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転生魔王は青春を謳歌する
意外な再会とガチギレの彼女
しおりを挟む今から帰宅……というところで、腹部に衝撃が走った。
なんということだ……俺に対する敵意なら、以前ならばすぐに察して、避けられたはず。体は人間のものでも、感覚は転生前のままだ。
この平穏な生活で、鈍ったか?
……いや、そもそも今、敵意は感じなかった……?
「ぐ、ぅう……」
その衝撃に押し倒されそうになったが、寸前のところで地を踏みしめる。
それから、衝撃の正体を確かめようと視線を下げて……
そこには、一人の少女が居た。さっき、こっちに向かって来ていた女だ。くせっ毛なのか、髪があちこち跳ねている。
それが、なぜか俺の腹に顔を擦りつけている。
「お前、誰だ……」
なんとか、言葉を絞り出すが……衝撃を受ける直前のことを、思い出す。
あれが、聞き間違いでなければ……
こいつは俺のことを、魔王様、と……?
「ま、真尾くん……?」
「!」
ま、まずい……いや、この女がどこの誰かも知らないが!
状況的には、さなの前で別の女に抱き着かれている状況だ。これは、まずいのではないのだろうか。
困惑している様子のさなに誤解のないようにきわめて冷静に応える。
「落ち着けさな、俺はこの女のことはなにも知らん。なんか勝手に抱き着いて来ただけで……」
「あぁん、魔王様のいけずぅん。
わっちとは、あんなに熱い夜を過ごした仲ではないですか」
「誤解を招く言い方をするな! ちょっと黙ってろ!」
くっそ、なんだこの女は! あいと同じくらいの背丈だが、あいよりも力強く離そうとしない!
あぁさなの表情が無になっている! あいはあいで困惑しているのか介入してこようとしない。
いったいなんなんだこの女……
……待てよ。
こいつは、俺を魔王様と呼んだ。それが聞き間違いではないと想定すると……こいつは、まさか俺と同じ世界の魔族か?
しかも、だ。さっきこいつ、自分のことをわっちと呼んだな。そんな一人称の女を、俺は一人知っている……
「お前、まさかニーラか……?」
「ふふっ」
さなとあいに聞かれないように、俺は女に話しかける。すると、女は俺を見上げ、ウインクをしてみせた。
間違いない……こいつは、ニーラ……俺が魔王だった頃、側近として世話係を任せていた女魔族……!
なんで、こいつがここに……いや、今は……
「いい加減……離れろ!」
「ひゃわぁ!」
いきなり抱き着いてきた不審者とはいえ、ただの人間相手に乱暴するわけにはいかないので激しく抵抗はできなかったが……こいつの正体がニーラなら、関係ない!
俺は体を思い切り捻り、強引にニーラを引きはがす。
「ちょっ、光矢クン!? さすがに乱暴じゃ……」
「気にするな、これでもまだ足りないくらいだ」
「そうですよぉ、魔王様はもっと激しいのがお好みですもんねぇん」
「お前黙れ!」
頬に手を当て、体をくねくねさせている。あぁ殴りたい。
というか、見慣れない制服だが……や、制服ということは、こいつも学校に通っているのか?
ともかく……くそ、今のやり取り、俺とこいつが知り合いだと勘付かれたか……?
「ていうか、さっきもだけど……光矢クンのこと、まおーさま……とか言ってなかった?」
「ま……真尾様、じゃないか? 俺は光矢 真尾だからな」
「や、だからって……
ねえ、さなちゃんはどう思ひぃ!?」
なんとか、誤魔化せないものか……やはり、厳しいだろうか?
あいがさなにも意見を求めようと振り返ったところ……喉の奥から絞り出したような、悲鳴が聞こえた。
どうしたというんだ。俺も、視線を追い……さなの表情を見る。
「……っ!」
「さあ、私にはわからないかなぁ」
なっ……なんだ、この感覚は。この感覚には、覚えがある。
そう、俺がまだ魔王だった頃。俺を殺しに来た勇者と対峙し、その力に負けて殺されるという最中に抱いたあの感覚、いや感情……
この体になって、初めて感じた……『恐怖』という感情を。
「さ、さな……これは、だな……」
「あ、私用事があるの思い出した。悪いけど先に帰りますね。
じゃあね、あいちゃん……"光矢"くん」
「!?」
俺が引き止めるのも聞かず……いや、実際には引き止めようとすることすら叶わず。さなは、背を向けて行ってしまう。
こういうのは……追いかけた方が、いい。いいんだよな。それはわかっているのに……
あ、足が……動かない……
それはあいも同じなのか、その場に立ち尽くしていた。足が震えているのが見えた。
「あ、あれ……さなちゃちゃん、がが、ガチギレ、しししてる、かも……初めて、見た……
あはは……お、おしっこ漏れちゃいそう……」
どうやら、あいすらも見たことがないようだ。今のさなの姿は。
俺は、さなが怒っているのすら、初めて見たというのに……なんだ、この恐怖は。
あの、圧力……俺ですら、伸ばした手が震えている。
「さなちゃん、恋愛関係だと、あ、あんな怒るんだ……」
「恋愛、関係……?」
「だって、どう見ても光矢クンがその子に抱き着かれたの、見たからじゃん。
し、しかも、かなりの、やきもち焼き……」
あいの見解は、こうだ。やきもち、あれがやきもちなのか!?
とはいえ、逆の立場だったら……俺も、怒ってしまうかもしれない。
その、きっかけを作ったのは……
「あぁん、なんですか魔王様、そんなに熱心に見つめられたら、わっち、わっち……!」
「……」
この、今にもぶん殴りたくなる腹の立つ顔をしている、女だ……!
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