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第三章 変わったことと変わらないこと
第109話 体育祭があります
しおりを挟む「さて、今年も体育祭の時期がやって来たわけだが」
ある日のホームルーム。教卓に立つムヴェルの言葉により、クラスは歓声に包まれる。
うるせーな、と耳を押さえていた達志だが、それだけテンションの上がるイベントなのかと、認識する。
それはそうだろう。体育祭といえば、学校イベントの中でも、大きな部類に入る。
もちろんみんながみんな、楽しみにしている訳ではないだろうが。
誰しも運動が得意なわけではないし、得意でなければ嫌になってしまうだろうから。
だが……少なからずこのクラスの中に、あからさまに落ち込んでいる者はいない。
それほどまでにみんな、体育祭が好きなのか。
このクラスになって、一ヶ月以上が過ぎた。
季節はまだまだ夏真っ盛りで、最近じゃ虫が湧いたり手のひらサイズのセミが鳴いていたり、奴らの動きも活発化している。
「なあ、この学校の体育祭ってどんなんなんだ?」
と、達志は隣のヘラクレスに問いかける。体育祭と言えば去年(実年としては十年前)経験しているが、果たしてそれと同じ内容なのだろうか。
仮に内容が変わったのだとしても、スポーツに大きな変更はないだろう。
せいぜいが、魔法ありきな体育祭だと思うが……
「体育祭は、五チームに別れての競争になる。基本的な競技は、タツが知ってるのとほぼ同じだろうけど、違うのはやっぱ魔法や特殊能力ありありってとこだな」
やはり、魔法ありきなのか。特殊能力とは、ルーアのサキュバス化のようなものだろう。
さすがに全校生徒の前で、あんなえろえろな格好にはなるまい。まあ、あくまで一例だ。
魔法ありきだと、使えない奴が不利になると思われがちだが、その不公平さをなくすためにも、チーム分けは重要なものになるのだという。
もちろん仲良しで固まるわけにはいかない。かといって、全校生徒全ての魔法の実力を個人が把握するのも、無理な話だ。
よって、チーム分けは先生たちによって決められるらしい。
「へぇ、楽しそうだな」
魔法ありきの体育祭。この響きに、テンションが上がらないわけがない。
達志自身は魔法は使えないが、それでもなんだかファンタジー的なアレに、ワクワクすっぞ。
「体育祭の後は夏休みが待ってるしな。そりゃみんなテンションも上がるさ」
「夏休みかぁ」
お祭り後の長期休み。このコンボが、みんなのテンションを底上げしているのだろう。
達志が目覚めたのは七月、それから諸々あって復学し、さらに一ヶ月が経ったことで、今は九月。夏休みにしては遅めだと思う。
ともあれ、みんなが喜ぶその気持ちはわかる。実際、達志もそうだ。
今からでも、夏休みが待ち遠しくすらなる。
その前に、体育祭だが。やるからには勝つ、それが達志のモットーだ。
「しかし、クラスでわかれるんじゃないんだな。ちょっと意外だ」
てっきり、一年の一組は赤、二組は青、といった具合にわかれるのかと思っていたが、どうやら違うらしい。
一人一人が、それぞれのチームにわかれることになる。
だから達志が赤、リミが青、ヘラクレスが白……なんて、バラバラになってしまうこともあるかもしれない。
学年の違う人たちと、一緒の組になる。
これも、教師側の狙いらしい。
学年もクラスも違う人たちと協力することで、コミュニケーションの幅を広げよう云々。
「チーム分けについてだが、後日の発表だ。詳細は追って連絡する」
さらに、チームが発表されるのは、本番の数日前だ。
というのも、事前に知っておくよりもちょっと前に知らされた方がより、他者との対応力が計れるとか。
残り一ヶ月で伝えられるのと、残り数日じゃ全然違う。
数日じゃ、クラスはともかく学年が違う人と会う時間は、そんなに取れない。
だからこそ、初めて会った人間相手にもどれだけの対応力で当たれるかが、狙いらしい。
事前に知っておいて、仲を深めておく……それは残念ながら、無理なようだ。
「というわけで、日付は貼り出しておくから……」
「はい! 私、タツシ様と一緒がいいです!」
…………………………
「日付は貼り出しておくから、確認しておくように」
「「「はぁい」」」
「無視!? まさかの無視ですか!?」
リミの提案、というか願望は、当たり前のように却下された。
「モテモテじゃんかタツぅ」
「あっはは……そんなんじゃないって」
モテモテ、とはいっても、リミはただ命の恩人である自分に、好意的に接しているだけなのだ。
それだけのこと……達志は、思う。達志自身も、好かれたいからという理由でリミを助けたわけではない。
というか、そんな理由で命はかけられない。
だから、好意的なのはわかる。が……こうやって接してくれるのは嬉しいが、これほどまでにぐいぐい来られると、困惑もしてしまう。
「まあリミじゃないけど……やっぱ、知ってる奴と同じチームになりたいよな。人見知りしちゃうよ」
「タツって人見知りとかするキャラだっけ?」
失礼な。これで結構ガラスハートなのだから、見知らぬ人相手だとうまく喋れなかったりする。
「チームの発表はまだ先。ってことは、個人的に特訓とかしろってことか、徒競走とか」
「そういうこったな。見知らぬ人たちとチームを組み、限られた時間で戦術を決めたり、チームワークを深めていく。将来を見据えてってのもあるんだよな」
「将来ねぇ……」
学生だからと、好き勝手にチームを分けることはできない。
将来的なことを見据えるなら、むしろ知らない人たちとどううまく絡んでいくかを、考えた方がいいだろう。
そんなお堅い理由が全部ではないだろうが、それも一部分なのは確かであろう。
「ま、味方になったらよろしく、敵になったらお手柔らかにってやつだな」
「あぁ、本当にそう思うよ」
このスライム、ヘラクレス……ずっと隣の席にいるのに、全く底が見えない。
リミやルーアですら、見ている部分では大抵わかってきたのに。
魔法の威力もそうだし、そもそもルーアの魔法が効かない体を持ってる時点で、得体がしれないし。
なんか他にも変な能力を持っていそうだし。
本当に、お手柔らかに願いたい。
だからできることなら、ヘラクレスとは同じチームになりたい。
……なんて考えていると、変なフラグが立ってしまう気がする。ここは一つ、祈ることもせずに、ただ無心でいよう。
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