30 / 45
第30話 運命の日を乗り越えて
しおりを挟む運命の、三日目……勇者と王都を巡り、最後に指輪を贈られたあの日。
お城に戻ってからは、取り立てるような事柄はなかった。普通にお風呂に入って、普通に夕食を食べて、普通に就寝して……
寝るまでの間に、また勇者が来るんじゃないかとも、思ったけど。私の考えすぎだったようだ。
勇者が部屋に押しかけてくることもなく、私はベッドに横になった。
そして、目を閉じて……眠りに、ついた。
『平民のお前と、世界を救うために召喚された勇者。果たして世間は、どちらを信じるかねぇ?
それに、お前は"忌み人"ってやつなんだろ? みーんなから嫌われてる、世界のお邪魔虫みたいな存在。そんな奴が、勇者に襲われましたっつって……素直に、信じてもらえると思ってんのかよ!』
『まさか! 俺がそんなこと、するはずがないだろう! 俺が、嫌がる女の子を無理やり? まさか!
それにリミャ、俺はキミだけを、愛している! わかっているだろう!?
あぁ、なんてことだ! 彼女は、少々被害妄想が、激しいようだ!』
『俺は気にしてないから、彼女を捕らえるのはやめよう。
彼女も、少し気持ちが錯乱しただけ……少し時間をおけば、落ち着くはずさ。
神紋に選ばれた勇者同士、諍いはなしにしたい。それに、キミが友人を捕らえるところなんて、見たくないしね』
『俺は、なにもしていないし……キミは、なにもされていない。そうだろう……リィン?』
「…………嫌な夢見た」
目を開ける。視界には、この数日ですっかり見慣れてしまった天井。
王城の、私に振り当てられた部屋。そこで、私は眠っていた意識から覚醒した。
夢を見た。それは、幸せな夢なんかではない。
二度と思い出したくもない、忌々しい夢。
昨日、勇者のことについていろいろ考えてしまったからだろうか。
それにしたって、前の時間軸での勇者クズセットをまとめて見なくったって、いいのに。
「あー、吐き気がする」
嫌なものだ。夢ってのは、時間が経つと忘れるくせに、目覚めたばかりのときはよく記憶に残っている。
それに、これは正確には夢ではない。記憶だ。前の時間軸での。
だから、この記憶はこの先一生、忘れられないのかもしれない。
「……っ」
きれいなはずの、身体が震える。思わず、自分で自分の身体を抱きしめる。
そんなはずないのに、まるで身体になにかが刻み込まれてしまったようだ。
部屋には……誰も入った形跡は、ない。
勇者が夜中に仕掛けてくる、なんてことも考えたりしていたが、余計な考えだったか。
「しっかりしろ、私」
王女のいない三日間。それを私は、乗り切ったんだ。
もう、百パーセント……とは言い切れないけど、勇者が私を誘うようなことは、ないはずだ。
本性を隠している勇者は、前の時間軸とはるで別人のようだ。
本性を隠しているのだから、当然といえば当然だけど。
なんにしろこれで、勇者殺しの未来は、回避できた。だから、次は……
「魔王退治の、旅か」
そもそも私が、ここにいる理由。
神紋の勇者としての役割を、果たすときだ。この手の甲に刻まれた、神紋を見る。
私の他に、五人……勇者と王女を除けば、あと三人。
王女が帰ってきたら、その三人もこの国に集結するとのことだ。
前の時間軸では、三人の顔を見ること無く、私は殺された。
今回、王女が返ってきた後に集結するのだから、前の時間軸でも同じタイミングで集まっていたはずだ。
でも、私は三人と会ってはいない。
おおかた、あんな状態だった私と、他の神紋の勇者を会わせられなかった、というところだろう。
「今度は絶対、幸せになるんだ」
魔王退治の旅は、過酷を極めるだろう。
それでも……私は、負けない。絶対に生き延びて、魔王を倒したあとの平和になった世の中で、生き抜いてやる!
カロ村に帰って、みんなと……シーミャンと、一緒に楽しく、暮らすんだ!
「神紋の勇者様、朝食のご用意ができました」
「あ、はい」
外から、ノック。そしてメイドの声。私は急いで着替え、部屋を出る。
広間に向かって、そこで勇者とともに食事をする。それは、いつもの風景……とは言い難い。いつもはここに、王女も加わるから。
その王女が、もう少しで帰ってくる。
「リィン、昨日のその、贈り物だけどさ……リミャには、内緒にしておいてくれないか。俺がリィンに贈ったってこと」
小声で、勇者が話しかけてくる。
昨日の指輪の件、内緒にしたいのだと。やっぱり、王女にやましいと思っているんだな。
正直、私が勇者の頼みを聞く義理はない。むしろ、これを勇者様からもらったのですと、王女に見せつけることで……あの顔を、屈辱に染めてやりたいと思う。
(ただ、そういうわけにもいかないか……)
もし私がそんなことをしたら、王女の怒りの矛先は贈り物を贈った勇者ではなく、贈り物を贈られた私に向くだろう。
なぜって? 前の時間軸で私の言葉は一切信用しなかった女だよ。簡単に予想できる。
あの王女にとっては、勇者の言葉が真実。勇者が白だと言えば、それは白になる。とにかく勇者のことが大好きなのだ。
だから、勇者が贈り物をしたとして、それを贈られた私に矛先が向く可能性は十二分にある。
つまり、余計なことはするなってことだ。
「えぇ、もちろん。二人だけの秘密です」
「! そ、そうだな」
あ、言い方間違えたか……二人だけの秘密なんて、なんていかにもなセリフ私は……!
食事を終え、腹ごなしに軽い運動。
ロィドの教えの下、剣の稽古を始めて……しばらくの時間が経った。
城内が、慌ただしくなってきたのだ。
この様子は、おそらく……
「国王様、王女様が戻られたわ!」
やっぱり……国王と王女が、戻ってきた!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる