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第四章 激動の体育祭!

第148話 エンターテイナー大事

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 部活対抗リレー。その種目に参加する達志たちテニス部。
 準備を終え、種目開始を待つ中、話しかけてきたのは魔法部所属のルーアだ。

 部活対抗リレーに出るための人数が、魔法部には足りない。
 そのため、外部から助っ人を呼ぶ形となった。その助っ人というのが……

「ヘラかよ……」

 ルーアが指差すのは、トラックの半周先の位置……そこに、出場する生徒たちの半数が並んでいる。
 トラックの半周を一人で走り切るこの種目に、スライムのヘラクレスも参加しているのだ。

 これまでに、よく行動を共にしてきた。同じクラス、隣の席であれば、必然的に絡む頻度も多くなる。
 リミを除けば、達志にとって一番身近に絡んでいる人物ともいえる。

 そんな彼であるが、これまでを見る限りわその移動方法は『跳ねる』というものだ。
 ぴょんぴょん跳ねて、移動する。最近は、達志の頭の上がお気に入りのようだが。

 しかし、この部活対抗リレーで、誰かの頭の上に乗って移動、なんて方法は認められないだろう。
 ならば、跳ねて走るのか? それでは、移動速度が出ない。

「まさか、出場したいがために、誰でもいいから参加させたのか?」

「失礼な! ヘラはすごいんですよ!」

 ヘラクレスを連れてきたであろうルーアは、達志の言葉に心外だ、と言わんばかりの表情を浮かべる。
 部活対抗リレーに参加し、部活の名を挙げる……そのために、ヘラクレスを参加させたのではないか。

 名を挙げるもなにも、参加しなければ認知すらしてもらえない。
 なので、とりあえず人数だけ合わせてやろう、という考えがあっても、不思議ではない。

 そんな疑問が、達志の中に浮かんでは、消えていく。

「……そういやあいつ……」

 ふんがー、と怒るルーアをよそに、達志は思い出す。
 ヘラクレスはそもそも、スライムの体でありながら腕を生やせるのだ。実際に見た。

 ならば、足も生やせてもおかしくないし……ヘラクレス自身、去年は足を生やして走ったと言っていた。
 その際、会場がすごい空気になった、とも。

「ヘラって、そんな足速いの?」

「む……ええ、ああ見えて、結構足が速いですよ」

「そうだな。正直、運動部に入っていないのが不思議なくらいだ」

「へぇえ」

 ルーアだけでなく、マルクスも、ヘラクレスの足の速さに言及している。
 ともなれば、言葉の信憑性も増す。

 そうこうしている間に、部活対抗リレーの準備が整ったようだ。
 第一走者が、それぞれ位置につく。

 テニス部からは、部長であるヤーが先陣を切る。猫顔の獣人である彼女は、部長だけあってテニスの成績もかなりいい。

「走るのはやっぱり、二足歩行なんだよな」

「当たり前だろう」

 なに言ってんだこいつ、みたいな表情で、マルクスは達志を見る。
 片手にはラケット、その上にはソフトボールが乗っかっている。

 達志もやったことがあるが、ラケットの上でボールをバウンドさせたまま走るのは、意外に難しい。
 他の部活も、それぞれの部活を象徴するような装いだ。

 いざ、位置について……一斉に、スタートした。

「おぉ……」

 出場参加する側ではあるが、達志にとってそれはなんとも見応えのあるものだ。
 それぞれの部活メンバーが、ただ走るだけではなく、その部活の道具を用いて走り出す。

 サッカー部やバスケ部はボールをドリブルし、柔道部は前転からの受け身を繰り返し進む(マットは敷いてある)。
 面白いのが、魔法部だ。魔法部のメンバーは、自らを発光させながら走っている。

「なにやってんのあれ」

「とりあえず、なんか魔法使いながら走ればいいんです」

「雑すぎない!?」

「ただ、ポイントがあって、誰でも知ってるような魔法じゃなく、物珍しい魔法を使わなければならないんです」

 ただ走るだけでなく、エンターテイナーを大事にする。
 そのため、観客を楽しませるための魔法を使いながら走るのが、魔法部のやり方だ。

 なんでもいいが、見る方も走る方も、楽しければオーケーだ。

「けど、助っ人のヘラ……はともかくとしてよ。
 ルーアは、どうやって走るんだよ」

「ん?」

 そもそも魔法部ではないヘラクレスは、無理に魔法を使って走る必要はないのかもしれない。
 本人曰く、土属性の魔法を使うようだが。

 だが、それよりも気になるのはルーアだ。
 魔法が使えないことはないが、魔法を使うイコール全力の一撃になってしまう。ので、この場で使えば辺り一帯更地だ。

「私は、特別に魔法を使わずに走ることを認められているのです」

「諦めたなこりゃ」

 ルーアの魔法の威力を知っている者なら、気軽にルーアに魔法を使わせようとは思わない。
 認められているとは言ったが、多分魔法を使わせることを諦めた結果だろう。

 魔法部の、それも部長なのにそれはどうなんだと思ったが、下手に刺激して魔法を使われてもたまらないので、なにも言わない。

 そうこうしている間に、第二走者マルクスが走り出した。
 ガッチガチの不良見た目が、ラケットからボールを落とさないよう慎重に走る姿は、なんだか面白かった。

「お、次はヘラの番ですよ」

 魔法を使う、という制約のみで走っているため、運動部ではないとは言え、魔法部の順位は速い。
 そして、次のランナーは第三走者……すでにスタート位置に立っている、ヘラクレスの姿があった。

 ……スタート位置に、"脚を生やして"立っていた。長い脚を。
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