこんと摘まんでいる。
 はしたないからやめろ。

 新良が着ているのは、制服か……さっきはあまり気にしていなかったが。この制服は近くの中学校指定のものだったな。
 ということは、こいつは現在中学生の年齢で転生したのか……

「お前も、転生したのだな」

「えぇ、そうみたいです。
 わっち、魔王さ……真尾様のいないこの世界で生きていくのは、つらくて悲しくて……
 でも、見つけたんです、真尾様のお姿を! だから、わっちだって気付いてほしくて、魔力を使って……」

「……おい待て、魔力?」

 暗い表情から明るい表情に変化したり、忙しいやつではあるが……その中に、気になるものがあった。
 俺を見つけた、だから自分の存在を知らせるために魔力を使ったと……そういうものだ。

 いったい、いつどこで……
 ……いや、そういえば。体育祭の部活対抗リレーで、アンカー対決の際に魔力の気配を感じた……!

「あれは、お前だったのか」

「はい! いやー、まさか友人……あ、この世界での友人ですよ。に誘われて行った体育祭で、真尾様を見つけることができるとは。
 姿が変わっても、すぐにわかりました……それもそう、愛ゆえ……!」

「……」

 なるほどな……あの後、学内に魔力を保有している者がいないか、しらみつぶしに探した。だが、見つけられなかった。
 当然だ、魔力保有者は学内の人間ではなかったのだから。

 体育祭ならば、学外からの人間も足を運ぶ……その可能性を、考慮していなかったか。
 それに、優勝したバスケ部に関する人間ですら、なかったわけだ。

「だから、わっちは適当な人間に身体強化の魔法をかけて、真尾様にわっちの存在をアピールしたんです。
 なのに、真尾様は待てども待てども来ない……だから、会いに来ちゃいました!」

「……」

 正直、あの程度の魔力では、誰が使ったかまではわからない。使用者が新良のような、俺の部下だった者だという前提ならまだわかったかもしれないが……
 あの状況で、唐突に魔力の気配を感じて、それが誰のものかまではわからない。まあ黙っておくが。

 それに、たとえあの場で新良だとわかっていたとしても……

「お前、体育祭には制服で来ていたのか?」

「いいえ、私服ですよ?」

「……なら、お前を見つけた俺は、その後どうやってお前に会いに行けばいいんだ?」

「……はっ、確かに」

 俺の指摘に、なにかに気付いたように新良は固まる。
 こいつが、制服だったなら、その制服を指定している中学を調べることもできるが……私服では、場所を指定できるものはなにもない。

 こいつは……あぁ、バカだったな。

「ま、まあともかく。いつまでも真尾様が会いに来てくれないので、こちらから出向いた次第です」

「……それで、あれか」

 俺を探して学校まで来たこいつが、人目も……というかさながいるにも関わらず、抱き着いてきたわけだ。
 その結果、さなを怒らせてしまった。

「……真尾様、どうかしたんですか?」

 とはいえ……まあ、俺の気持ちを無視するとするならば。
 こいつは、魔王であった俺を見つけ、舞い上がった。だから、会いに来た……部下が会いに来た状況だ。こいつに悪意はない。

 だから、なにが悪いかと言えば……タイミングだ。

「とりあえず、落ち着いたら連絡をくれると、あいは言っていたが……」

 スマホの画面を見つめるが、なにか連絡があった形跡はない。ということは、あいのほうもまだ……
 あの状態のさなを任せてしまった以上、あいには今度礼をしなければなるまい。

 自分でも意図しないうちに、ため息が漏れる。

「……あのぉ、さっきの人間たちは、いったい……あ、真尾様の配下ですね!」

 俺の様子を見ていた新良が、気にしていたであろうことを質問して……自分で答えを出したのか、手を叩く。
 配下、か……まあ、魔王時代の俺を思えば、そういう考えにもなるのか?

 とはいえ、ここはきっちり否定しておく必要がある。

「配下ではない、俺の恋人と友人だ」

「あー、人間として生きるなら友人としての付き合いがいいですもんね。
 友人と……こい、びと……?」

 俺の言葉を理解した新良は、納得がいったようにうなずき……直後、言葉を止めて固まった。
 まるでそこだけ、時が止まったかのようだった。
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