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第四章 激動の体育祭!

第144話 思わぬ伏兵(料理)

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 並ぶお弁当に、思わずよだれが出てしまいそうだ。
 果たしてこれを、二人で作ったのだろうか?

「ですが、作ったのは私たち二人だけではありません」

「へ? そうなんだ」

 と、達志の疑問を汲み取ったかのように答えるセニリア。その言葉に、目を丸くする。
 二人だけではない……つまり、他にも料理作りの参加者が、いるということだ。

 達志はもちろん違うし、リミも違う。
 本人は作りたかったようだが、生徒だから体育祭に集中してほしい(というていで、リミに作らせるわけにはいかない)ので断っている。

 そうなると、残るはさよなだ。まさか彼女も協力してくれていたとは、ありがたい話だ。

「そうなんだ。じゃあ手伝ってくれたんだな、さよ……」

「そう、彼のおかげでこれだけのものを作れました。タケル殿の助力あってこそです」

「そうそうたけ……はぇ?」

 残る女性陣の構成から、てっきりさよなだとばかり思っていたため……
 まさかの名前に、達志の動きが止まる。そして、ロボットのように首を、猛の方へと動かして……

「……マジ?」

「マジだ」

 平然と答える猛。みんなの反応から、それが嘘では、ないことがわかる。

「「えぇええええ!?」」

 驚く達志とリミの声が、こだました。

「そ、そう……た、猛くんの手作り、お弁当……なんだよね。ハァ、ハァ……」

「ウェイトウェイト、落ち着けさよな。ちょっと気持ち悪くなってるから」

 猛(単体ではないが)の料理を目の前に、わなわな震えている人物がいる。さよなだ。
 ちょっとと表現したが、ちょっとどころかだいぶ気持ち悪くなっている彼女は、まるで変態みたいだ。

 必死に抑えていたのだろう、しかしそれが猛の作ったものだと改めて知らされ、興奮してしまったらしい。
 さよなほどはいかないが、少なからず達志も動揺しているのは、確かだ。

「猛料理できたのか……」

「うん、私も知らなかったよ」

「ん、さよなは知らなかったのか?」

「う、うん……今回、初めて知った」

「へへ、男の一人生活なめんなよ? それに毎日コンビニ弁当とかじゃ飽きるし、栄養もな……だもんで、自炊してるわけよ」

 驚きを語る達志とは対照的に、猛はどこか自慢気だ。
 達志の知る猛は、料理どころか家事の一つもできなさそうな、おおざっぱな性格であった。しかも、こんな繊細な料理ができるようには、思えなかった。

 もちろん、みなえとセニリアと一緒に作っただろうとはいえ。
 ……想像したら、なかなかに面白い絵だ。

 大工である彼はどうやら、自作の弁当を職場で食べているらしい。
 栄養はもちろん、精のつくものを重点的に。それが、同じ現場の人にも好評なのだとか。

「今じゃ同僚や先輩、後輩にもおかずを分けてやる毎日だから、多目に作る習慣がついちゃってなー」

「食べ盛りの子供持ったおかんか!
 ……けど猛がまさか料理なんて……あたい嬉しい!」

「お前こそおかんか! てかなんのキャラだよ」

 見た分には、どれも美味しそうである。

 この大柄の男が、こんなにも繊細な料理を作ることができるのか、と失礼なことを考えつつ……
 談笑もそこそこに、いい加減抑えきれない腹の音がうるさいので、食事を始めるとしよう。

「じゃ、いただきますか!」

 それぞれ合掌し、箸を手に、おかずを取る。
 まずは、母の作った卵焼き……うまい。次にセニリアの作った野菜の肉巻き……うまい。

 続いて、猛の作った魚の煮付け……

「おぉ、うまい!」

「ホントだ、美味しいよ猛くん!」

「二人の料理にも引けを取らない……少なくとも、ウチの専属シェフにも引けを取りませんよ!」

「おいおいそんな誉め殺すなって、照れる」

 母とセニリアの料理の腕は知っていたが、まさか猛も、二人に引けを取らないとは。
 大工で男臭いかと思いきや、こんな美味な食事を作れるとか、どんなポテンシャルだろう。

 さよななんか、さっきから猛の手作りばかり食べている。

「しっかし……今の時代、料理できる男ってのはモテるんじゃないの?
 そこんとこどうなのよ色男」

「!」

「って言われてもなぁ。仕事柄女っ毛はないし、飯作れるっていっても、腕奮う相手がいないんじゃなぁ」

 美味しく猛の手作りを食べているさよなのためにも、ここはそっち方向の話題を掘り下げてみようと思う。
 そしてさよな本人にも、もっと危機感を持たせてやろうと思う。

 とはいえ、どうやら異性との関わりは、今のところなさそうだ。嬉しいような、ちょっと残念なような。
 聞き耳を立てているさよなが心配するようなことは、なにもなさそう……

「それにしても、セニリアって手先器用だよなぁ。どうやって巻いてんの、これ」

「よかったら、今度教えますよ。そんなに難しくはないので」

「んん?」

 ……そう結論付けようとしたところへ、なにやら聞き捨てなはない会話が聞こえてしまった。
 会話の元を探る。確認すると……猛とセニリアの二人が、仲良さげに話しているではないか。

 これは、どういうあれだろう。達志の知らない間に、猛とセニリアが仲良くなっている。
 いや、多分さよなも知らない。なんだろうこれ。
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