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転生魔王は青春を謳歌する

そうだ飯を食おう

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「……いやぁー、い、いい歌声だったよな」

「う、うん! これまでに聞いたことのないような、独特的な……」

「いいからそういうの」

 カラオケからの帰り道、前を歩く鍵沼とあいは不自然なほどに明るく振る舞い、そして笑った。
 それが、俺に対するフォローのようなものに感じて、そのような気遣いは無用だと伝える。

 このような気まずい空気になってしまったのは、俺が歌を歌ったあとになってからだ。
 初めてのカラオケ、人間の姿で初めて人前で歌を披露した俺は、若干の満足感を胸に、感想を求めてさなたちに目を移したのだが……


『……あー……よかっ、たよ?』

『う、うん、初めてにしては……ね?』

『お、お見事でした、真尾くん』


 三者三様、という言葉があるが、このときばかりは三人の気持ちが一つになっていたのを感じた。三人とも俺と目を合わせようとはせず、乾いた笑顔を浮かべるばかり。
 さなですら微妙な笑顔だった。

 三人とも直接口にはしないが、俺の歌は相当下手だったのだろう。結局、俺が歌ったのを最後にドリンク飲んでちょっと駄弁っただけで出てしまった。

「し、しかしまあ、真尾にもに、苦手なものがあったんだな!」

「そ、そうだね! なんか、安心しちゃった!」

 普段仲の悪い二人が、こんなときは息がぴったりだ。
 苦手なもの、と柔らかい表現で包みこんでくれているのが、逆に気遣いを感じさせられる。

 苦手……苦手か。そうか、俺は歌が苦手だったのか。
 そういえば、魔王だったあの時代も、部下の前でちょっと歌ってみたことがあったが……あの時一様に微妙な笑顔を浮かべていたのは、そのためか。

 転生したこの体でも、歌下手なままとは……これは、もう体がどうのという問題ではない。
 俺個人の問題なのだろう。

「でも……なんだか、楽しかったです!」

 そう笑うさなは、俺を気遣うのとはまた別に、本当にそう思っているような表情だった。あぁ、好きだ。
 まあ……さなが嬉しそうなら、いいか。

 その後は四人でファミレスに入り、昼食を取る。四人がけの席だ。
 席順は、先ほどのカラオケルームと同じ、俺とさなが隣同士、対面にあいと鍵沼が並ぶ。

 当人たちは嫌そうにしていたが、恋人同士である俺とさなのことを考えてか口ではなにも言わずに黙っていた。その代わり表情がとても苦々しかったが。

「じゃあ、俺はこのハンバーグステーキセットにしよっかなー」

「ボクはミートスパゲティ~」

 とはいえ、メニューを眺めている二人はわりとノリノリであった。
 ふむ、やっぱり息はあっているようにも見えるな。

 俺たちもメニューを開き、料理を確認する。
 考えてみれば、家族と以外でこういった店に来るのは、やはり初めてだ。さなは……

「ぅ……」

 顔を、赤くしていた。どうかしたのだろうか。
 もしや、熱でもあるのか……いやしかし、そんな素振りはなかったしなぁ。

 ……なんか、チラチラと俺の顔を見てくるような気がするのは……気のせいでは、ないのだろう。

「さな?」

「ふぁい!? あ、え、えっと、私はですね……」

 俺の呼びかけに過剰な反応を示し、さなはメニューを食い入るように見つめた。
 もしや、早くしろと催促したように思われてしまったのだろうか……断じて、そんなことはないのだが。

 それにしても、この距離だとさなの顔がよく見える。白い肌、柔らかそうな頬、ぱっちりとした目、長いまつげ、すらっと伸びた鼻、ぷるんとした唇……
 こうも近いと、今まで見れなかったものがよく見え……ん? 近い……

「……もしかして、俺と距離が近いから顔を赤くしているのか?」

「はぅあ!?」

 びくっ、と肩を震わせ、妙な奇声を上げるさな。
 その反応もかわいらしいが、それではまるで図星だ、と言っているかのようだ。

「……光矢クン、すごいよねぇ。堂々と口に出すんだもん」

「男として真似……すべきところなのか、それ。悩ましいぜ」

「ん?」

「しかも本人は天然ときたもんだ」

 正面の二人は、俺の顔をまじまじと見てなにを言っているのだろうか。
 あいはともかく鍵沼、見世物じゃないぞ俺の顔は。

 なんだかよくわからないが、もしもさなが、顔が近くて顔を赤くしている……つまり照れているのだとしたら。
 それはなんだか、とても嬉しい……。

「わ、私はこれにします! はい、真尾くん!」

「おう」

 メニューを渡され、俺はそれを見る。
 ふむ、いろいろな種類の料理が並んでいるものだ。ラーメン店、カレー店などと多くの専門店も存在するが、一つの店でいろいろな種類の料理が選べるのが、ファミレスの醍醐味というわけか。

 さて、俺はどれにしようか……

「……なら、俺はこのにぼしラーメンにしよう」

「真尾、にぼし好きなの?」

「魚はわりと好きだ」

「へぇ~、美味しいよね魚。ボクも好きぃ」

「……真尾くん、魚……そうなんだ」

 全員の注文する品が決まったところで、机に置いてあったタッチパネルを操作する。
 操作といっても、あいに任せてしまっているが。カラオケでもそうだったが、今ではどこでもタッチパネルが主流なのだろうか。

「今はそうかもねー。ちょっと前、人との接触は避けましょうーってえらい騒ぎになったあたりからね~」

 と、いうことらしい。
 なるほど、人との接触を避けるため、機械による操作を取り入れることでその方法を編み出したわけか。
 人間もなかなかやるではないか。まあ、魔族ならば魔力を使えばテレパシーでちょちょいのちょいだがな。

 兎にも角にも、四人分の料理を注文。これで、あとは運んできてもらうのを待つだけだ。
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